男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ

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第57話 ドライブ

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 母さんが運転する車が走る。

「この前の任命式、かなり高級そうなホテルでビックリしたよ。会場だけじゃなく、控室も広くて」
「へぇ、そうだったの。凄いのね」

 この前あった任命式についての話を聞いてもらった。興味深そうに話を聞いてくれるので嬉しい。僕だけじゃなく、母さんの話も聞きたいと思って話を振ってみたり。

「母さんの方は、どうなの? 最近、何か変わった事とかあった?」
「うーん、そうね。最近は仕事が忙しかったから、特に何もないかな。だから今日は温泉に浸かって、ゆっくり休みたいわね」
「そうだね。僕も、ゆっくりしたいかな」

 疲れている母さんに運転してもらうのは申し訳ない気持ちになるけれど、まだ僕は運転免許を取れない年齢だから。さっさと取りたいけれど、取得するのは来年になるかな。しかも、学業に仕事に忙しそうだから最速で取るのも難しいかも。

 免許を持っておけば、今回のような旅行の時に僕も車を運転できる。だから免許は必要だと思っていた。

 とにかく今は、母さんに任せておく。宿に到着したら、存分に休んでもらおう。

 そんな会話をしながら、車は目的地に向かって走り続ける。高速に乗って、走っているとサービスエリアが近づいてきた。

「ちょっと早いけど、お昼にしましょうか。お腹は空いてる?」
「うん。実は、ペコペコなんだよね」
「よし。じゃあ、ここで何か買っていきましょうか」

 サービスエリアに入って、駐車場に車を停める。車外に出ると、風が吹いていた。日差しが強いけれど、涼しい風のおかげでそこまで暑く感じなくて快適だ。

「トイレは大丈夫?」
「うん。行っておこうかな」

 サービスエリアのトイレに行ってみると、女性トイレの方は行列ができていた。しかし、男性用トイレは特に並んでいる人は居ない。

 中に入ってみると、誰も居ない。本当に利用者が少ないんだろうな。それなのに、しっかり清掃が行き届いていた。さっさと済ませて、僕はトイレから出た。

「ふぅ……」

 しっかり手を洗って、ハンカチで水気を取る。そして、母さんが出てくるのを待つ。行列があったから、少し遅いかもしれないな。そんな風に思いながら待っていると、声をかけられた。

「あ、あの……」
「はい?」
「えっと、七沢直人さん、ですよね? あの、宣伝大使に任命されて、テレビとかに出ていた」
「そうですけど」

 とても美人な女性が2人、恐る恐るといった様子で話しかけてきた。僕が答えると、彼女たちは満面の笑みを浮かべて喜んでいた。

 実は、今まで外で女性から声をかけられたことが一度もなかった。初めての経験。珍しいと思ったが、宣伝大使で知名度が上がった影響なのかな。

「やっぱり!」
「凄い、こんな場所で出会えるなんて!」

 まるで、有名な芸能人に出会ったかのように興奮している彼女達。こんな反応をされるなんて予想外だ。久遠さんから大反響だったと聞いていたが、実感した。こんなに知られているなんて。

「あ、握手とかって……、お願いできますか!?」
「私も! いいですか!?」
「え、えぇ……。別に、構いませんけど」

 握手なんて、本当に芸能人のような気分。2人の勢いに押されつつ、僕は手を差し出す。すると、ギュッと力強く握られた。

「本当に、ありがとうございます!」
「一生の思い出になりました!」

 あまりの喜びように、苦笑いしか出てこない。だが彼女達は、そんな僕の言葉など聞こえていないようだ。

「これからも応援していますッ!」
「頑張ってください!」
「えっと。ありがとうございます?」

 突然、見知らぬ女性に応援された。何とも言えない気分のまま、彼女達が離れていくのを見送る。すると今度は、若い女性たちが駆け寄ってきた。

「あの、私も! 握手を」
「私も!」
「お願いしますッ!」
「え、いや。ちょっと」

 一気に周りを囲まれてしまった。これは、ちょっと対応を間違えたかもしれない。まさか、こんな事になってしまうなんて。その時、母さんの声が聞こえてきた。

「ごめんなさい。プライベートなので!」
「あ、母さん」
「直人、こっちに」

 母さんに助けられて、その場から離れる事が出来た。女性達は追ってこなかった。手を握り、体を寄せて歩く。

 騒ぎを起こしてしまった。そんなつもりじゃなかったんだけど。

「ごめん、母さん」
「大丈夫、謝る必要はないのよ。大変だったわね」
「うん、びっくりした」

 怒られることはなく、優しく労ってくれた。

 その後、売店に移動して昼食を購入する。話しかけられることはなかったけれど、周りに注目されてフードコートで食事するのは無理そうだった。なので車に戻って、車の中で食べることに。

「はい。これが、直人の分」
「ありがとう、母さん」

 購入した料理を受け取る。焼きそばと、お好み焼き。それから、串焼きに串唐揚げなど。他にも色々と買ってある。母さんは、僕がよく食べることを知っている。だから、大量に買い込んでくれていた。

「美味しそう!」
「ふふっ。いっぱい食べなさい」

 車の中で食べる料理は、また一味違っていた。こういう雰囲気も良いものだ。

「じゃあ、行くわね。ちゃんと、シートベルトを締めてね」
「うん、お願い」

 さっさと食べ終わった母さんが、車を発進させる。僕は食事を続けながら、母さんとの会話を楽しんだ。
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