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出会い
40話
しおりを挟む綉礼の邸に遊びに行った翌週のある日。夕飯も食べ終え一息ついた頃、柳家では子ども達が両親に集められていた。何か大事な連絡事項がある時はこうして一同が集まることが恒例となっていた。
「今日は皆にいい知らせがある」
王琳はある帳面を持ち出し机の上へ広げる。それは柳家の借金について纏められたものだった。
「二年前、お祖母様が亡くなる前の借金は金二百両程残っていた。この二年、生活費や予備費を抜いて私の給金で支払えたのは金百六十両。そしてお祖母様がどうしても手放さなかった骨董品の類を売り、約二十両返済できた」
王琳の厳かな口ぶりにいつもは騒がしい王偉や玲玲も静かに聞いている。蘭翠や王静も頭の中で父の言葉を反芻し、頭に落とし込んでいるようだ。
「後残りは二十両だ。月に六両ずつ返済し、蓮花が稼いでくれた二両を足して合計二十両。あと三ヶ月で返済できる見通しが立った」
蓮花は父の言葉を聴きながらやっと今までの苦労が報われる日が来たのかとしみじみ感じていた。
「今まで我慢をさせてしまって申し訳なかった。やっと、解放される時が来たよ。皆であと三ヶ月頑張ろう」
年長組の三人は父の言葉に強く頷き返す。 年少組の二人はまだ難しい話はさほど分からないようだったが、分からないなりに何かいい事が起こるということは理解出来たみたいだ。
「蘭玲も、今まで本当によく頑張ってくれたね。家のことを任せきりにしてしまってすまなかった」
「そんな、あなたもお仕事もあるのに家事の手伝いをしてくださったでしょう。私の方こそ感謝してもしきれません」
お互いを見つめ合う両親の姿に蓮花も笑みがこぼれる。
その時、王林は思い出したように蓮花の方を向き口を開いた。
「借金の返済が終わったら宮廷の仕事はどうする? もう続ける必要はなくなるけど、蓮花はどうしたい?」
「え?」
蓮花は父の問いかけに思わず思考が止まる。元はと言えば緊急で始めた仕事だ。借金を返すという目的が果たせた時、それは必要が無くなる。当たり前の流れだ。
本来であれば蓮花は年頃の令嬢で、そろそろ嫁入り先を見つけなければならない。男は家を継げるが、貴族の女がいつまでも家に居座ると穀潰しになってしまう。
貴族で働いてる女性を嫁に貰ってくれる家など余程のことがないと見つからないだろう。
つまり結婚相手を見つけると言うことは仕事を辞めるということだった。
仕事をやめればもう頻繁に宮廷へ行くこともなくなる。それは宮廷で会った飛とも気軽には会えなくなるということを意味する。
「まだ、今の所はどうするか決めれてないの。決めたらまた相談してもいいかしら?」
蓮花は自然と口が動いていた。今ここで辞めると言っても問題ない。しかし今はまだ飛と会うことの出来る少しの機会を無くしてしまいたくないと思ってしまった。
それがどういう意味を持っているのか、蓮花は自覚せざるを得なかった――。
補足
金一両=10万円として見ていますので金二百両は2,000万円になります。
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