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動乱
56話
しおりを挟む宮廷の中でも限られた数人しか入室することの出来ない部屋。――皇帝の執務室の扉を飛龍は開ける。
無駄な贅沢を嫌う父の部屋は通常の尚書の部屋より一回り大きいくらいで骨董品や豪華な椅子などはない。ただ数が多い書簡を置けるほどの幅を兼ね備えた、大きめの机と本棚がある程度だった。
「来たか」
「お呼びでしょうか、父上」
皇帝陛下――姜 泰龍は書簡から目を上げ入室してきた息子を見る。
息子よりも青に近い縹色の髪を持ち、幾多の困難を乗り越えてきた皇帝たる風格があった。親子は似るもので飛龍もあと二十年すれば父のような面差しになるだろうと周りから言われるほどだ。
「そろそろ本腰を入れて動こうかと思ってな。どうやら後宮の一部でよからぬ動きが活発になって来ている。お前も知っているな」
「はい。私も隙を見て動いておりましたが、父上がそう仰るなら計画を詰めて参ります」
この一年ほど、皇帝と飛龍は宮廷に巣食う毒を消し去ろうと動いていた。今の宮廷では安心して飛龍に皇帝の位を譲ることができないからだ。
いつの世も宮廷に使える官吏全てが皇帝に忠誠を誓っている訳では無い。権利と金、欲にまみれ皇族に刃向かおうとする者。そこまでの野心は無いがおこぼれにあやかって懐を潤わそうとする者。
龍人であるかつての皇族達は生まれ持つ力――獣人と人間を本能から恐れさせる力でそういった者たちを押さえつけてきた。
しかしそれも虚しく不正や横領は無くならない。その者が治める領民が苦しい思いをしている。現皇帝はどうするべきか長い間考えていた。
すると息子の飛龍がある提案をしてきた。不正を働くものを一掃しよう、と。
「暫くの間しか効かないかもしれませんが、もし悪事を働けば自分の身に何が起こるかの見せしめにはなります。それにこういった悪事は元々宮廷に仕えていたものが部下に教えこんで蔓延してしまっています。その始まりの部分を断つのです」
「しかしその手段をどうするかだ。あいつらは巧妙に証拠を残さないようにしている。反逆罪に問おうとしても起こっていない以上罪には問えん」
渋い顔をして腕を組む皇帝に飛龍は手を顎に当てて考える。そして思いついたように言った。
「起こっていないのであれば起こさせれば良いのです」
皇帝は驚きのあまり自分の息子の顔を凝視した。
「――父上? ぼうっとされてお疲れなのでは?」
過去のことを思い出していた皇帝の耳に心配そうな息子の声が届く。飛龍は話しかけても反応がないので訝しげな顔で父の様子を伺っていた。
「ああいや、少し考えを巡らせていただけだ。なんの話しだったか」
「着実に関係者の一覧は増えています。しかも正確に。その部分があちらに任せきりになってしまうのは心苦しいですが――早く楽にさせてあげたいので」
「……そうだな。 そういえば、煌嵐から聞いたが最近女人と会っているようだな」
突然、雲嵐の父――煌嵐の名前が出て来たことに驚いたが話の内容に雲嵐が告げ口したのだとすぐ理解した。皇族に仕える胡家は良くお互いの主の情報共有をしている。
それにしても伝える情報が悪すぎると、飛龍は思わず口をへの字に曲げた。
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