86 / 114
宴
86話
しおりを挟む前を向く飛龍につられて蓮花も舞台へ目をむける。
そこにはしゃなり、しゃなりと出てくる綉礼だった。
照明に当たり、透き通る赤髪に真珠の髪飾りがとても映えている。衣装も薄桃の生地に鮮やかな牡丹の刺繍がされており、まるで花の妖精が舞い降りたようだった。
蓮花だけでなく会場中の人が魅了され、ほう、という簡単が漏れ聞こえる程だ。
蓮花は綉礼が自分の昔の嫌な思い出がある赤髪を盛大に飾り立てていることにとても嬉しく感じた。
それは綉礼がもうその嫌な思い出に囚われないという意思表示のようにも思えたから。
蓮花は綉礼の姿に笑顔が溢れるのを止めることが出来なかった。
そんな蓮花の姿を飛龍が穏やかな顔で見ているとはゆつにも思わず。
綉礼が背後の奏者に目配せをすると演奏が始まる。
優しく響く二胡の音。
紅で鮮やかになった綉礼の口が開く。そこから奏でられる歌声はとても綺麗で心に染み入るようだった。
綉礼が歌っている曲は、想々恋歌。
強制的に離された身分違いの恋人が、たとえ離れていてもこの心はあなた一人のためにあると訴える歌詞だ。
最後には二人は結ばれるという終わりのため、女性にはとても人気が高い曲目だった。
蓮花は曲に聞き入るほど自分の気持ちを重ねてしまう。
恋人ではないが、身分が違う蓮花と飛龍。結ばれることの難しさ、そこに待ち受ける辛さ。たとえ曲のようにいい終わりでないとしても。
蓮花はきっと飛龍を好きになった事を後悔はしない。それは自信を持って言える。
不意に綉礼の目が蓮花と合った様な気がした。綉礼は目だけで微笑んでいるようだ。
そういえば綉礼は前に飛の正体がわかったかもしれないと言っていた。あの時から蓮花の言っている人が飛龍で第一皇子だと知っていたのだろうか。
もしそうなら綉礼がこの曲を選んでくれたのは蓮花の事を思ってだろうか。
さすがに自惚れすぎかとも思ったが綉礼の表情からあながち勘違いでも無いかもしれないと蓮花は思った。
友人の素敵な歌声に込み上げてくるものがあったが仕事中なのでどうにか息を吐いて涙を逃がす。
飛龍はどんな気持ちでこの歌を聞いているのだろうか。ふと気になり横目で飛龍を見ると、翡翠の瞳とぶつかった。
まさか目が合うと思っていなかった蓮花は驚く。直ぐに綉礼の方へ目線を戻そうとした、その時。
蓮花の小指に温かな感触が伝わる。
周りに気づかれないようそちらを見ると、飛龍の指が蓮花の小指に触れていた。
給仕をするためにある程度近い位置にいるからか、飛龍が蓮花に、手を伸ばしていることに気づいているものはいなさそうだった。
皆、綉礼にうっとりと見とれている。こちらを気にするものは今この時だけは一人もいない。
蓮花はまるで飛龍と二人きりになった錯覚を起こした。その雰囲気に絆されたのか蓮花は小指に少し力を入れ飛龍の指を握り返した。
飛龍の指もぎゅっと力が入ったが、蓮花は自分の心臓の音が飛龍に聞こえてしまわないかと言う心配でいっぱいだった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。
真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。
狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。
私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。
なんとか生きてる。
でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる