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出会い
19話
しおりを挟む他の国では女人は官吏になれない所もあるらしいが、天聖国は違う。才能のあるものには性差に関係なく相応の地位を与える。それを証明するかのように宮廷ですれ違うのは男性、女性、人間、獣人、様々だった。宮廷に入るには警備は厳重だが、理不尽に締め出すのではなくきちんとなぜ入りたいか理由をちゃんと聞いてくれる。祖父の世代の人たちは数十年前までは考えられなかったと口々に言う。今の皇帝が素晴らしい人物だということはそれだけでも十分わかる、と。
蓮花がしばらく歩いていると何度か訪れた事のある父の執務室に到着した。控えめに扉を開くと父の側近らしき女性の獣人が出てきた。以前訪ねた時も同じ人だったので彼女は事情を察してにこやかに迎えてくれた。そして部屋の中のさらに奥の部屋に通された。そこには机の書類をじっくりと読み進めている父、王琳がいた。
「父様、お邪魔するわね」
「蓮花? 今日はお休みじゃなかったかな」
「私はね。それより何か忘れていることはなあい?」
父には届けに行くことを伝えていなかったので、突然職場に現れた娘の姿に驚いていた。そして蓮花の言葉に目を閉じて考える素振りを見せたが答えが出てきそうになかったので蓮花の方からお弁当の包みを差し出した。
「ああ! お弁当か! すっかり忘れていたよ」
「今日は父様の好きなおかずを入れたのにって母様拗ねてたわよ」
「帰ったら謝っておくよ。わざわざすまないね」
「お待ちください! 今は来客が――」
「邪魔をする」
包みを父に渡した時、ふいに騒がしくなり背後の扉が開かれた。何事かとそちらを向いた蓮花は予想外の人物に目を見開く。鮮やかな翡翠の目にその目より深い碧緑の髪をした男、飛だった。
「飛様?」
「蓮花? なぜこんな所に」
「蓮花のことをご存じだったんですか? ――飛様」
「父のお知り合いだったんですね、知らずにご挨拶が遅れて申し訳ありません」
三者三様の疑問が錯綜し、部屋に沈黙が訪れる。口火を切ったのは王琳だった。
「とりあえずお茶でもお入れいたしましょう。蓮花も時間はあるのかい?」
「え? 私は大丈夫だけど、何か大事なお話がおありになるのではないでしょうか? お急ぎでしたら退席いたしますが……」
自分の用は済ましたので緊急なのであれば飛を優先してほしいと思った蓮花は飛の様子を伺う。飛は少し考えた後、椅子に腰掛けた。
「いや、そんなに急ぎの用ではないんだ。せっかくだから君も一緒に休憩しよう」
「だったらお茶でも淹れてきますね。父様、それでいい?」
「頼むよ。そこの彼女に聞けば茶の場所がわかるはずだよ」
蓮花は父の側近の彼女に連れられて部屋をいったん出ることにした。まさか偶然知り合った人が父の知り合いだったなんて、今日はなんだか驚くことばかりが起こる。蓮花は驚きの連続にいつまで自分の心臓がもつのか心配になるのだった。
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