芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

文字の大きさ
上 下
39 / 114
出会い

39話

しおりを挟む


 昔から李星は軽い調子で蓮花にちょっかいをかけてくる。最初はまともに返していたが他の人にも同じような事をしているのを見て、蓮花もある程度流すようになった。

「蓮花も今はちょっと気になる人がいるみたいだし、李もさっさと諦めなよね~」
「は?」
「ちょっと、明苑! だからそんなんじゃないってば」

 ニヤニヤする明苑を咎める蓮花。ふと李星の方をみるとさっきまでのにやけ顔ではなく何かを考えているような様子だった。

「李星?」
「あ? おお、まあ蓮花にもとうとう春が来たのか。俺の事は遊びだったのね!」
「なに言ってるんだか、全く。――私そろそろ家帰らないといけないから、向こうのお店寄ってから帰るね!」
「暗くなってきたから気をつけて帰れよー」
「うん、ありがと!」

 三人に見送られながら蓮花は帰路に着いた。









「お待ちしておりましたわ、渧淳テイジュン様。お会いしとうございました……」
「間が空いてしまって申し訳ありません……。何しろ人目をかいくぐるのはここではあまりに難しい」

 暗闇の中、部屋で対面するのは艶やかな雰囲気を持つ女人と男の獣人の二人。二人が醸し出す空気でただならぬ関係であることは明確だった。

「早く堂々と貴方の横でいられることが出来たらいいのに」
「本来なら今頃貴女は私の妻だったはず。運命とは酷なものです……。ですがまたこうやって貴女と甘い時間を過ごすことが出来るなんて」

 女は男の手を引き寝台へと呼び寄せる。男はこれからする行為を思わせるその仕草に高ぶる気持ちを見せないよう抑え込む。

「そんな事を言って、私以外の方を奥様に迎えたじゃありませんか」
「ヤケになっていたのですよ。貴女が手に入らないなら誰と結婚しても同じこと。いつも想っていたのは貴女だけです」
「本当かしら――ッ」

 軽く笑う女に待ちきれないと言わんばかりに荒々しく口付ける男。それに応えながら二人は寝台へ沈み込んでいく。
 男は女の耳元で愛を囁きながら衣服を脱がせてゆく。男に愛撫される女の目は天井を見つめながら妖しく微笑んでいた――。




 気怠げな様子で寝台へ並んで寝る二人。男は女に腕枕をしながら髪を撫でる。女は男の逞しい胸に頬を寄せ息を整えていた。

「ところで、最近は彼の様子はどうですか? 何か異変は?」
「おかしいことは何も。最初の頃は怪訝な顔をしていましたが、あの子も自分の立場と利益を理解したんでしょう。最近は率先して取り巻きを増やしていますわ」
「将来有望なことで何よりです。いずれ私が彼の父親になる事もしっかりご理解頂かないと」
「……さっきからあの子のことばかりね。私の事もちゃんと見ていて下さらないと悪い事をしてしまいますわよ」

 男の頬に手をあて、自らの方へ向けさせる。男は女に口付け、それは次第に深くなっていく。

「夜はまだ長い、時間を潰さないといけませんね……」
「あら、そんなのあっという間ですわ。お楽しみはこれからですもの」

 再び交じり合いながら、二人の夜は深まって行った――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜

あきゅう
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】  姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。  だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。  夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

処理中です...