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出会い
42話
しおりを挟む木陰で目を閉じていた蓮花はいつの間にか意識が深く落ちてしまい眠っていた様だ。
徐々に浮上する意識の中、手に何かが当たっているのを感じる。とても柔らかくふわふわしている。
その物体の正体を確かめようと目を開けると蓮花の眼前に白い塊が飛び出してきた。
「わぁ! 」
「わん!」
小刻みに呼吸をしている塊の正体は毛並みの良い白い大きな犬だった。
そしてその白犬は遊んで!とでも言うように蓮花の顔をペロペロと舐め始めた。
「く、くすぐったいよ。よしよし――」
「こんな所にいたのか」
「あ、飛様……」
蓮花が犬の頭を撫でていると前方から飛が歩いてきた。蓮花の顔を舐めていた白犬は飛の方へと歩いていった。
昨夜は飛の事を考えていたので変に意識してしまう。少しの間姿を見ていなかったのにこういう時に限って会ってしまうとは。
「今は昼休憩か?」
「いえ、今日は午前までなんです。お料理を分けてもらったので冷めないうちに頂こうと思って」
「そうか。――蓮花、午後から空いてるんだったら付き合ってくれ」
蓮花の答えを聞いて少し考えた後、飛は蓮花に聞く。特に予定はなかったので蓮花も飛の言葉に快く頷いた。
白犬は飛が目線を飛ばすと何も抵抗せず歩き始める。随分と懐いている様子だ。蓮花は飛の少し斜め後ろを歩きながら飛の横顔を盗み見る。
あまり二人で歩くことがなかったから実感がなかったが、飛の身長がかなり高いのがよく分かる。蓮花が平均より少し小柄なのもあるが、二人で並んで歩くと頭二つ弱程違うのではないだろうか。
白犬の様子を時折確認する飛の眼差しはとても柔らかく暖かい。蓮花はその姿を見て自然と緊張していた気持ちが解けていくのを感じた。
「この子は飛様の犬なんですか?」
「いや、昔からの友人の家で飼ってるんだがたまに私の気分転換に付き合ってもらうんだ」
「へえ。名前はなんというんですか?」
「白だ。見たまんまだな」
ははと笑う飛に蓮花もつい笑ってしまう。飛は少し後ろの方にいる蓮花に気付き、蓮花の背に手を回し引き寄せる。
突然の接触に蓮花の鼓動は自然と高鳴る。意識しないようにと落ち着けようとするが、あまりの近さに飛が焚いている香まで香ってきて余計に緊張してしまう。
「そんなに離れて歩かないでくれ。横で並んで一緒に歩きたいんだ。横を見ても一人なんて寂しいだろう?」
茶化すような言い方だったが、なんだか蓮花には飛の本音が混じっているように感じた。
蓮花に正体を踏み込ませない一線を引いておきながら、見かけると交流をしてくれる。こちらから距離を置くと、歩み寄ってくる。
まるで近づいて欲しくないけど一人になりたくない、そんな相反する感情が飛の中にあるかのように。
飛の翡翠の瞳に寂しさを感じる度、蓮花は飛にそんな顔をさせたくないという思いが強くなっていた。
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