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出会い
47話
しおりを挟む蓮花がもう宮廷で働く必要がないとわかっても飛は引き止めてくれた。その事実に胸が温かくなる蓮花。
「私も父様にどうするのか聞かれた時、頭では辞めるのが普通だってわかってました。でも結局結論を先延ばしにしちゃいました」
ははと蓮花の口から、から笑いがでる。飛は何も言わず歩を進める。
「私が宮廷を辞めたらこうやって飛様と会うこともなくなるんだろうなって思ったら――辞めるなんて言えませんでした」
次は本当の微笑みを浮かべて蓮花はそう言った。飛も同じように頬を緩ませる。
「じゃあ私達は似た者同士ということか」
「はい。似た者同士ですね」
二人とも前を向いて並んで歩いているので目線は合わせていない。だが別の何かが二人の中で繋がった様な気がした。
そうしているうちにいつの間にか厨房の方まで戻ってきていたようだ。二人はいつの間には再び喧騒に包まれていた。
「それじゃあ――また今度」
「はい。――また今度」
最初は勢いでつけてしまった、また今度という言葉。しかし今ではその言葉はしっかりとした力強さで二人の心に響いていた。
「またせたな。使いは?」
「こちらに。――随分と仲良くなられたようで」
「自分が綉礼と中々会えないからって僻むな。さっさと婚約でもしたらいいだろう」
蓮花と別れたあと飛は足早に自室に向かう。身に纏う雰囲気は先程までとは違い鋭さを感じる。しかしいつも雲嵐が接するのはこちらの飛なので特に何も感じることはない。飛は自室に到着すると着ていた衣を着替え始める。
「うちの父が貴方の結婚相手を案じているのをご存知でしょう。貴方の相手が出てこないと私も結婚なんてできませんよ」
「子供じゃないんだし相手くらい自分で決めるさ」
「例えば――蓮花さんですか?」
雲嵐がからかうように含みを持たせて返すと、飛は横目で睨む。雲嵐は表情には出さないが思わず唾を飲む。
「本気でなくとも貴方のその顔を見ると肝が縮みますね」
「だったらそのホイホイ出てくる軽口をどうにかすることだ。ここであまり迂闊に名を出すな」
飛は雲嵐と会話しながら帯を締める。それは先程まで着ていた少し良い生地ではなく国で一、二番を争う高級なものだった。
袂を整えた飛に雲嵐は小さな箱を開けた状態で差し出す。飛はそこに収まっていた指輪を右手の中指に通す。
飛はそのまま雲嵐を連れて横に繋がる自分の執務室の扉を開いた。
そこに居たのは一人の武官だった。飛の入室に気付いた男は立ち上がり礼をとる。
「待たせてすまなかったな」
「いえ、とんでもございません。私ごときにお時間を頂き申し訳ありません。――飛龍皇子」
「立ったままでは話しにくいでしょう。どうぞお掛けください」
雲嵐はいつも通り笑みを浮かべて男を座らせる。飛と雲嵐も椅子に座り姿勢を正した。
その飛の中指では次期皇位継承者の証である指輪が煌めいていた。
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