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朝議
100話
しおりを挟む龍人に対する恐れから口を開くこともままならぬ渧淳をとりあえず置いておき、泰龍は横に佇む紫僑に問いかける。
「お前はこの小瓶をどうやって手に入れた? ん?」
紫僑の顎に指をかけ自分の方へと向かせる。いつもの紫僑ならば狂喜乱舞するであろうその仕草も、この状況ではただ恐怖を煽る仕草でしかない。知らぬうちに震え出す体を抑えられず紫僑の目には恐怖の色が浮かんだ。
「こ、これは、私の実家から届いたものですから。きっと偶然梠尚書と同じ意匠のものだったのでしょう。昔から私達の家は交流がございましたから……」
「そういえばお前は元々は渧淳の許嫁であったな。元々結ばれる運命だったお前たちを私が引き裂いてしまったというわけか」
ふっ、と皮肉っぽく笑った泰龍に渧淳は腸が煮えくり返りそうだった。
泰龍を睨みつけていると横に座っていた紅龍が立ち上がる。
「父上。母上がどこでそれを手に入れたかはこちらを見ていただければよろしいかと」
紅龍は胸元から一枚の紙を取り出した。そして泰龍へと手渡す。それは渧淳が紫僑に解毒薬を贈ったときのものだった。
泰龍は中身をざっと確認したあと紫僑にそれを向けた。
「これはこれは、熱烈な恋文だな? 紫僑、お前も私の毒殺に一役買ってたとはな」
「っちが、違います! 私は泰龍様をお助けしようと心から思っておりました!」
紫僑から一気に血の気が引いてゆく。必死に弁明をしようとするが泰龍の冷たい目は変わらない。
紫僑は自分の立場が一気に悪くなったことを理解した。
その元凶となった紅龍に向かって掴みかかろうと足を踏み出したが、飛龍に後ろから羽交い締めにされる。
「なぜお前がこれを持っている! 私は捨てたはずなのに!」
先程まで泰龍に見せていた表情とはまるで違い鬼のような形相で食ってかかる紫僑。
紅龍はそんな母の姿を冷めた目で見返した。
「私は母上から直接頂きましたよ、その文を。お忘れですか?」
紫僑は以前いらない文を紅龍についでに捨てておくようにとまとめて渡したことを思い出す。まさかあの束の中に紛れていたのか。
はっと思い出した紫僑は口元を抑える。
「どうやら思い出されたようですね。母上はいらない文だからまとめて捨てておくようにと私にくださいましたね。ここには持ってきていませんが、梠尚書からの恋文はまだまだ残っていますよ」
「――いらない文だって?」
渧淳は頭上にある耳をピンと立てながら、信じられない気持ちで耳に入った言葉を繰り返す。
「冗談なのでしょう? 私の文を……想いを要らないものだと偽装していただけですよね?」
渧淳の切ない視線から逃げるように紫僑は目を逸らした。それが答えだった。
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