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第7話 映画館デート3 ※森住麻利恵視点

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 直人に連れて行かれたのは、かなり高級そうなカフェだった。落ち着いた雰囲気の店内に、格式の高そうな店員。私にとっては、あまり馴染みのない店。

「友人に教えてもらって、来てみたかったんだよね」
「そうなんだ」

 とても嬉しそうに話す直人。それは良い。だけど、私はソワソワしていた。料金が高かったら、ちゃんと支払えるかどう。手持ちは少ない。二人分の食事代ぐらいならあると思っていたがけど、ダメかも。そんな私の不安を察したのか、直人は言った。

「ここは、僕が奢るよ」
「え、いや。で、でも……」
「連れてきたのは僕だから。それに、映画館のチケット代とか奢ってもらったからね。次は僕の番だよ」
「あー。う、うん。それじゃあ、おねがいしようかな」
「任せてよ! ここは、パンケーキが美味しいらしいから一緒に食べようね」

 女として、男の人に奢られるなんて情けない。だけど、手持ちがなくて奢りたくてもお金がない。だから、彼の好意に甘えるしかなかった。

 実は、私よりもお金に余裕がある直人。彼が、かなりの大金を貯金していることを知っていた。この高級カフェでも、気軽に入って何も気にせず注文できるぐらいに。だからって、ねだるような真似はできないけれど。

 いつか、私が稼いだお金で存分に奢ってあげる。働けるようになったら、頑張って稼ごうと密かに心の中で誓った。その日が来るまで、彼は待っていてくれるかな?

「さて、何食べようか?」
「うーん」

 席に案内されると、向かい合って座った私たちはメニュー表を確認する。やはり、想像していた以上の値段だった。これは、私には支払えないだろう。だけど、直人は食べる気満々だった。危なかった。男の人にしては珍しく、食欲旺盛な彼。しかも、甘いものが大好き。どんどん注文する気のようだ。

「じゃあ、コレとコレとか注文してシェアしよう。それでいい?」
「あ、うん。じゃあそれで」
「それから、コッチも注文するね。飲み物は、炭酸だよね」
「うん」

 何を注文しようか悩んでいると、直人が決めてくれた。私の好みを把握してくれているのか、食べたいと思っていたメニューをドンピシャで選んでくれている。それを注文してくれるのなら、なんの文句もない。

 本当なら、女の私が先に決めるべきだったか。だけど、慣れた様子の直人に任せるほうが確実だろう。だから私は安心して、全て彼に任せた。

「ご注文の品を、お持ちしました」
「ありがとうございます」
「あ、どうも」

 しばらくして、頼んでいた料理がテーブルに運ばれてくる。甘い香りが漂ってきていて、とても美味しそうだ。さっそく、いただきますをして口に運んだ。ふわふわな食感で、口の中に入れるとすぐに溶けていく。甘すぎない味付けなので、いくらでも食べられそう。

「美味しい!」
「本当に? 良かった。じゃあ、僕も」

 思わず感想を口にすると、目の前に座っている直人も満足げだった。そして彼も、美味いと連呼しながらパクパクと食べ進めていく。そして私たちは、先程見た映画の感想について会話して、楽しんでいた。

「僕の気に入ったシーンは、やっぱりあの場面かな」
「確かに、あれは良かったね。実際にトレーニングをして、あの動きを数ヶ月かけて習得したらしいよ」
「へぇ! 凄いね。あの俳優さん、とても努力家なんだね。また、あのシーンをもう一度見たいな」
「レンタルが開始されるのが、1年後ぐらい、かな。そのときに見れるかも」
「いいね。じゃあ、またレンタルが開始されたら、次は家で一緒に見ようよ」
「うん」

 映画の話題でも、直人はとても楽しげに語ってくれた。私も気に入った映画だったので、つい熱中してしまう。私のような映画好きの気持ちを理解してくれる彼とは、話しているだけで楽しい。

 流石に、私と同じように何度も繰り返し同じ映画を観ようと誘うことは出来なかった。でも、話の流れでレンタルが開始されたら一緒に見る約束をしてくれた。それが嬉しくて、私は笑顔になる。

「そっちのパンケーキ、美味しそうだね。ちょっと、ちょうだい」
「え、あ、うん。どうぞ」
「ありがとう。あーん」
「えっと」

 私の食べているパンケーキに興味を示した直人が、分けてくれとお願いをして口を開けた。彼は、こういう事を平気でやってくる。どうするべきか戸惑っているけど、彼は止めようとしない。可愛らしい口を開けたまま、その姿勢で待ち構えていた。

「あーん」
「あ、あーん」

 一口サイズに切り分けたものを差し出すと、躊躇うことなく彼は食べてしまった。

 まさか、あーんをするなんて思っていなくて、彼の口に運ぶのにかなり緊張した。この対応で間違っていなかっただろうか。というか、間接キスじゃないのかな。そう思ったけど、直人は気にしていないのか平然としていた。

「ウン、美味しい!」
「そ、そう。良かった……」
「お返しに、はい。あーん」
「えっ!?」
「ほらほら」
「……あ、あーん」

 次は、彼から差し出された。顔が熱い。きっと、真っ赤になっていることだろう。恥ずかしくて、まともに直人の顔を見れない。だけど、早く食べないと。腕を伸ばしたまま、彼は待ち続ける。食べないと終わらない。ドキドキしながら、差し出された別種類のパンケーキを食べる。ふわっとした優しい甘みで、幸せな気分になった。

 女にとって、夢のようなシチュエーション。周りの女性たちが、視線を向けてくるのを肌で感じる。強くて、激しい視線を。羨望の眼差し。その気持ち、よく分かる。

 その後もお互いに食べさせ合いながら、食事を楽しむ私たちだった。デートは終始楽しくて、あっという間に時間が過ぎていった。
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