上 下
6 / 209
第1章 ボクの新しい名前

005 【挿絵】 オルアさんと、わたしの新しい名前

しおりを挟む
 オルアさんが専属メイド(実は、将来のパートナー)になることを引き受けられました。



 待合室となった別室で息が詰まる思いをして、わたしは結果を待っていた。

 短くて、はかない夢だったな。
 ベーシックインカムを導入した国に招待されるなんて、あまい夢を見なきゃよかった。
 目から涙があふれだす。

 ノックノックとドアを叩かずに声で言う人がドアの前にいた。

司会:
「開けるぞ」
医師:
「どうしました、どこか痛いですか? それとも、お腹がすきましたか?」
オルア:
「ご希望が有れば、言ってね。」

わたし:
「結果が不安になって、考えたら悲しくなって・・・」

 司会と医師は、オルアを見る。
 『良いなあ。 代わって欲しい。』と心の中で思った。
 優しくなぐさめて寄り添えば簡単に落とせそうだ。

オルア:
「大丈夫ですよ。
 これからは私がフォローしますから。
 私のことは、オルア様と呼びなさい。」

わたしは、
『なんか怖い、わたしを弱らせてコントロールしたいひとかな?』
と不安になった。

司会:
「ざぶとん、全部とりなさい。」

医師:
「はい。」

司会:
「オルアさんと呼べばいい。 適切な距離感は大事だからな。」

わたし:
「オルアさん、よろしくお願いします。」

オルア:
「わたしといるときは、常に敬語を使って常にへりくだった態度でいれば、それ以上気を遣うつかうことは無いから。」

わたし:
「ゴマをすらなくて良いなら助かります。」

司会:
「オルア、いい加減にしろ? ああ。」

医師:
「ゴマをすることは苦手ですか?」

わたし:
「たとえば、和菓子が大好きだ!と宣言してもらえたら、和菓子を贈ります。
 しかし、言わなくても分かるだろう?と言われても分かりません。」

司会:
「言わなくても分かるだろ?って、あかちゃんを相手にしてきたのか?」

わたし:
「いいえ、成人した方々でした。」

医師:
「苦労してきたのですね。」

オルア:
「これからは、わたしがサポートしますので、泥船に乗ったつもりで安心してください。」

わたし:
「せめて、木の小舟でお願いします。」

『相性は悪くないのかもしれないな。』
 司会と医師はそう判断した。
 そして、疲れた。



医師:
「あなたが会場で不便を感じたことの原因が分かりましたので、本国到着までに治療します。」

わたし:
「なにの治療ですか?」

医師:
「主に、赤緑色盲(red-green color blindness)と聴覚情報処理障害(APD, auditory processing disorder)ですね。」

わたし:
光元国ひかりもとこくでは治療方法が見つかっていません。
 それを治すとなると、とても高額になるのでは?
 わたしには払えません。」

司会:
「あなたが、カセイダード本国の国益に尽力してくれれば大丈夫です。」

わたし:
過度かどの期待をされても困ります。
 期待外れだと、がっかりされて、嫌われたり、罵倒ばとうされたり、いじめられたり、怒鳴られたりしたくありません。」

オルア:
「その場合は、わたしのサポートがダメだったということで、私の責任になります。」

わたし:
「そんな成績保証の学習塾のようなことをして良いのですか?
 責任を押し付ける先が確保されていれば、なまけて努力しなくなりますよ。」

オルア:
「馬鹿正直ですね。
 そのときは早めに見捨てますから気にしないでください。」

わたし:
「オルアさんは逃げられるなら良いことですね。
 でも、わたしは
 「出来そうにないことは出来ない、無理です。」
 とお断りしたいです。
 傷が小さいうちに。」

オルア:
「おはようからおやすみまで、いっしょにいますから大丈夫です。
 それとも、わたしが一緒にいることで、あなたのやる気というか活力になりませんか?
 わたしには魅力を感じませんか?」



 わたしは、オルアさんの目を見た。
 先ほどまで、強い言葉をはなっていた人物とおなじとは思えないほど、目がうるおっていた。 まばたき1つでもすれば、涙があふれだすかもしれない。

わたし:
「でも、わたしが、オルアさんにお返しできるものが有りません。
 オルアさんになんのメリットが有るのですか?」

司会:
「もういい、だいたい分かった。」

 良かった。あとは、荷造りするだけだな。短い夢でも楽しかった。
 オルアさんに余計な苦労をさせて、恨まれなくて済む。
 わたしは、そう思った。

医師:
「過去の経験が、あなたをそうしたのですね。
 でも、カセイダードに移住するのですから、過去を清算しろとまでは言えませんが、無かったこととして箱に閉じ込めても良いのではないですか。」

司会:
「そうだな。
 光元国ひかりもとこくのことを忘れるためにも、気分を変えるためにも、改名することを勧める。
 これからの貴方は夢をもてるようになって欲しい。
 そして、『私には、夢が有る!』と胸を張って、自信を持って生きて欲しい。
 そう願って、この名を贈る。」

 アリム・・・「夢が有る」という意味だ。

医師:
「アリムさん、これからは新しい人生を歩んでください。
 それが治療できない部分を癒してくれます。」

 わたしは、感動して、うつむいて泣いてしまった。
 これまでの苦しい過去、悲しい経験から解放された気がして、大声を出して泣いてしまった。



 10分間ほど泣いただろうか?
 私が泣きやむまで、3人はそばにいてくれた。

 オルアさんの声が聞こえる。

 ずっと、わたしが泣きやむのを待って、わたしの新しい名を呼んでくれた。

オルア:
「アリムさん、あごあげて、そらを見て、元気出して。
 こんな素敵な人がそばにいるんだから!
 ねっ。」

 やさしい視線まなざしと、包むような笑顔に、こころが暖かくなった。

アリム:
「はい。」

 わたしの新しい人生が始まろうとしていた。



オルア:
「行くよ! アリムさん。」
と手を引いてくれた。

アリム:
「はい。」
手から伝わるオルアさんの体温に幸せを感じました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。

白藍まこと
恋愛
 百合ゲー【Fleur de lis】  舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。  まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。  少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。  ただの一人を除いて。  ――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)  彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。  あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。  最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。  そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。  うん、学院追放だけはマジで無理。  これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。  ※他サイトでも掲載中です。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...