芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

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動乱

67話

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 その日、蓮花が仕事場に着くと厨房はざわめきに包まれていた。
 それぞれが隣にいる人とひそひそと会話をしている。一体何事かと人が集まる中心を見ると一枚の張り紙があった。それを見て蓮花はざわめきの原因を理解する。

【第一皇子の正妃選びとして一月後に宴を行う。これは皇帝陛下からの勅命である】

「なんだってこんな時に限って宴なんて……」
「逆にこんな時だからじゃないかい? もし何かあった時に第一皇子様のお妃様を、自分が認める人にしたいってことなのかも」
「おい、滅多なことを言うなっ。誰が聞いているか分からないんだ」

 蓮花もなぜこんな時にと思ったが周りの意見を聞いていると確かにと思うものもちらほら聞こえる。
 ただ蓮花には関わりのないことだ。自分はただ与えられた仕事をしっかりこなすだけ。
 そう考え自分の持ち場に向かおうとした時、入口に見知った人影を見つけて動きを止める。その人物は蓮花に向かって小さく手招きをした。

「奏子、なんでここに?」
「久しぶりね、蓮花」

 そこにいたのは、前回臨時で給仕係を手伝った時に知り合った奏子だった。会うのはあの時以来だったのでかなり久しぶりに顔を合わせる。

「あなたも聞いた?」
「もしかして宴の話? それならさっき貼り紙を見て知ったところよ」

 蓮花は後ろをちらと振り返り人だかりを目で示す。しかし奏子の反応は思ったものではなかった。

「じゃあまだ知らないのね」
「え? 宴のことじゃないの?」
「私たち給仕係は他のところより先に情報が来てて、それぞれの担当を確認していたの。そしたら……」
「そしたら?」

 奏子は言おうか迷っているのか少し間の後、口を開いた。

「第一皇子様の給仕係の所にあなたの名前があったの!」
「……え?」

 奏子の口から飛び出た言葉が飲み込めず思わず聞き返す。自分の耳が一気におかしくなってしまったのかと思った。

「だから、あなたが次の宴の皇子様の給仕係になってたのよ!」
「ええ?! な、なんで!?」

 なぜ自分が第一皇子様なんて高貴な方の給仕係になっているのか蓮花は奏子の両肩を思わず掴んでしまった。

「私も知らないわよ! ここだけの話、皇帝陛下がお倒れになられてから宮廷の雰囲気がおかしい気がするの。給仕係の中にも急に担当が変わって威張り始めた子が何人かいて……。今までこんなことなかったのに……」

 奏子は小声で蓮花にそう教えてくれた。奏子の言葉に蓮花も実は思い当たることがあった。厨房の使いで宮廷内を歩く時に武官や官吏が数人こそこそと固まっている様子を蓮花も時々見かけるようになった。
 皇帝が倒れるまでもあったのかもしれないが、目につく頻度がぐんと上がった印象がある。

 やはり宮廷の至る所で何かしらの異変が起きているようだと蓮花は実感する。
 しかし今はその異変よりも自分の身に起こった異変のことを考えなければならない。

「とりあえず……あとからちゃんと連絡は行くと思うんだ。私驚きすぎて、蓮花が知ってるのか気になっちゃって」 
「寝耳に水だわ……。奏子から聞いてなかったら上官の方に大声上げちゃってたかもしれない。ありがとう」

 蓮花は衝撃からまだ戻りきれていないが、仕事は待ってくれない。奏子も合間を見て抜けてきてくれたようなのでお互い仕事に戻ることにした。

 しかしその後の蓮花は手を動かしながらも、宴の事で頭がいっぱいになってしまった。
 失敗は幸いしなかったが、どうしたものかと蓮花は唸りがら家へと帰宅することになった。

 
 
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