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第14話 緊張の連続 ※市本花怜視点
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「何か飲みますか?」
「あ。じゃあ、コーヒーを……」
席に座ると、彼は立ったまま聞いてきた。わざわざ用意してくれるらしい。男性に飲み物を用意してもらうなんて久しぶりのことだった。咄嗟にコーヒーと答えた私。
コーヒーメーカーで、豆から挽いて入れてくれるらしい。慣れた手つきで、入れてくれた。良い香りが部屋に充満する。そこまでしてもらうのは、初めてのことだった。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます……。んっ……美味しい」
苦味が強いけど、それが逆に心地よい。身体の中から温まる感覚だった。昔、父にコーヒーを入れてもらった記憶が蘇ってきた。その時はインスタントのコーヒーで、苦味や酸味が強くて子供の私は飲むのに苦労した。砂糖を大量に入れて甘くしてから残さず飲み干したのを覚えている。
私の両親は、かなり仲が良かった。父親にベッタリだった母親。父親の言うことは何でも聞く母親で、父もそんな母を愛していたと思う。
それが、世間一般ではなかなか珍しい関係だという事を知ったのはしばらく経ってからのことだった。
父と母の関係に憧れて、私も仲良くなれるパートナーを探し続けてきた。しかし、そんな相手と出会えるのは稀なこと。残念ながら、そう簡単に出会うことは出来ないのが現実。
私は、その奇跡的な確率を掴むことが出来ずに今まで来てしまった。このまま、無理なんだろうと諦めかけていた。
だけど今日、奇跡的な確率を私は引けたんじゃないのか。今目の前にいる相手が、私の理想のパートナーになってくれるかもしれない。
「職員の人から、お話は聞いていますか?」
「あ、はい。聞いています」
私は、ちゃんと話せているのか。この答えで間違いなかったか。男性と会話をするなんて、これも久しぶりのこと。とにかく落ち着いて、彼の声を聞き逃さないようにする。そして、変な言葉を口に出さないように気をつける。
「それじゃあ、早速行きますか。デートに」
「ッ! はい、お願いします。デート」
デート。その言葉に、がっつかない。落ち着いた姿で受け答えする。欲にまみれた女性なんて、男性から一番嫌われてしまうから。やたらと距離感を近づけようとする女性は嫌われてしまう。特に何とも思っていない女性から距離感を詰められることほど、男性にとって恐怖に感じることはないらしいから。
いや、でも。向こうからデートに誘ってくれた。それなら、少しぐらいは好意があるんじゃないのか。ダメダメ。焦っちゃだめだ。ある程度の仲が深まってからじゃないと、距離を近づけちゃいけない。いきなり近づく女には男は警戒心を抱くものなのだから。
そんなことを考えているが、彼には気づかれないように平静を保っているつもりである。だが、内心では心臓が爆発しそうなくらいドキドキしている。こんなにも緊張するのはいつ以来だろうか。大変な手術を任されたときも、ここまで緊張しなかった気がする。
彼の後について行く。ただそれだけなのに。まるで初めての場所に行くような気分になっていた。
エレベーターに乗り込む二人。彼がボタンを押して扉が閉まる。密室空間になった途端に、さらに緊張感が増してきた。
目的の階に到着するまでの間、色々と話しかけられた。
「どこに行きましょうか?」
「え、うん。そうね……」
「花怜さんは、どこか行ってみたいところはありますか?」
「行きたいところ……? いえ、特には……」
なんで、しっかり話せないのか。せっかく彼から話しかけてくれたのに、ちゃんと答えようとしないなんて。後悔しても、もう遅い。私の口から出てくる言葉は、どれも曖昧な返事ばかりだった。
それなのに、直人くんは嫌そうな表情もせずに話し続けてくれる。優しすぎる性格だからなのか、それとも私が年上だから気を遣ってくれているのか。どちらにしても、申し訳なさを感じずにはいられなかった。
「それじゃあ、最近話題になっている場所に連れて行ってくれますか? 僕、そこに遊びにいってみたいと思っていたんです」
「もちろん! 車があるから、どこにでも連れて行ってあげる」
彼のお願いを、即座に聞き入れる。これから二人でドライブデートが出来るなんて夢のようだ。
私の中で、彼は特別な存在になりつつあった。今日出会ったばかりだというのに、運命的なものを感じている。一目惚れしたと言ってもいいかもしれない。彼となら、上手くやっていける。そう確信していた。
「あれが、私の車」
「わぁ、凄い!」
駐車場に到着して、車を見せびらかす私。目を輝かせて感動している直人くん。そんな彼の姿を見れただけで、約2400万の高級車を購入した価値があったと思う。
「花怜さんの車、とってもかっこいいですね」
「そうかな」
その一言で、また興奮してしまう私。そんな状態だから、私は言ってしまった。
「欲しいのなら、買ってあげようか?」
「実は、もう先約があるんですよね。免許を取ったら、車を買ってもらう約束をしている人がいるんです。その人に買ってもらうので、大丈夫です」
「そ、そっか。ごめんね」
調子に乗って、やってしまった。自分の愚かさを恥じて、落ち込んでしまう。物で釣って、距離を詰めようとしたと思われてしまったかも。そんな事は考えていない。ただ単純に、プレゼントして喜んでもらおうと。だけど、急ぎすぎてしまったかも。
「いえいえ。でも僕は、人が運転してくれる車に乗るのが好きなんですよ。だから、今日は花怜さんの運転テクニックで楽しませてください」
「うん。任せて」
直人くんに、フォローまでしてもらった。まだ、嫌われていないと思う。だけど、今の言葉は言う必要はなかったと反省しながら、落ち込んだ姿は見せないように気をつける。なんてことなかったという感じでスルーして、今の話は忘れてもらうしかない。
車に乗り込んで、エンジンを掛ける。当然、助手席に男性を乗せたのは初めてだ。安全運転で、絶対に事故を起こさないように注意しないと。シートベルトを確認してから、車を発進させる。目的地に向かって、ゆっくりと走り始めた。
「あ。じゃあ、コーヒーを……」
席に座ると、彼は立ったまま聞いてきた。わざわざ用意してくれるらしい。男性に飲み物を用意してもらうなんて久しぶりのことだった。咄嗟にコーヒーと答えた私。
コーヒーメーカーで、豆から挽いて入れてくれるらしい。慣れた手つきで、入れてくれた。良い香りが部屋に充満する。そこまでしてもらうのは、初めてのことだった。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます……。んっ……美味しい」
苦味が強いけど、それが逆に心地よい。身体の中から温まる感覚だった。昔、父にコーヒーを入れてもらった記憶が蘇ってきた。その時はインスタントのコーヒーで、苦味や酸味が強くて子供の私は飲むのに苦労した。砂糖を大量に入れて甘くしてから残さず飲み干したのを覚えている。
私の両親は、かなり仲が良かった。父親にベッタリだった母親。父親の言うことは何でも聞く母親で、父もそんな母を愛していたと思う。
それが、世間一般ではなかなか珍しい関係だという事を知ったのはしばらく経ってからのことだった。
父と母の関係に憧れて、私も仲良くなれるパートナーを探し続けてきた。しかし、そんな相手と出会えるのは稀なこと。残念ながら、そう簡単に出会うことは出来ないのが現実。
私は、その奇跡的な確率を掴むことが出来ずに今まで来てしまった。このまま、無理なんだろうと諦めかけていた。
だけど今日、奇跡的な確率を私は引けたんじゃないのか。今目の前にいる相手が、私の理想のパートナーになってくれるかもしれない。
「職員の人から、お話は聞いていますか?」
「あ、はい。聞いています」
私は、ちゃんと話せているのか。この答えで間違いなかったか。男性と会話をするなんて、これも久しぶりのこと。とにかく落ち着いて、彼の声を聞き逃さないようにする。そして、変な言葉を口に出さないように気をつける。
「それじゃあ、早速行きますか。デートに」
「ッ! はい、お願いします。デート」
デート。その言葉に、がっつかない。落ち着いた姿で受け答えする。欲にまみれた女性なんて、男性から一番嫌われてしまうから。やたらと距離感を近づけようとする女性は嫌われてしまう。特に何とも思っていない女性から距離感を詰められることほど、男性にとって恐怖に感じることはないらしいから。
いや、でも。向こうからデートに誘ってくれた。それなら、少しぐらいは好意があるんじゃないのか。ダメダメ。焦っちゃだめだ。ある程度の仲が深まってからじゃないと、距離を近づけちゃいけない。いきなり近づく女には男は警戒心を抱くものなのだから。
そんなことを考えているが、彼には気づかれないように平静を保っているつもりである。だが、内心では心臓が爆発しそうなくらいドキドキしている。こんなにも緊張するのはいつ以来だろうか。大変な手術を任されたときも、ここまで緊張しなかった気がする。
彼の後について行く。ただそれだけなのに。まるで初めての場所に行くような気分になっていた。
エレベーターに乗り込む二人。彼がボタンを押して扉が閉まる。密室空間になった途端に、さらに緊張感が増してきた。
目的の階に到着するまでの間、色々と話しかけられた。
「どこに行きましょうか?」
「え、うん。そうね……」
「花怜さんは、どこか行ってみたいところはありますか?」
「行きたいところ……? いえ、特には……」
なんで、しっかり話せないのか。せっかく彼から話しかけてくれたのに、ちゃんと答えようとしないなんて。後悔しても、もう遅い。私の口から出てくる言葉は、どれも曖昧な返事ばかりだった。
それなのに、直人くんは嫌そうな表情もせずに話し続けてくれる。優しすぎる性格だからなのか、それとも私が年上だから気を遣ってくれているのか。どちらにしても、申し訳なさを感じずにはいられなかった。
「それじゃあ、最近話題になっている場所に連れて行ってくれますか? 僕、そこに遊びにいってみたいと思っていたんです」
「もちろん! 車があるから、どこにでも連れて行ってあげる」
彼のお願いを、即座に聞き入れる。これから二人でドライブデートが出来るなんて夢のようだ。
私の中で、彼は特別な存在になりつつあった。今日出会ったばかりだというのに、運命的なものを感じている。一目惚れしたと言ってもいいかもしれない。彼となら、上手くやっていける。そう確信していた。
「あれが、私の車」
「わぁ、凄い!」
駐車場に到着して、車を見せびらかす私。目を輝かせて感動している直人くん。そんな彼の姿を見れただけで、約2400万の高級車を購入した価値があったと思う。
「花怜さんの車、とってもかっこいいですね」
「そうかな」
その一言で、また興奮してしまう私。そんな状態だから、私は言ってしまった。
「欲しいのなら、買ってあげようか?」
「実は、もう先約があるんですよね。免許を取ったら、車を買ってもらう約束をしている人がいるんです。その人に買ってもらうので、大丈夫です」
「そ、そっか。ごめんね」
調子に乗って、やってしまった。自分の愚かさを恥じて、落ち込んでしまう。物で釣って、距離を詰めようとしたと思われてしまったかも。そんな事は考えていない。ただ単純に、プレゼントして喜んでもらおうと。だけど、急ぎすぎてしまったかも。
「いえいえ。でも僕は、人が運転してくれる車に乗るのが好きなんですよ。だから、今日は花怜さんの運転テクニックで楽しませてください」
「うん。任せて」
直人くんに、フォローまでしてもらった。まだ、嫌われていないと思う。だけど、今の言葉は言う必要はなかったと反省しながら、落ち込んだ姿は見せないように気をつける。なんてことなかったという感じでスルーして、今の話は忘れてもらうしかない。
車に乗り込んで、エンジンを掛ける。当然、助手席に男性を乗せたのは初めてだ。安全運転で、絶対に事故を起こさないように注意しないと。シートベルトを確認してから、車を発進させる。目的地に向かって、ゆっくりと走り始めた。
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