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第一部

10.サンドイッチ

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 ようやく昼休憩になったが、クロエはチームが勝ち上がってることもありそのメンバーと一緒に食べるようだった。

 しょうがないのでなるべく1人でいても虚しい気持ちにならないところを探す。

 周りはどこもキャイキャイしていてどうにも居た堪れない気持ちになる。

 しばらく学内を歩きいい感じの木陰が見つかり、1人ボーッとサンドイッチを食べることにした。

 少し寂しい気持ちもあるが、こっちがデフォルトだった中学の頃を考えれば、別にどうってことない。久々に何も考えず、次の試合に向けて昼休憩も練習しているチームをゆったりと眺めるのだっていいじゃないか。

 

「よいしょと」

 サンドイッチの1個目が終わり2個目を食べようと手に取った頃、同じ木陰に誰かが入ってきた。

 チラリッと横目で相手を見る。

「ナギサ先輩!」

「あら、この間の」

 思わぬ相手に驚きで思わず持っていたサンドイッチを落としかけた。
 危ない。俺の昼食はこれしかないのに。

「どうしてこんなところに……」

 こんなイベントの日はナギサ先輩のような人気者は取り巻きを引き連れているもんだと思い込んでいたが、どうやら1人のようだ。
 この人も木の下に地べたに座ったりするんだ。
 勝手な偏見で魔法で椅子でも作り出して意地でも椅子に座り優雅に過ごすものだと思っていた。

「一緒に食べたいって人たちが多すぎて流石に無理だから逃げてきたのですよ」

 ナギサ先輩はため息をつく。

 ナギサ先輩くらいの人気者になると色々と大変なんだな。俺には無縁の悩みすぎる。


「この間の図書館での調べ物は済みましたか?」

「いえ、まだ。少し難しい問題で」

 どのみち解決しても別の問題が出てきそう。
 というか図書室で一度会っただけの俺みたいなモブ生徒のことも一々覚えているのか。すごいな。

「そうなのですね。……私が教えましょうか?」

 ナギサ先輩は俺なんかにも優しく微笑む。

「大丈夫です。自分で何とかします」

 いくら親切な人でも知られたら不味すぎる。けど、どうしたらいいのだろうか。自分でなんとかできるだろうか。当分解決はできなさそうな状況だ。

「……そうですか」

 ナギサ先輩は少し俯いた後、俺をじっと見た。

 何だ?もしかしてこの人凄い人だから俺を透視しようとしてるのか?

「口元についていますよ」

「え?」

 自分が見当違いのことを考えていたせいか変な声が出た。

 うわ、最悪だ。なんでよりにもよってナギサ先輩の前なのに。

「取って差し上げますね」

 ナギサ先輩が俺に向かって手を伸ばす。

「え、ありがとうございます」

 ちょっと恥ずかしいけど、ラッキー。


 ナギサ先輩の手が俺の口に触れる。


 ドキドキしてくる。その時間だけ異様に長いような感覚に襲われる。


 ドキドキしてなんだか頭まで痛いような気がする。


ズキッズキッ ズキッズキッ


 ……違う。なんだこれ。頭が割れるように。痛い。


「ナギサせんぱ……」


 俺はその場で意識を手放した。
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