男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ

文字の大きさ
上 下
16 / 60

第16話 これから先 ※市本花怜視点

しおりを挟む
 目の前に座る彼は、注文した料理を次々と口に運んでいく。どれも美味しそうに、そして楽しげな表情を浮かべて食べていた。

 何品も注文して、ちゃんと食べ切れるのか心配だったけれど、その心配は無用だったようだ。

「よく食べるね」
「はい。食べるのも、好きなんですよ」
「なるほど。遠慮せず、いっぱい食べな」
「ありがとうございます! 美味しいです!」

 普段からよく食べているらしい。ちゃんと食べているからこそ、他の男性に比べて体つきが良いのだろう。

 見ているだけで十分に満足するような気持ちの良い食べっぷりだ。もっと美味しい料理を食べさせてあげたい、と思ってしまう。

「ケーキも注文していいですか?」
「いいよ。どんどん食べな」
「ありがとうございます」

 笑顔で感謝を告げながら、彼は手を挙げて店員を呼んだ。そして、ケーキを注文する。本当にすごい食欲だ。

 カフェでの休憩を兼ねた食事も終わり、観光スポットの散策を再開した。かなりの時間を彼と一緒に歩き回っているうちに、夕方になっていた。そろそろ、七沢くんを自宅に帰さないといけないだろう。

 だけど、もう終わってしまうのか。とても楽しい時間だった。夢に見ていた、男性とのデート。その理想が、今まさに実現している。それが終わってしまう。悲しい。けれど、これ以上は無理に引き留めることもできない。

 今日という日を忘れることは無いだろう。この思い出があれば、これから先どんなことがあっても耐えられる。それほどの体験ができたのだ。

 私は、彼に言う。

「家まで送っていくよ」
「ありがとうございます」

 楽しくて幸せな思い出の場所を後にして、再び彼を車に乗せる。そして、彼の自宅まで送り届けた。

「この辺りで、降ろしてくれると大丈夫ですよ」

 住宅街に入っていく道路の前で、彼が言った。こんな所で降ろしてほしいと。まだ自宅までは、距離がありそうだけど。

「ここで降りるの? 自宅の前まで送らなくて大丈夫?」
「大丈夫ですよ。実は、この辺には信じられないくらい多くの監視カメラが設置してあるんで」
「そうなんだ」

 自宅の場所までは知られたくないのかな。今までずっと女性に対する警戒心が薄い子だと思っていたけれど、やっぱり彼も男性だったということか。

 それとも、警戒されているのか。知らないうちに何かやってしまって、七沢くんの気分を害してしまったとか。そんな不安を感じてしまう。そうだとしたら、最悪だ。こんな、別れ際になって。

「それじゃあ、ここでお別れですね」
「そうだね」

 次は、無いかもしれない。そう思った時、彼がスマホを取り出して言った。

「連絡先を交換しておきましょう」
「え? 連絡先?」

 つまりそれは、次の機会があるということなのか。

「そうです。スマホは持っていますか?」
「あ、うん。スマホは持っているけど……」
「じゃあ、連絡先を交換しましょう」

 そう言われて、私は七沢くんと連絡先を交換した。このスマホに、初めて男性の連絡先が記録された瞬間だった。

「これで連絡先の交換は完了です。また、遊びに行きましょう」
「えっと、うん。……また、誘って」

 まさか、また会うことができるなんて。嬉しい。嬉しくて泣きそうになる。向こうから誘ってくれたことも嬉しかった。ここは強引に女らしく、私の方から誘うべきなのかもしれないけれど、とにかく嬉しかった。

 今日の出会いは奇跡だった。最初から最後まで、とても満足。満ち足りた気分で、彼を見送ろうと思った。

 その瞬間、彼の顔が急接近してきた。私は驚いて、何も出来ずに固まっていた。

「え? え!?」
「それじゃあ、また」

 頬に、今まで感じたことのない感触があった。何かが触れた。唇? これは……、キスされた? え、なんで。

 私が混乱している間に、彼は車から降りて行ってしまった。遠ざかっていく背中を見つめながら、今のは何だったのだろうと必死に考える。そうか、私は彼にキスされたのか。実感した瞬間に、顔が熱くなった。彼にキスされた部分が特に、熱くなっている気がする。とんでもない経験をした。

 しばらく、車の中で呆然としていた私。楽しかった一日を振り返って、余韻に浸っていた。

 すると、スマホが鳴った。電話ではなく、誰かからのメッセージ。

――――――――――――――――――
 七沢です。家まで無事に帰ることができました。

 今日は遊んでくれてありがとう! 一緒に見て回れて楽しかったです。花怜さんと一緒に美味しい食事が出来て、家まで送ってくれて嬉しかったです。

 また花怜さんとデートに行きたいです。次は、花怜さんの行ってみたい場所に連れて行ってほしいな!
――――――――――――――――――

 七沢くんからのメッセージだった。早速、送ってきてくれたらしい。急いで返さないと。だけど、なんて返そうか。

――――――――――――――――――
 市川です。私も今日一日、とても楽しかったです。
 また、遊びに行きましょう。
――――――――――――――――――

 返信の文面を10分ほど悩んで、書いては消し、書いては消しを何度も繰り返していた。結局、無難で面白みのない平凡な返信しか出来なかった。何も返さないのは、もっと駄目だ。だから、こんな平凡なメッセージを送るしかない。今の私は、こんな事しか書けない。余計なことを書いて、嫌われたりしたくないから。でも逆に、印象が悪いかもしれない。いや、でも……。

 これぐらいの事で、七沢くんが私のことを嫌いになったりしないだろう、と思えるぐらいには親しくなれたと思う。だけど、ツマラナイ女なんて思われてしまうかも。次は絶対に失敗しないように、もっとちゃんと準備をして。彼を楽しませる。

 これから、彼との関係は続いていく。

 私は、夢だった素敵な男性と出会うことができた。もっと仲良くなりたいと思っている。そして、いつか彼のパートナーになれるように。

 私の次の目標が決まった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます

neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。 松本は新しい世界で会社員となり働くこととなる。 ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。 PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。  その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。  すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。 「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」  これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。 ※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

男女比1対99の世界で引き篭もります!

夢探しの旅人
恋愛
家族いない親戚いないというじゃあどうして俺がここに?となるがまぁいいかと思考放棄する主人公! 前世の夢だった引き篭もりが叶うことを知って大歓喜!! 偶に寂しさを和ますために配信をしたり深夜徘徊したり(変装)と主人公が楽しむ物語です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美醜逆転世界で治療師やってます

猫丸
恋愛
異世界へとやってきて半年。 トーワは女神さまから貰った能力でヒーラーとして治療院を開いていた。 しかし、やってくるのは容姿の整った卑屈気味な美人ばかり。なぜならその世界は美醜の価値観が逆転した世界だったからだ。 どんな不細工(トーワから見た美人)にも優しくする彼は、その世界の不細工美人の心を掴んでいくのだった。 ※重複投稿してます。内容に違いはありません。

処理中です...