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第1章 ボクの新しい名前

005 【挿絵】 オルアさんと、わたしの新しい名前

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 オルアさんが専属メイド(実は、将来のパートナー)になることを引き受けられました。



 待合室となった別室で息が詰まる思いをして、わたしは結果を待っていた。

 短くて、はかない夢だったな。
 ベーシックインカムを導入した国に招待されるなんて、あまい夢を見なきゃよかった。
 目から涙があふれだす。

 ノックノックとドアを叩かずに声で言う人がドアの前にいた。

司会:
「開けるぞ」
医師:
「どうしました、どこか痛いですか? それとも、お腹がすきましたか?」
オルア:
「ご希望が有れば、言ってね。」

わたし:
「結果が不安になって、考えたら悲しくなって・・・」

 司会と医師は、オルアを見る。
 『良いなあ。 代わって欲しい。』と心の中で思った。
 優しくなぐさめて寄り添えば簡単に落とせそうだ。

オルア:
「大丈夫ですよ。
 これからは私がフォローしますから。
 私のことは、オルア様と呼びなさい。」

わたしは、
『なんか怖い、わたしを弱らせてコントロールしたいひとかな?』
と不安になった。

司会:
「ざぶとん、全部とりなさい。」

医師:
「はい。」

司会:
「オルアさんと呼べばいい。 適切な距離感は大事だからな。」

わたし:
「オルアさん、よろしくお願いします。」

オルア:
「わたしといるときは、常に敬語を使って常にへりくだった態度でいれば、それ以上気を遣うつかうことは無いから。」

わたし:
「ゴマをすらなくて良いなら助かります。」

司会:
「オルア、いい加減にしろ? ああ。」

医師:
「ゴマをすることは苦手ですか?」

わたし:
「たとえば、和菓子が大好きだ!と宣言してもらえたら、和菓子を贈ります。
 しかし、言わなくても分かるだろう?と言われても分かりません。」

司会:
「言わなくても分かるだろ?って、あかちゃんを相手にしてきたのか?」

わたし:
「いいえ、成人した方々でした。」

医師:
「苦労してきたのですね。」

オルア:
「これからは、わたしがサポートしますので、泥船に乗ったつもりで安心してください。」

わたし:
「せめて、木の小舟でお願いします。」

『相性は悪くないのかもしれないな。』
 司会と医師はそう判断した。
 そして、疲れた。



医師:
「あなたが会場で不便を感じたことの原因が分かりましたので、本国到着までに治療します。」

わたし:
「なにの治療ですか?」

医師:
「主に、赤緑色盲(red-green color blindness)と聴覚情報処理障害(APD, auditory processing disorder)ですね。」

わたし:
光元国ひかりもとこくでは治療方法が見つかっていません。
 それを治すとなると、とても高額になるのでは?
 わたしには払えません。」

司会:
「あなたが、カセイダード本国の国益に尽力してくれれば大丈夫です。」

わたし:
過度かどの期待をされても困ります。
 期待外れだと、がっかりされて、嫌われたり、罵倒ばとうされたり、いじめられたり、怒鳴られたりしたくありません。」

オルア:
「その場合は、わたしのサポートがダメだったということで、私の責任になります。」

わたし:
「そんな成績保証の学習塾のようなことをして良いのですか?
 責任を押し付ける先が確保されていれば、なまけて努力しなくなりますよ。」

オルア:
「馬鹿正直ですね。
 そのときは早めに見捨てますから気にしないでください。」

わたし:
「オルアさんは逃げられるなら良いことですね。
 でも、わたしは
 「出来そうにないことは出来ない、無理です。」
 とお断りしたいです。
 傷が小さいうちに。」

オルア:
「おはようからおやすみまで、いっしょにいますから大丈夫です。
 それとも、わたしが一緒にいることで、あなたのやる気というか活力になりませんか?
 わたしには魅力を感じませんか?」



 わたしは、オルアさんの目を見た。
 先ほどまで、強い言葉をはなっていた人物とおなじとは思えないほど、目がうるおっていた。 まばたき1つでもすれば、涙があふれだすかもしれない。

わたし:
「でも、わたしが、オルアさんにお返しできるものが有りません。
 オルアさんになんのメリットが有るのですか?」

司会:
「もういい、だいたい分かった。」

 良かった。あとは、荷造りするだけだな。短い夢でも楽しかった。
 オルアさんに余計な苦労をさせて、恨まれなくて済む。
 わたしは、そう思った。

医師:
「過去の経験が、あなたをそうしたのですね。
 でも、カセイダードに移住するのですから、過去を清算しろとまでは言えませんが、無かったこととして箱に閉じ込めても良いのではないですか。」

司会:
「そうだな。
 光元国ひかりもとこくのことを忘れるためにも、気分を変えるためにも、改名することを勧める。
 これからの貴方は夢をもてるようになって欲しい。
 そして、『私には、夢が有る!』と胸を張って、自信を持って生きて欲しい。
 そう願って、この名を贈る。」

 アリム・・・「夢が有る」という意味だ。

医師:
「アリムさん、これからは新しい人生を歩んでください。
 それが治療できない部分を癒してくれます。」

 わたしは、感動して、うつむいて泣いてしまった。
 これまでの苦しい過去、悲しい経験から解放された気がして、大声を出して泣いてしまった。



 10分間ほど泣いただろうか?
 私が泣きやむまで、3人はそばにいてくれた。

 オルアさんの声が聞こえる。

 ずっと、わたしが泣きやむのを待って、わたしの新しい名を呼んでくれた。

オルア:
「アリムさん、あごあげて、そらを見て、元気出して。
 こんな素敵な人がそばにいるんだから!
 ねっ。」

 やさしい視線まなざしと、包むような笑顔に、こころが暖かくなった。

アリム:
「はい。」

 わたしの新しい人生が始まろうとしていた。



オルア:
「行くよ! アリムさん。」
と手を引いてくれた。

アリム:
「はい。」
手から伝わるオルアさんの体温に幸せを感じました。
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