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出会い
27話
しおりを挟む「綉礼様はお后様になられるおつもりはないんですね」
「え?」
「す、すいません。ご無礼をいたしました」
思わず言葉が零れてしまい慌てて謝罪する。聞き返しはされたがばっちり綉礼の耳には届いていたようだ。
「私がお后様になるなど恐れ多いです。こんな変な髪色で、混血の身ですし」
「変、とは」
「天聖国にもいろいろな髪色の方はいらっしゃいますが、私のような赤い髪の者はなかなかいませんでしょう? 母が遠い地の生まれなので、そちらの髪色なのです」
そう言って彼女は自分の髪を一房持ち上げる。確かに天聖国には獣人や人間などいろんな人種がいるので髪色も個性的なものは多い。しかし綉礼のような深紅の髪色を持つものは蓮花も見たことがなかった。
「確かにあまり見ない色ではあります。しかし、そんなもの些末な事です。私は綉礼様を初めて見た時に、こんなに美しい人がいるのかと目を疑いましたよ」
「蓮花さん……」
綉礼様の反応からして、おそらく髪色のことで辛い出来事があったのだろうと察した。子どもというのは残酷なほど純粋だ。人と違うということでいとも簡単に爪弾きにしてしまう。蓮花にはそれが痛いほどわかった。
「きっと、お辛い思いをされてきたのでしょう。知らないから言えるのだと思われるかもしれません。ですがその髪はあなたにとてもよくお似合いですし、お母さまからあなたへの大切な贈り物の一つだと考えてはみませんか?」
「贈り物――。私同年代の方にそんなに優しいお言葉をかけていただいたのは初めてです……」
蓮花の言葉を聞いた綉礼は目を潤ませている。慌てて蓮花は手拭いを渡した。ただ、蓮花は自分が素晴らしいと思うものを、本人が否定しているのはもったいないと思ったのだ。
「申し訳ありません、楽しいお食事の最中にいろいろお話してしまい。身分をわきまえず偉そうなことを言ってしまいました。お許しください」
「謝らないでください。むしろお礼を言いたいのです。少しずつですが、私も自分の髪を好きになっていけそうだと思えました」
綉礼の麗しい顔で花が咲くような笑顔を見せられ、精神的な眩しさを感じ目を細める。
「それに、私お友達がいなくて……。こうやってお話できるのが嬉しいんです。よろしかったら、しばらくの間お相手していただけますか?」
「私でよろしければぜひ」
綉礼は嬉しそうに、どの料理がおいしかった、さっきの舞のここが良かった、と途切れることなく会話を続ける。楽しそうな綉礼の様子を見て蓮花も嬉しくなり自分の弟妹の話など色んな事を話した。
しかしそんな楽しい宴も終焉を迎える時が来てしまった。始まり同様、皇帝陛下が終わりの挨拶を告げる。満場の拍手で宴は無事に終わった。周りから漏れ聞こえるひそひそ声は、第一皇子はついに顔を見せなかったということで持ち切りだった。
皇族たちが退出する際、御簾の近くに先ほどの青年がいたような気がしたが、遠目だったのでただ似ている人物だったのかもしれない。
ご令嬢たちが退場するときに見送りのため一礼しようとした。なかなか動き出さない綉礼を不思議に思い頭を上げる。
「あの、またお話してくださいますか? 私、蓮花さんとお友達になりたいんです!」
「え?」
「このまま、さよならなんて寂しくて……。しばらく羽州にいるのでまたお会いしたいんです」
「嬉しいです! でもどうやって連絡を取れば……?」
綉礼の申し出は蓮花にとっても嬉しい。この短時間でも綉礼の人柄に触れて綉礼の事が好きになっていた。しかしまた会おうにもどうやって連絡を取ればいいのかわからなかった。
しかしそんな蓮花に綉礼は気にするなという笑顔で返した。
「任せてください。私に考えがあるので! 絶対にご連絡しますから待っていてくださいね」
蓮花の手をぎゅっと握りペコっと頭を下げて帰っていく綉礼。蓮花は結局どうやって連絡が来るのかわからずまま、その姿をただ見送ることしかできなかった。
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