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第8章 夜の契約 ナイトバインド
048 9日目 冬香とアリム(ナイトバインド)
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真々美とアリムさんの初夜の翌朝。
◇
9日目 AM 08:00
《2日に一度の会議: なし、
第1回襲撃予測日: 当日》
アリム
「ううん、朝かなあ?」
真々美
「おはよう、アリムさん。
昨日の夜は素敵だったぞ。」
真々美はアリムさんの右側にいた。
左手でアリムさんの頭をなでていた。
アリム
「おはよう、真々美さん。
真々美さんも素敵でした。
夢だったのかなあ?」
真々美
「現実に起こった本当のことだぞ。」
アリム
「真々美さん、少し顔が赤いようですが、」
真々美
「そうか、気にしないでくれ。」
真々美の右手が忙しそうだ。
アリム
「真々美さん、どうかしましたか?」
真々美
「うん? なにも問題はないぞ。」
アリム
「あれ、なにかが触れている気がする・・・」
真々美
「気にしないでくれ。」
アリムさんが視線を下に移すと、真々美さんの右手がやさしく何かを撫でている。
アリム
「真々美さん、そ、その。
あ、あのね。
右手を放してもらえませんか?」
真々美
「もう少し触っていたいのだがな。
そうだ、アリムさんの両手を貸してくれ。」
真々美はアリムさんの両手を自分の両胸に当てた。
アリム
「真々美さん、その朝から、その・・・
も、もちろん、うれしいですけれど。」
真々美
「もう少しだけ味合わせてくれ。
次は三日後だからな。」
アリム
「は、はい。」
真々美
「大丈夫だ。
冬香の分まで取ったりはしない。
ただ、愛《いと》しすぎてな。」
アリム
「は、はい。
また相手してくださいね。」
真々美
「もちろんだ。
というよりも、アリムさんの相手をしていい女性は、オルア、わたし、冬香だけだからな。
よーく覚えておいてくれ。」
アリム
「はい、あの、朝ごはんの前にお願いがあります。」
真々美
「なんだ?
言ってみてくれ。」
アリム
「お、おはようのキスをしたいです。」
真々美は熱いキスをした。
真々美
「では、起きようか?
朝ごはんを食べたら、冬香の部屋に連れていく。」
アリム
「はい、真々美さん。」
◇
ふたりは朝ごはんを済ませて、冬香の部屋に入った。
9日目 AM 08:40
真々美
「冬香、おはよう。」
冬香
「真々美、おはよう。
アリムさん、おはよう。」
アリム
「冬香さん、おはよう。」
真々美
「では、冬香、アリムさんを、よろしくな。」
冬香
「ええ、真々美、あとでね。」
アリム
「冬香さん、よろしくお願いします。」
冬香
「アリムさん、距離を置くのはやめてくれないかしら?」
アリム
「え、ええと・・・」
冬香
「よろしくお願いします。
ではなくて、
よろしく。
やり直してくださる?」
アリム
「よ、よろしく、冬香さん。」
冬香は、やさしく微笑んだ。
冬香
「よろしくね、アリムさん。」
アリム
「はい。」
冬香
「そこは、うん。って言って欲しいわ。」
アリム
「こ、細かくないですか?」
冬香
「いーい、距離感は大事よ。
男性は、女性が求める距離感を覚えないとダメよ。
そして、わたしは、アリムさんにもっと近づいて欲しいと言っているの。
ぜいたいくな悩みだわ。」
アリム
「うん、冬香さん。」
冬香
「うん、アリムさん。
オルアと真々美からも苦手なことを頼まれたはずけれど、私の苦手は洗濯なの。
洗濯場に山盛りになった洗濯物を洗濯して干してくれると、とってもうれしいわ。」
アリム
「はあい、ううん、うん、わかった。」
冬香
「そう、良い感じよ。
アリムさん。」
アリム
「じゃあ、ここにある洗濯物を片づけながら、冬香さんの個室の中を見せてくださいね。」
冬香
「くださいは、余計よ。
見せてね。
で、良いのよ。」
アリム
「はあい。」
冬香
「アリムさんは、うんよりも、はいが好きみたいね。
でも、はい、って言われるよりも、今みたいにかわいく、はあい、って言ってくれてうれしいわ。」
アリム
「ほっ。」
冬香
「きびしく言い過ぎたかな。
でもね、上下の関係じゃなくて、アリムさんのことを同じ目の高さで見ているということを、アリムさんだけではなく、周囲の人たちにも示したいのよ。
悪く思わないでね。」
アリム
「ううん、むしろ、うれしいよ。
冬香さん。」
冬香
「うふふ。
もちろん、部屋の中は自由に見てね。
手に取ってみたいものがあれば持って見ても大丈夫よ。
ただし、割れやすい飾り細工は優しく置いてね。」
アリム
「はあい。」
冬香
「それと、ベッドの上に脱ぎ散らかした下着や衣服も、干し場所に余裕があれば洗濯してくれないかしら。」
アリム
「OKです。」
冬香
「じゃあ、お昼は外に食べに行きましょうね。
12時すぎに戻るから、ゆっくりしててね。
でも、洗濯はお願いね。」
アリム
「うん、いってらっしゃい。」
冬香
「行ってきます。」
9日目 AM 08:50
◇
9日目 AM 09:00
真々美の司令室にて
冬香
「真々美、満ち足りた穏《おだ》やかな表情をしているわね。
わたしとの姉妹関係が成立した翌朝のような表情ね。」
真々美
「そうかもしれないな。
こう、なんというか。
いままで手に出来なかったものを手に入れたというか、
ずっと探し求めていたものをようやく手に入れたというか、
なんとういうか、そう、冬香をわたしのサブシスにしたときのような達成感と充実感を感じている。」
オルア
「ね、真々美、アリムさんは最高でしょ。」
真々美
「だけどな・・・」
真々美は少し悲しそうな顔をした。
オルア
「真々美、なにがあったの?」
オルアは、アリムさんに対する教育に、なにか問題があったのかと不安になった。
冬香 こころの声
『えっ? さっきまでの真々美の満ち足りた顔はなんだったの。』
真々美
「アリムさんに痛いと言わせてしまった。
アリムさんのカタナを握ったら痛がらせてしまった。」
オルア
「えっ、握っちゃったの?
にぎるという言葉を使うけれど、やさしく持つ感じで、にぎったことになるのよ。」
真々美
「そうみたいだな。
それと、喜んでもらうつもりで、上下に動かしたら、その・・・」
冬香
「痛いと言われたのね。」
真々美
「ああ、そうなんだ。」
オルア
「いままで出会った男の子からは、痛いと言われなかったんでしょ。」
真々美
「そうなんだ。
痛いと言われたことはないな。
ただ、その・・・ 長続きしなかったというか、お別れするまで早かったな。」
冬香
「ということは、いままでの男の子は別れればいいからと言わなかったのね。
そして、アリムさんは真々美と長い付き合いになるから、
痛い
と感想を言ってくれたのね。」
真々美
「そうなるな、
そして、痛いと言われた後で、アリムさんは・・・」
オルア
「どうなったの?」
真々美
「アリムさんの好む力加減と動かす範囲とスピードについて、実践形式で教えてくれた。」
オルア
「なに、それ?
わたしもして欲しい。」
冬香
「で、アリムさんの指導の成果は出たの?」
真々美
「ああ、おかげさまで、上手に触れるようになったと自信がついた。
今朝もアリムさんが起きる直前まで、アリムさんのすべてとも言える大事なところを握ったり、触ったりしていたが、気持ちよさそうに眠ったままだった。」
オルア
「なに、それ?
わたしもしたい。」
冬香
「うん?
ということは、わたしの分が残ってないのかな?」
冬香はご機嫌斜めになった。
真々美
「だ、大丈夫だ。
一滴ももらさないように節度を守ったから。」
冬香
「そう?
残しておいてくれてありがとう。
もし、残ってなかったら、振替日をもらうわね。
ふたりとも次の予定日を後ろにずらしてもらうからね。」
オルア
「そのときは、そうしてくれた方がいいわね。」
真々美
「大丈夫だ。
一晩寝たら、アリムさんは元気を回復していたから!」
冬香
「まあ、今晩というか、昼頃にする予定だけど、すぐにわかるわ。」
オルア
「夜まで待たないの?」
冬香
「今夜は襲撃予定日だから無理ね。
襲撃について、打ち合わせをしましょうか?」
◇
今夜、襲撃があるという前提で、作戦会議を進めようとしていた。
冬香
「まず、襲撃予定時刻は、PM20:00と仮定します。
近頃は3食のタイミングをずらすと良い人材が集まらないから、19時に夕食、食休みを含めて20時に作戦開始になると思うわ。」
真々美
「光元国の軍隊が聞いたら、あきれて、ポカーンとくちをあけるだろうな。」
オルア
「開《あ》いた口《くち》が塞《ふさ》がらないとは、このことね。」
冬香
「そのおかげで、作戦は立てやすいわ。
前方への警戒はシュウピンさん、
後方への警戒はメラニィさんに担当してもらいます。
ここまでは、アリムさんが盗聴対策で話した通りね。
真々美は右側を警戒して、警備員を指揮して上船者を問答無用で無力化して。
同時に、
オルアは左側を警戒して、警備員を指揮して上船者を問答無用で無力化して。
わたしは、アリムさんとの夕食を済ませ次第、19:30からバリアのコントロール室に忍び込んで気配を消すわ。
怪しい候補者とそのペアでコントロール室を担当する二人を監視して、バリアを消すまで泳がせる。」
オルア
「現行犯で逮捕するのね。」
冬香
「そうよ。
そして、真々美、バリアをOFFにした裏切者の処置を決断して欲しい。」
真々美
「実行の様子を録画しておいて欲しい。
あとで、遺族や関係者に見せるためにな。
実行者は即処分。
ただし、生殖刑や生体部品刑に使用できるようにする余裕があれば、そうして欲しい。
もしも、元男性の女性が実行者ではなく、こちらの味方だった場合、裏切者の子宮や卵巣を報酬に渡してやりたい。
ふたりにはあらためて言う必要がないかもしれないが、大事なことだから言っておく。
<<< 裏切者が二度裏切らないという保証はない。 >>>
かんたんに言えば、
<<< 裏切者はかならず、ふたたび裏切る。 >>>
だから、同情の余地は無い。
バリアを無力化されたら、わたしたち3人だけではなく、この船にいる全員が危険で悲惨な目に遭《あ》うからだ。」
オルア
「分かった。
上船者は即処分でいいのよね。」
真々美
「できる限り、あたまを狙って欲しいな。
脳以外は使い道があるからな。」
冬香
「尋問用に数人は残してくれないの?」
真々美
「不要だろうな。
どうせ吐かないだろうし、時間も無いからな。」
冬香
「たしかに、スケジュールが遅れているわよね。
アリムさんの遺伝子治療や
オルアとの交配届け一式まで
時間が足りないわね。」
オルア
「そんなに大変なの?」
真々美、冬香
「「大変。」」
冬香
「本来なら、邪魔が入らない状況でも面倒くさくて大変だからね。」
真々美
「アリムさんが協力的で本当に良かった。」
オルア
「そういえば、どうしてアリムさんは、私たちの意向に沿《そ》うようにしてくれるのかしら。」
真々美、冬香
「「オルアのことが大好きだからよ。
言わせたいだけでしょ。」」
オルア
「えへへ。
ばれちゃったあ。」
真々美とオルアは警備兵の装備の確認と演習を行った。
冬香は残りの事務処理など一切を行った。
冬香
「本国に残っている軍を動かせたら、楽になるはずなんだけどなあ。
まあ、最後の手段よね。」
◇
9日目 PM 00:00
冬香
「アリムさん、ただいま。」
アリム
「おかえり、冬香さん。」
冬香
「洗濯ありがとう。
かなり減らしてくれて助かるわ。」
アリム
「どういたしまして。」
冬香
「わたしの部屋は、どうだった?」
アリム
「I Love You のクリスタルが綺麗だったよ。
モテるんだね、冬香さん。」
冬香さんは、少し顔を赤らめて、向こうを向いた。
冬香
「それは、自分で買ったのよ。
こういう贈り物をしてくれる男性がいたらなあって。
もっとも、好きになった男性からのプレゼントじゃなきゃ意味ないけどね。」
アリム
「なるほどね。
贈り物をしてくる男性には困っていないけれど、受け取っても良いという男性には出会えなかったんだね。」
冬香
「そんなところよ。
他には、なにか気になるものはあったかな?」
アリム
「そうだねえ、むずかしそうな本が多いと思った。」
冬香
「ほかには?」
アリム
「きれいに片付いているなあと思ったよ。」
冬香
「ほかには?」
アリム
「うーん、青色系の服が多いなあと思う。」
プチン。
なにかが切れたような気がした。
冬香
「ベッドにわざとらしく脱ぎ捨ててあった、ブラジャーとパンティーは、どう思ったって、聞いているのよ!」
アリム
「えっ、それのこと。
言わなきゃダメ?
恥ずかしいなあ。
G70って、書いてあった。
大きいなあ、見事だなあって思いました。」
冬香
「そう、それのことよ。
まさか、気にならなかったわけじゃないわよね。」
アリム
「すっごく気になりました。」
冬香
「よろしい。
で、においというか香りはどうだった?」
アリム
「えっ、見ただけだから分からないよ。」
冬香
「じゃあ、今から嗅いでみて。」
アリム
「えっ?
冬香さんの香りを直接味わいたいとは思うけれど、下着の香りを嗅ぎたいとは思わないよ。」
冬香
「えっ? アリムさんって、そうなの?」
アリム
「そうだよ。
目の前で脱ぎたてを渡されたら、香りを確かめたくなるかもだけどね。」
冬香
「じゃあ、帰ってから渡すわ。
よろしくね。」
アリム
「よろしくねって、なにを?」
冬香
「下着に着いたわたしの香りに決まっているでしょ!
香りは大事よ。
恋人同士でも、違う香りのシャンプーや石鹸を使うようにする理由は、香りが大事だからよ。
性欲の対象かどうかだけでなく、未知の免疫をもっているかどうかという意味でも大事だからね。」
アリム
「勉強になりました。」
冬香
「じゃあ、食べに行きましょうか?」
アリム
「はあい。」
冬香は戸締りをした。
9日目 PM 00:10
冬香
「アリムさん、左腕をくの字に曲げて、外側に出してくれる?」
アリム
「こうですか?」
冬香さんは、アリムさんの腕に手をまわして、身体を寄せた。
冬香
「さあ、行きましょう。」
アリム
「照れるけれど、うれしいです。(〃▽〃)ポッ」
冬香
「うふふ、これが付き合っている男女の距離よ。
光栄に思ってね。
わたしと腕を組んで歩ける男性なんて、アリムさんくらいよ。」
アリム
「光栄です。
多くの男性と腕を組んだ経験があるのかと思いました。」
冬香
「真々美より格好いい男性は、ほぼいないのよね。」
アリム
「ひとりくらいは、いそうですね。」
冬香
「いたけどね。
あんにゃろう。
ねえ、聞きたい?」
アリム
「聞かない方が良いですよね。」
冬香
「正解。」
◇
冬香とアリムさんは、食堂に着いた。
アリム
「止まったということは、ここですか?」
冬香
「そうよ。
ここはね、親子丼と白菜の味噌汁が美味しいのよ。
わたしの好きな味を知って欲しいから、ごちそうするわ。
同じものを食べましょうね。」
アリム
「うん、楽しみです。」
冬香
「食券を買ってくるから待っててね。」
アリム
「ありがとう、冬香さん。」
冬香
「うふふ。」
冬香 こころの声
『良い感じに距離を詰めていけてるわね。
アリムさん。』
アリム
「親子丼と言えば、卵の半熟コントロールが難しいね。」
冬香
「そうね、何百、何千と料理するうちに分かるのでしょうね。」
アリム
「そんなには料理することはないなあ。」
冬香
「だから、プロの腕前を買うために店で食べるのよ。」
アリム
「そうだね。」
店員
「お待たせしました。
どうぞ、みそ汁は熱めなので、お気を付けください。」
アリム
「ありがとう。」
冬香
「ありがとう。」
店員 こころの声
『昨日は真々美様、その前はオルア様といっしょだった男性よね。
今日は、冬香様と一緒なの?
誰なの? この男性は?』
アリム
「いただきます。」
冬香
「いただきます。」
お上品に食べるアリムさんと、豪快に食べる冬香でした。
当然、冬香の方が早く食べ終わった。
アリム
「ご、ごめんなさい。
急ぎますね。」
冬香
「急がないで、ゆっくり自分のペースで食べてね。
素の飾らない私を見て欲しかっただけだから。
どう幻滅した?」
アリム
「ありがとう。
こころの内側に入れてもらっているような、身内として見てもらえているような、うれしい気持ちになりました。」
冬香
「なりました。
が、
なったよ。
に変わる日が楽しみね。」
アリムさんは、冬香にやさしく見守られながら、ゆっくりと食べることができた。
アリムさんは、せかされないで食事できることに、幸せを感じていた。
◇
アリム
「ごちそうさまでした。」
冬香
「ええ、この味を気に入ってくれると、うれしいわ。」
アリム
「鶏肉に臭みがなくて、食べやすかったです。
放し飼いの鶏肉を使っているのでしょうか?」
冬香
「そうね、その分、高いのよ。
だから、たまにしか食べないわね。」
アリム
「ぜいたくですもんね。」
冬香
「そうね。
じゃあ、デザートにチョコバナナを食べたいから、チョコレートを買って帰りましょうね。」
アリム
「バナナは買わなくていいの?」
冬香
「うん、大丈夫よ。
でも、その前に少し歩きましょうか?」
アリム
「うん。」
冬香
「どう?
アリムさん。」
アリム
「こうして、ふたりで歩くって幸せを感じるよね。」
冬香
「そうよね。
ほかに感じることはない?」
アリム
「うーん、夏だから暑いけれど、くっついていたくなるね。」
冬香
「そうよね。
で、感じることはない?」
冬香さんはアリムさんの腕を強く抱き寄せた。
アリム
「うーん、ちょっと歩きにくいのが、恋人同士って感じでいいね。」
冬香
「なに、カマトトぶってんのよ。」
アリム
「べつにかわい子ぶっているつもりは無いけれど、ただ、そう思っただけよ。」
冬香
「アリムさんって、本当に恋愛経験が無いのね。」
アリム
「うん、無いよ。
気の利いたこと言えなくて、申し訳なく思っております。」
アリムさんは泣きそうになっている。
冬香
「ううん、そうじゃなくて、そんなふうに思わないでね。
ただね、さっきからアリムさんに押し付けている私の胸にドキドキしているかどうかを知りたいだけなのよ。」
アリム
「そ、それは本当にドキドキして、うれしいです。
でも、そういうこというと、ドスケベ変態って嫌われそうだから言わないようにしていました。」
冬香
「なるほどね。
そうなのね。
アリムさん、わたしはね、そういうことをアリムさんの口から恥ずかしそうに言わせて、からかいたいのよ。
意中の男性が私自身の胸にドキドキしている顔を見て、いじめたいのよ。」
アリム
「いじめっこは嫌いです。」
冬香
「そうじゃなくてね。
どう言えば良いのかなあ。
打てば響くようにとまでは言わないけれど、ドキドキしてほしいのよ。
そうすれば、私自身の魅力でアリムさんを捕まえられそうって、うれしくなるのよ。」
アリム
「落とせそうだったら、興味を無くす女性って多くないですか?」
冬香
「わたしは興味というか関心があるというか捕まえたい男性にしか、時間と労力を掛けないわ。」
アリム
「冬香さんのように説明してくれる女性は有り難いです。」
冬香
「わかってくれて良かったわ。
で、どう?
アリムさんの腕に感じる私の胸の感触は?」
アリム
「とっても、素敵です。」
冬香
「よろしい。
じゃあ、チョコレートを買って帰りましょうね。」
アリム
「えっ? もう帰るの?」
冬香
「アリムさんも知っている通り、今夜は団体の招いていないお客様が来るから、真々美とオルアと一緒に対応しないとダメなのよ。」
アリム
「そうだったね。」
冬香
「そうなの。
それで、ぜったいに省略したくない部分は、分かるでしょ?」
アリム
「晩御飯かな?」
冬香はアリムさんの耳にささやいた。
冬香 小声
「アリムさんとの熱い熱い夜の健康診断よ。」
アリム
「それって、もしかして、ご休憩のこと?」
冬香
「そう、休憩したあとの方が疲れているという謎の休憩が有名ね。」
アリム
「お外で言うなんて恥ずかしいよ。」
冬香
「あら、わたしは小声でささやいただけよ。」
アリム
「そうだったね。」
冬香
「わたしの勝ちね。」
ふたりが冬香の個室に戻ったのは3時のおやつ前だった。
9日目 PM 02:30
◇
冬香さんも攻めをする予定でしょうか?
◇
9日目 AM 08:00
《2日に一度の会議: なし、
第1回襲撃予測日: 当日》
アリム
「ううん、朝かなあ?」
真々美
「おはよう、アリムさん。
昨日の夜は素敵だったぞ。」
真々美はアリムさんの右側にいた。
左手でアリムさんの頭をなでていた。
アリム
「おはよう、真々美さん。
真々美さんも素敵でした。
夢だったのかなあ?」
真々美
「現実に起こった本当のことだぞ。」
アリム
「真々美さん、少し顔が赤いようですが、」
真々美
「そうか、気にしないでくれ。」
真々美の右手が忙しそうだ。
アリム
「真々美さん、どうかしましたか?」
真々美
「うん? なにも問題はないぞ。」
アリム
「あれ、なにかが触れている気がする・・・」
真々美
「気にしないでくれ。」
アリムさんが視線を下に移すと、真々美さんの右手がやさしく何かを撫でている。
アリム
「真々美さん、そ、その。
あ、あのね。
右手を放してもらえませんか?」
真々美
「もう少し触っていたいのだがな。
そうだ、アリムさんの両手を貸してくれ。」
真々美はアリムさんの両手を自分の両胸に当てた。
アリム
「真々美さん、その朝から、その・・・
も、もちろん、うれしいですけれど。」
真々美
「もう少しだけ味合わせてくれ。
次は三日後だからな。」
アリム
「は、はい。」
真々美
「大丈夫だ。
冬香の分まで取ったりはしない。
ただ、愛《いと》しすぎてな。」
アリム
「は、はい。
また相手してくださいね。」
真々美
「もちろんだ。
というよりも、アリムさんの相手をしていい女性は、オルア、わたし、冬香だけだからな。
よーく覚えておいてくれ。」
アリム
「はい、あの、朝ごはんの前にお願いがあります。」
真々美
「なんだ?
言ってみてくれ。」
アリム
「お、おはようのキスをしたいです。」
真々美は熱いキスをした。
真々美
「では、起きようか?
朝ごはんを食べたら、冬香の部屋に連れていく。」
アリム
「はい、真々美さん。」
◇
ふたりは朝ごはんを済ませて、冬香の部屋に入った。
9日目 AM 08:40
真々美
「冬香、おはよう。」
冬香
「真々美、おはよう。
アリムさん、おはよう。」
アリム
「冬香さん、おはよう。」
真々美
「では、冬香、アリムさんを、よろしくな。」
冬香
「ええ、真々美、あとでね。」
アリム
「冬香さん、よろしくお願いします。」
冬香
「アリムさん、距離を置くのはやめてくれないかしら?」
アリム
「え、ええと・・・」
冬香
「よろしくお願いします。
ではなくて、
よろしく。
やり直してくださる?」
アリム
「よ、よろしく、冬香さん。」
冬香は、やさしく微笑んだ。
冬香
「よろしくね、アリムさん。」
アリム
「はい。」
冬香
「そこは、うん。って言って欲しいわ。」
アリム
「こ、細かくないですか?」
冬香
「いーい、距離感は大事よ。
男性は、女性が求める距離感を覚えないとダメよ。
そして、わたしは、アリムさんにもっと近づいて欲しいと言っているの。
ぜいたいくな悩みだわ。」
アリム
「うん、冬香さん。」
冬香
「うん、アリムさん。
オルアと真々美からも苦手なことを頼まれたはずけれど、私の苦手は洗濯なの。
洗濯場に山盛りになった洗濯物を洗濯して干してくれると、とってもうれしいわ。」
アリム
「はあい、ううん、うん、わかった。」
冬香
「そう、良い感じよ。
アリムさん。」
アリム
「じゃあ、ここにある洗濯物を片づけながら、冬香さんの個室の中を見せてくださいね。」
冬香
「くださいは、余計よ。
見せてね。
で、良いのよ。」
アリム
「はあい。」
冬香
「アリムさんは、うんよりも、はいが好きみたいね。
でも、はい、って言われるよりも、今みたいにかわいく、はあい、って言ってくれてうれしいわ。」
アリム
「ほっ。」
冬香
「きびしく言い過ぎたかな。
でもね、上下の関係じゃなくて、アリムさんのことを同じ目の高さで見ているということを、アリムさんだけではなく、周囲の人たちにも示したいのよ。
悪く思わないでね。」
アリム
「ううん、むしろ、うれしいよ。
冬香さん。」
冬香
「うふふ。
もちろん、部屋の中は自由に見てね。
手に取ってみたいものがあれば持って見ても大丈夫よ。
ただし、割れやすい飾り細工は優しく置いてね。」
アリム
「はあい。」
冬香
「それと、ベッドの上に脱ぎ散らかした下着や衣服も、干し場所に余裕があれば洗濯してくれないかしら。」
アリム
「OKです。」
冬香
「じゃあ、お昼は外に食べに行きましょうね。
12時すぎに戻るから、ゆっくりしててね。
でも、洗濯はお願いね。」
アリム
「うん、いってらっしゃい。」
冬香
「行ってきます。」
9日目 AM 08:50
◇
9日目 AM 09:00
真々美の司令室にて
冬香
「真々美、満ち足りた穏《おだ》やかな表情をしているわね。
わたしとの姉妹関係が成立した翌朝のような表情ね。」
真々美
「そうかもしれないな。
こう、なんというか。
いままで手に出来なかったものを手に入れたというか、
ずっと探し求めていたものをようやく手に入れたというか、
なんとういうか、そう、冬香をわたしのサブシスにしたときのような達成感と充実感を感じている。」
オルア
「ね、真々美、アリムさんは最高でしょ。」
真々美
「だけどな・・・」
真々美は少し悲しそうな顔をした。
オルア
「真々美、なにがあったの?」
オルアは、アリムさんに対する教育に、なにか問題があったのかと不安になった。
冬香 こころの声
『えっ? さっきまでの真々美の満ち足りた顔はなんだったの。』
真々美
「アリムさんに痛いと言わせてしまった。
アリムさんのカタナを握ったら痛がらせてしまった。」
オルア
「えっ、握っちゃったの?
にぎるという言葉を使うけれど、やさしく持つ感じで、にぎったことになるのよ。」
真々美
「そうみたいだな。
それと、喜んでもらうつもりで、上下に動かしたら、その・・・」
冬香
「痛いと言われたのね。」
真々美
「ああ、そうなんだ。」
オルア
「いままで出会った男の子からは、痛いと言われなかったんでしょ。」
真々美
「そうなんだ。
痛いと言われたことはないな。
ただ、その・・・ 長続きしなかったというか、お別れするまで早かったな。」
冬香
「ということは、いままでの男の子は別れればいいからと言わなかったのね。
そして、アリムさんは真々美と長い付き合いになるから、
痛い
と感想を言ってくれたのね。」
真々美
「そうなるな、
そして、痛いと言われた後で、アリムさんは・・・」
オルア
「どうなったの?」
真々美
「アリムさんの好む力加減と動かす範囲とスピードについて、実践形式で教えてくれた。」
オルア
「なに、それ?
わたしもして欲しい。」
冬香
「で、アリムさんの指導の成果は出たの?」
真々美
「ああ、おかげさまで、上手に触れるようになったと自信がついた。
今朝もアリムさんが起きる直前まで、アリムさんのすべてとも言える大事なところを握ったり、触ったりしていたが、気持ちよさそうに眠ったままだった。」
オルア
「なに、それ?
わたしもしたい。」
冬香
「うん?
ということは、わたしの分が残ってないのかな?」
冬香はご機嫌斜めになった。
真々美
「だ、大丈夫だ。
一滴ももらさないように節度を守ったから。」
冬香
「そう?
残しておいてくれてありがとう。
もし、残ってなかったら、振替日をもらうわね。
ふたりとも次の予定日を後ろにずらしてもらうからね。」
オルア
「そのときは、そうしてくれた方がいいわね。」
真々美
「大丈夫だ。
一晩寝たら、アリムさんは元気を回復していたから!」
冬香
「まあ、今晩というか、昼頃にする予定だけど、すぐにわかるわ。」
オルア
「夜まで待たないの?」
冬香
「今夜は襲撃予定日だから無理ね。
襲撃について、打ち合わせをしましょうか?」
◇
今夜、襲撃があるという前提で、作戦会議を進めようとしていた。
冬香
「まず、襲撃予定時刻は、PM20:00と仮定します。
近頃は3食のタイミングをずらすと良い人材が集まらないから、19時に夕食、食休みを含めて20時に作戦開始になると思うわ。」
真々美
「光元国の軍隊が聞いたら、あきれて、ポカーンとくちをあけるだろうな。」
オルア
「開《あ》いた口《くち》が塞《ふさ》がらないとは、このことね。」
冬香
「そのおかげで、作戦は立てやすいわ。
前方への警戒はシュウピンさん、
後方への警戒はメラニィさんに担当してもらいます。
ここまでは、アリムさんが盗聴対策で話した通りね。
真々美は右側を警戒して、警備員を指揮して上船者を問答無用で無力化して。
同時に、
オルアは左側を警戒して、警備員を指揮して上船者を問答無用で無力化して。
わたしは、アリムさんとの夕食を済ませ次第、19:30からバリアのコントロール室に忍び込んで気配を消すわ。
怪しい候補者とそのペアでコントロール室を担当する二人を監視して、バリアを消すまで泳がせる。」
オルア
「現行犯で逮捕するのね。」
冬香
「そうよ。
そして、真々美、バリアをOFFにした裏切者の処置を決断して欲しい。」
真々美
「実行の様子を録画しておいて欲しい。
あとで、遺族や関係者に見せるためにな。
実行者は即処分。
ただし、生殖刑や生体部品刑に使用できるようにする余裕があれば、そうして欲しい。
もしも、元男性の女性が実行者ではなく、こちらの味方だった場合、裏切者の子宮や卵巣を報酬に渡してやりたい。
ふたりにはあらためて言う必要がないかもしれないが、大事なことだから言っておく。
<<< 裏切者が二度裏切らないという保証はない。 >>>
かんたんに言えば、
<<< 裏切者はかならず、ふたたび裏切る。 >>>
だから、同情の余地は無い。
バリアを無力化されたら、わたしたち3人だけではなく、この船にいる全員が危険で悲惨な目に遭《あ》うからだ。」
オルア
「分かった。
上船者は即処分でいいのよね。」
真々美
「できる限り、あたまを狙って欲しいな。
脳以外は使い道があるからな。」
冬香
「尋問用に数人は残してくれないの?」
真々美
「不要だろうな。
どうせ吐かないだろうし、時間も無いからな。」
冬香
「たしかに、スケジュールが遅れているわよね。
アリムさんの遺伝子治療や
オルアとの交配届け一式まで
時間が足りないわね。」
オルア
「そんなに大変なの?」
真々美、冬香
「「大変。」」
冬香
「本来なら、邪魔が入らない状況でも面倒くさくて大変だからね。」
真々美
「アリムさんが協力的で本当に良かった。」
オルア
「そういえば、どうしてアリムさんは、私たちの意向に沿《そ》うようにしてくれるのかしら。」
真々美、冬香
「「オルアのことが大好きだからよ。
言わせたいだけでしょ。」」
オルア
「えへへ。
ばれちゃったあ。」
真々美とオルアは警備兵の装備の確認と演習を行った。
冬香は残りの事務処理など一切を行った。
冬香
「本国に残っている軍を動かせたら、楽になるはずなんだけどなあ。
まあ、最後の手段よね。」
◇
9日目 PM 00:00
冬香
「アリムさん、ただいま。」
アリム
「おかえり、冬香さん。」
冬香
「洗濯ありがとう。
かなり減らしてくれて助かるわ。」
アリム
「どういたしまして。」
冬香
「わたしの部屋は、どうだった?」
アリム
「I Love You のクリスタルが綺麗だったよ。
モテるんだね、冬香さん。」
冬香さんは、少し顔を赤らめて、向こうを向いた。
冬香
「それは、自分で買ったのよ。
こういう贈り物をしてくれる男性がいたらなあって。
もっとも、好きになった男性からのプレゼントじゃなきゃ意味ないけどね。」
アリム
「なるほどね。
贈り物をしてくる男性には困っていないけれど、受け取っても良いという男性には出会えなかったんだね。」
冬香
「そんなところよ。
他には、なにか気になるものはあったかな?」
アリム
「そうだねえ、むずかしそうな本が多いと思った。」
冬香
「ほかには?」
アリム
「きれいに片付いているなあと思ったよ。」
冬香
「ほかには?」
アリム
「うーん、青色系の服が多いなあと思う。」
プチン。
なにかが切れたような気がした。
冬香
「ベッドにわざとらしく脱ぎ捨ててあった、ブラジャーとパンティーは、どう思ったって、聞いているのよ!」
アリム
「えっ、それのこと。
言わなきゃダメ?
恥ずかしいなあ。
G70って、書いてあった。
大きいなあ、見事だなあって思いました。」
冬香
「そう、それのことよ。
まさか、気にならなかったわけじゃないわよね。」
アリム
「すっごく気になりました。」
冬香
「よろしい。
で、においというか香りはどうだった?」
アリム
「えっ、見ただけだから分からないよ。」
冬香
「じゃあ、今から嗅いでみて。」
アリム
「えっ?
冬香さんの香りを直接味わいたいとは思うけれど、下着の香りを嗅ぎたいとは思わないよ。」
冬香
「えっ? アリムさんって、そうなの?」
アリム
「そうだよ。
目の前で脱ぎたてを渡されたら、香りを確かめたくなるかもだけどね。」
冬香
「じゃあ、帰ってから渡すわ。
よろしくね。」
アリム
「よろしくねって、なにを?」
冬香
「下着に着いたわたしの香りに決まっているでしょ!
香りは大事よ。
恋人同士でも、違う香りのシャンプーや石鹸を使うようにする理由は、香りが大事だからよ。
性欲の対象かどうかだけでなく、未知の免疫をもっているかどうかという意味でも大事だからね。」
アリム
「勉強になりました。」
冬香
「じゃあ、食べに行きましょうか?」
アリム
「はあい。」
冬香は戸締りをした。
9日目 PM 00:10
冬香
「アリムさん、左腕をくの字に曲げて、外側に出してくれる?」
アリム
「こうですか?」
冬香さんは、アリムさんの腕に手をまわして、身体を寄せた。
冬香
「さあ、行きましょう。」
アリム
「照れるけれど、うれしいです。(〃▽〃)ポッ」
冬香
「うふふ、これが付き合っている男女の距離よ。
光栄に思ってね。
わたしと腕を組んで歩ける男性なんて、アリムさんくらいよ。」
アリム
「光栄です。
多くの男性と腕を組んだ経験があるのかと思いました。」
冬香
「真々美より格好いい男性は、ほぼいないのよね。」
アリム
「ひとりくらいは、いそうですね。」
冬香
「いたけどね。
あんにゃろう。
ねえ、聞きたい?」
アリム
「聞かない方が良いですよね。」
冬香
「正解。」
◇
冬香とアリムさんは、食堂に着いた。
アリム
「止まったということは、ここですか?」
冬香
「そうよ。
ここはね、親子丼と白菜の味噌汁が美味しいのよ。
わたしの好きな味を知って欲しいから、ごちそうするわ。
同じものを食べましょうね。」
アリム
「うん、楽しみです。」
冬香
「食券を買ってくるから待っててね。」
アリム
「ありがとう、冬香さん。」
冬香
「うふふ。」
冬香 こころの声
『良い感じに距離を詰めていけてるわね。
アリムさん。』
アリム
「親子丼と言えば、卵の半熟コントロールが難しいね。」
冬香
「そうね、何百、何千と料理するうちに分かるのでしょうね。」
アリム
「そんなには料理することはないなあ。」
冬香
「だから、プロの腕前を買うために店で食べるのよ。」
アリム
「そうだね。」
店員
「お待たせしました。
どうぞ、みそ汁は熱めなので、お気を付けください。」
アリム
「ありがとう。」
冬香
「ありがとう。」
店員 こころの声
『昨日は真々美様、その前はオルア様といっしょだった男性よね。
今日は、冬香様と一緒なの?
誰なの? この男性は?』
アリム
「いただきます。」
冬香
「いただきます。」
お上品に食べるアリムさんと、豪快に食べる冬香でした。
当然、冬香の方が早く食べ終わった。
アリム
「ご、ごめんなさい。
急ぎますね。」
冬香
「急がないで、ゆっくり自分のペースで食べてね。
素の飾らない私を見て欲しかっただけだから。
どう幻滅した?」
アリム
「ありがとう。
こころの内側に入れてもらっているような、身内として見てもらえているような、うれしい気持ちになりました。」
冬香
「なりました。
が、
なったよ。
に変わる日が楽しみね。」
アリムさんは、冬香にやさしく見守られながら、ゆっくりと食べることができた。
アリムさんは、せかされないで食事できることに、幸せを感じていた。
◇
アリム
「ごちそうさまでした。」
冬香
「ええ、この味を気に入ってくれると、うれしいわ。」
アリム
「鶏肉に臭みがなくて、食べやすかったです。
放し飼いの鶏肉を使っているのでしょうか?」
冬香
「そうね、その分、高いのよ。
だから、たまにしか食べないわね。」
アリム
「ぜいたくですもんね。」
冬香
「そうね。
じゃあ、デザートにチョコバナナを食べたいから、チョコレートを買って帰りましょうね。」
アリム
「バナナは買わなくていいの?」
冬香
「うん、大丈夫よ。
でも、その前に少し歩きましょうか?」
アリム
「うん。」
冬香
「どう?
アリムさん。」
アリム
「こうして、ふたりで歩くって幸せを感じるよね。」
冬香
「そうよね。
ほかに感じることはない?」
アリム
「うーん、夏だから暑いけれど、くっついていたくなるね。」
冬香
「そうよね。
で、感じることはない?」
冬香さんはアリムさんの腕を強く抱き寄せた。
アリム
「うーん、ちょっと歩きにくいのが、恋人同士って感じでいいね。」
冬香
「なに、カマトトぶってんのよ。」
アリム
「べつにかわい子ぶっているつもりは無いけれど、ただ、そう思っただけよ。」
冬香
「アリムさんって、本当に恋愛経験が無いのね。」
アリム
「うん、無いよ。
気の利いたこと言えなくて、申し訳なく思っております。」
アリムさんは泣きそうになっている。
冬香
「ううん、そうじゃなくて、そんなふうに思わないでね。
ただね、さっきからアリムさんに押し付けている私の胸にドキドキしているかどうかを知りたいだけなのよ。」
アリム
「そ、それは本当にドキドキして、うれしいです。
でも、そういうこというと、ドスケベ変態って嫌われそうだから言わないようにしていました。」
冬香
「なるほどね。
そうなのね。
アリムさん、わたしはね、そういうことをアリムさんの口から恥ずかしそうに言わせて、からかいたいのよ。
意中の男性が私自身の胸にドキドキしている顔を見て、いじめたいのよ。」
アリム
「いじめっこは嫌いです。」
冬香
「そうじゃなくてね。
どう言えば良いのかなあ。
打てば響くようにとまでは言わないけれど、ドキドキしてほしいのよ。
そうすれば、私自身の魅力でアリムさんを捕まえられそうって、うれしくなるのよ。」
アリム
「落とせそうだったら、興味を無くす女性って多くないですか?」
冬香
「わたしは興味というか関心があるというか捕まえたい男性にしか、時間と労力を掛けないわ。」
アリム
「冬香さんのように説明してくれる女性は有り難いです。」
冬香
「わかってくれて良かったわ。
で、どう?
アリムさんの腕に感じる私の胸の感触は?」
アリム
「とっても、素敵です。」
冬香
「よろしい。
じゃあ、チョコレートを買って帰りましょうね。」
アリム
「えっ? もう帰るの?」
冬香
「アリムさんも知っている通り、今夜は団体の招いていないお客様が来るから、真々美とオルアと一緒に対応しないとダメなのよ。」
アリム
「そうだったね。」
冬香
「そうなの。
それで、ぜったいに省略したくない部分は、分かるでしょ?」
アリム
「晩御飯かな?」
冬香はアリムさんの耳にささやいた。
冬香 小声
「アリムさんとの熱い熱い夜の健康診断よ。」
アリム
「それって、もしかして、ご休憩のこと?」
冬香
「そう、休憩したあとの方が疲れているという謎の休憩が有名ね。」
アリム
「お外で言うなんて恥ずかしいよ。」
冬香
「あら、わたしは小声でささやいただけよ。」
アリム
「そうだったね。」
冬香
「わたしの勝ちね。」
ふたりが冬香の個室に戻ったのは3時のおやつ前だった。
9日目 PM 02:30
◇
冬香さんも攻めをする予定でしょうか?
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