芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

文字の大きさ
上 下
19 / 114
出会い

19話

しおりを挟む

 他の国では女人は官吏になれない所もあるらしいが、天聖国は違う。才能のあるものには性差に関係なく相応の地位を与える。それを証明するかのように宮廷ですれ違うのは男性、女性、人間、獣人、様々だった。宮廷に入るには警備は厳重だが、理不尽に締め出すのではなくきちんとなぜ入りたいか理由をちゃんと聞いてくれる。祖父の世代の人たちは数十年前までは考えられなかったと口々に言う。今の皇帝が素晴らしい人物だということはそれだけでも十分わかる、と。

 蓮花がしばらく歩いていると何度か訪れた事のある父の執務室に到着した。控えめに扉を開くと父の側近らしき女性の獣人が出てきた。以前訪ねた時も同じ人だったので彼女は事情を察してにこやかに迎えてくれた。そして部屋の中のさらに奥の部屋に通された。そこには机の書類をじっくりと読み進めている父、王琳がいた。

「父様、お邪魔するわね」
「蓮花? 今日はお休みじゃなかったかな」
「私はね。それより何か忘れていることはなあい?」

 父には届けに行くことを伝えていなかったので、突然職場に現れた娘の姿に驚いていた。そして蓮花の言葉に目を閉じて考える素振りを見せたが答えが出てきそうになかったので蓮花の方からお弁当の包みを差し出した。

「ああ! お弁当か! すっかり忘れていたよ」
「今日は父様の好きなおかずを入れたのにって母様拗ねてたわよ」
「帰ったら謝っておくよ。わざわざすまないね」
「お待ちください! 今は来客が――」
「邪魔をする」

 包みを父に渡した時、ふいに騒がしくなり背後の扉が開かれた。何事かとそちらを向いた蓮花は予想外の人物に目を見開く。鮮やかな翡翠の目にその目より深い碧緑へきりょくの髪をした男、飛だった。

「飛様?」
「蓮花? なぜこんな所に」
「蓮花のことをご存じだったんですか? ――飛様」
「父のお知り合いだったんですね、知らずにご挨拶が遅れて申し訳ありません」

 三者三様の疑問が錯綜し、部屋に沈黙が訪れる。口火を切ったのは王琳だった。

「とりあえずお茶でもお入れいたしましょう。蓮花も時間はあるのかい?」
「え? 私は大丈夫だけど、何か大事なお話がおありになるのではないでしょうか? お急ぎでしたら退席いたしますが……」

 自分の用は済ましたので緊急なのであれば飛を優先してほしいと思った蓮花は飛の様子を伺う。飛は少し考えた後、椅子に腰掛けた。

「いや、そんなに急ぎの用ではないんだ。せっかくだから君も一緒に休憩しよう」
「だったらお茶でも淹れてきますね。父様、それでいい?」
「頼むよ。そこの彼女に聞けば茶の場所がわかるはずだよ」

 蓮花は父の側近の彼女に連れられて部屋をいったん出ることにした。まさか偶然知り合った人が父の知り合いだったなんて、今日はなんだか驚くことばかりが起こる。蓮花は驚きの連続にいつまで自分の心臓がもつのか心配になるのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貸本屋七本三八の譚めぐり

茶柱まちこ
キャラ文芸
【書籍化しました】 【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞受賞】 舞台は東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)。 産業、医療、文化の発展により『本』の進化が叫ばれ、『術本』が急激に発展していく一方で、 人の想い、思想、経験、空想を核とした『譚本』は人々の手から離れつつあった、激動の大昌時代。 『譚本』専門の貸本屋・七本屋を営む、無類の本好き店主・七本三八(ななもとみや)が、本に見いられた人々の『譚』を読み解いていく、幻想ミステリー。

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

憑かれて恋

香前宇里
キャラ文芸
女性編集者とインテリ住職の恋愛ファンタジーです。 (注:プチホラー有)

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

便利屋ブルーヘブン、営業中。~そのお困りごと、大天狗と鬼が解決します~

卯崎瑛珠
キャラ文芸
とあるノスタルジックなアーケード商店街にある、小さな便利屋『ブルーヘブン』。 店主の天さんは、実は天狗だ。 もちろん人間のふりをして生きているが、なぜか問題を抱えた人々が、吸い寄せられるようにやってくる。 「どんな依頼も、断らないのがモットーだからな」と言いつつ、今日も誰かを救うのだ。 神通力に、羽団扇。高下駄に……時々伸びる鼻。 仲間にも、実は大妖怪がいたりして。 コワモテ大天狗、妖怪チート!?で、世直しにいざ参らん! (あ、いえ、ただの便利屋です。) ----------------------------- ほっこり・じんわり大賞奨励賞作品です。 カクヨムとノベプラにも掲載しています。

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...