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朝議
104話
しおりを挟む紅龍は物思いにふけっていた意識を現実に戻し、怒りで震える紫僑と向き合う。
「龍人にとって血族は重要なものなんじゃないの?!」
「その重い血族の絆を切ってもいいと思ったからです。私にとっての家族は皇帝陛下、皇后陛下、飛龍兄上だけです。それはあなたとの血の繋がりよりも重いものとなりました」
紅龍は皇帝と飛龍の前に移動し紫僑と対峙する。
「それでも、いつかあなたも私に心を向けてくれると期待しなかったと言えば嘘になります。だから今まで決定的な証拠は手元に留めておきました」
そういう紅龍の目は切なさに揺れていた。それを隠すように目を強く閉じた。そして改めて紫僑を見据えた。
「しかし後宮に潜んだ梠尚書の手の者を書き起こした書を父上に渡した時、そんな気持ちももう消えました。私はもうあなたの息子とは思わないでください」
紫僑は知らぬうちに紅龍がそこまで証拠を集めているとは気づかなかった。それは今まで息子のことをきちんと見ようとしなかったツケが今まさに回ってきたということだった。
「そんな……じゃあ私が泰龍様の正妃になるためにしてたことも」
「全てお伝えしています。そして後宮に梠尚書が忍び込み母上と逢瀬を重ねていたこともご存知でした」
それを聞いた瞬間、紫僑は崩れ落ちた。もう言い逃れができないと理解したからだ。
泣き崩れる紫僑の姿を見た渧淳は懐に忍ばせていた小刀を取り出し飛龍たちの方へと飛び出した。
飛龍たちは紫僑の方に気が取られており一瞬気付くのが遅れた。狼の獣人である渧淳は瞬発力が高くその一瞬が命取りだった。
せめて紅龍を守ろうと腕を引き背に庇った飛龍。少しの切り傷くらいで済むか、と思った時――。
「飛様!」
飛龍の前に飛び出す影がひとつ。その影の正体を飛龍は直ぐに理解した。
「やめろ! 蓮花!」
朝議の間の時が止まった。そして人が倒れる音が聞こえた。それは渧淳に刺された蓮花ではなく、渧淳だった。
飛龍は初めて本気で人に向けて龍人の威圧を使った。次期皇帝である飛龍の威圧は泰龍に引けを取らぬものだ。泰龍は普段威圧を振りまいたりはしないため、耐性がついていないところに本気の威圧を食らえば気絶するのも無理はない。
「蓮花! 怪我は!?」
蓮花は勢いよく肩を掴まれ振り向かされる。あまりの剣幕に蓮花はコクコクと頭を上下に振るしか出来なかった。
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