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出会い
21話
しおりを挟む蓮花はその日、周りの様子に違和感を抱いていた。にぎやかな厨房の雰囲気は変わらないが、いつものざわめきとは違う意味で料理人や小間使いたちがひそひそと話しているのがやたらと目につく。何かあったのだろうかと不思議に思った蓮花は、同じ係に割り振られた女性に聞いてみた。
「すいません。なんだか今日やけにざわついているようですけど、何かあったんですか?」
「まだ知らないのかい? 近々陛下主催の宴があるんだよ。その振り分けやら献立やらで上の人たちはてんやわんやしてるよ」
「宴が? ――だからその噂でみんながそわそわしてたんですね。教えていただいてありがとうございます」
突然の蓮花の質問にも優しく教えてくれた女性に礼を告げ、作業に戻る。今の陛下は国を挙げての祭りなどは定期的に開催するが、高官や上級貴族たちのみが参加するような無駄な宴はあまり好まない。毎年必ず行われる決まった催し以外ではかなり珍しいため、厨房の上役たちも寝耳に水の出来事だったようだ。
下っ端の蓮花にとっては宴があろうがなかろうが、忙しさが変わるだけなので自分にはさして影響はないという結果にいたった。喧騒に身を包まれながら気持ちを切り替えて蓮花は作業に戻るのであった。
そう、影響はないはずだったのだ。数日後蓮花は女性に囲まれ煌びやかな衣服を着せらていた。なぜこうなった、と思わず頭を抱えたくなったのだが生憎両腕は衣服を抑えるのでふさがっている。――話は数時間前にさかのぼる。
噂の宴の当日を迎え、厨房は慌ただしくなっていた。蓮花も自分に割り振られた仕事を黙々とこなす。ふう、と一息ついた頃一人の女性が現れた。
「こちらに柳蓮花という女性はいらっしゃいますか?」
「蓮花ならあちらにいますが……。おーい! 蓮花、お客様だ!」
女性の近くにいた楊が少し離れた場所にいた蓮花を呼ぶ。蓮花は女性の顔をみても心当たりがなかったが待たせるわけにも行かないので歩み寄ることにした。
「私が柳蓮花ですが、なにか御用でしょうか」
「是非手を貸して頂きたいの。上役の方には許可は頂いているわ」
「え?」
女性はかなり急いでいるようで自分が言い終わると、すぐに蓮花の腕を引き歩き始めた。一体何事かと疑問が湧いたがひとまずついて行くことにした。
「今日のお客様の話は知っている?」
「はい。なんでも各州からご令嬢がいらっしゃるとか」
「そう、そして私はそのご令嬢たちの給仕を担当する部署にいるの。問題はそこで起こったの」
「問題?」
話しながらしばらく進むとある部屋の扉で女性が立ち止まる。そしてくるっとこちらに向き合い話を続けた。
「今日のご令嬢には給仕係が一人一人つくんだけど、急遽体調不良でどうしても一人足りないの。上級貴族の方達だから、作法をそれなりに知っていないとご機嫌を損ねてしまうかもしれないし……」
「そういうことだったんですね」
女性の様子から心底困っているのが分かる。蓮花なら一応中級貴族の端くれなのでそれなりに作法も教えて貰っている。きっとどこからそのことを聞きつけて厨房にたどり着いたということだろう。
そうしてあれよという間に部屋に押し込まれ、給仕係の煌びやかな衣装を着せられ始めた。てっきり普段着のまま給仕をすると思っていたが大間違いだったようだ。
そうして蓮花は普段着とは違うサラサラした生地の服に身を包み、軽く化粧をされ立派な給仕係として完成させらることとなった。
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