15 / 114
出会い
15話
しおりを挟む蓮花の心は晴れ晴れした天気とは真逆に下り坂だった。いつもと違いしっかりした貴族の礼服に身を包み出かける準備をしていた。今日は小鈴の邸へお祝いを持っていく日だった。できるだけ素早く帰宅できるように頭の中で流れを考えるが、小鈴と話すとその通りに行くことはほぼ不可能だ。ため息が出そうなのを抑えて準備を進める。
そんな蓮花の気持ちを知らない玲玲はあまり見ない姉の着飾った姿に目を輝かせていた。
「姉様きれい! わたしもこんな服着てみたいなあ~」
「ふふ。玲玲にはまだ少し早いけどもう少しお姉さんになったら一緒にあなたの服を見に行きましょうか」
「ほんと? 約束だよ!」
「ええ、約束ね。――じゃあ蘭翠、お留守番お願いね」
ぴょんぴょん飛び跳ねる妹の頭を撫でながら、蘭翠の方を向く。蘭翠は玲玲の体を自分の方に寄せながら頷いた。
「任せて。小鈴様の事だからきっと長引くだろうし、頃合いを見て使いをお願いするわ」
「今から憂鬱だわ……。悪いけどお願いね」
お祝いを包んだ物を確認した蓮花は、普段は使わない馬車に乗り小鈴の邸へ向かった。
「柳家から参りました。蓮花と申します」
「柳蓮花様ですね、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
昔から何度かお邪魔したことはあるので、侍女も顔見知りの人だったのですんなりと通される。邸に入ると柳家とは比べ物にならないほどの装飾品がそこかしこに飾られていた。蓮花はこの家を歩く度に躓いて落としてしまったらどうしようかと気が気でなかった。
「お嬢様。柳蓮花様がいらっしゃいました」
「お通しして」
しばらく進み一層豪華な扉の前で立ち止まる。奥からは高く可愛らしい声が聞こえた。案内を終えた侍女は扉を開けて蓮花を通すと去っていった。
「お邪魔いたします」
「蓮花! よく来てくれたわ。わざわざありがとう」
「この度はご婚約おめでとうございます。柳家からささやかではありますがこちらをお祝いの品としてお持ちいたしました。」
どれだけ気が合わない人だとしても、礼を尽くすべきところはちゃんとする。昔から両親から教えこまれていた蓮花は柳家の代表として恥ずかしくないようにお祝いの言葉を小鈴に伝えた。
「そんな、無理にお祝いの品なんて用意しなくても良かったのに! 蓮花が来てくれただけで嬉しいのよ? でもせっかく持ってきて頂いたのだから有難く頂戴いたします」
「別に無理はしていないから心配しなくて大丈夫よ。幼なじみのあなたの慶事だもの。これくらい当たり前よ」
わざと強調して言ったように聞こえた言葉に顔が引き攣らないように返答する。最近会っていなかったから耐性が下がってしまったのか、蓮花は既に帰りたい気持ちでいっぱいだった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
月花は愛され咲き誇る
緋村燐
キャラ文芸
月鬼。
月からやってきたという鬼は、それはそれは美しい姿をしていたそうだ。
時が経ち、その姿もはるか昔のこととなった現在。
色素が薄いものほど尊ばれる月鬼の一族の中、三津木香夜はみすぼらしい灰色の髪を持って生を受けた。
虐げられながらも生きてきたある日、日の本の国で一番の権力を持つ火鬼の一族の若君が嫁探しのために訪れる。
そのことが、香夜の運命を大きく変えることとなった――。
野いちご様
ベリーズカフェ様
ノベマ!様
小説家になろう様
エブリスタ様
カクヨム様
にも掲載しています。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる