【完結】だからギルドの男は嫌なんです!

在ル在リ

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番外編:短編

男運がない彼女 ―クリエ―〈前〉

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※18話の少し前くらいのお話※


「ねえクリエ、男の人を紹介してほしいんだけど、ウィスコールの人以外で誰か知り合いいない?」

 ある日、サリダが私に一般職の男性を紹介してほしいと言ってきた。
 彼女とはラモントで三年以上の付き合いになるけど、その間に彼氏がいたことはない。奇麗な子なのに。
 ウィスコールにいる男どもはジャガイモやピーマンみたいなのばかりだし、サリダはギルド員と付き合う気もないから、なかなか出会いもないんだろうけど……どういう風の吹き回しなんだろう。

「どうしたの急に。今まで彼氏ほしいなんて言わなかったのに、寂しくなっちゃった?」
「あー、まあ、うん。私も二十代後半になってきたし、ずっと一人っていうのも……なんか、ね」

 本気で恋がしたいという意思はあまり感じられず、歯切れの悪い返事だったけれど快く引き受けた。

 サリダは私の三ヶ月後に入ってきた同い年の同期。何でも話せるほど親密とまではいかないけど、ラモントでは一番仲良くなった友人でもある。
 サリダとはよくシフトが被り、一緒に過ごす時間も他の従業員より多かった。
 裏表のない性格であまり人の悪口を言うこともなく、一緒にいても苦になることがない。私はいつも笑顔で明るい彼女といるのが心地良かった。

 だけどあの事件があってから、サリダは笑わなくなった。正確に言えば、作った笑顔を貼り付けるようになったんだけど。
 捕まったのがアスターだったから、その時ずっと仕事を休んでいたサリダのことを、事件と何か関係があったんじゃないかと従業員のみんなが心配した。
 箝口令でも敷かれていたのか、事件のことを詳しく知る人がいなくて、私が今付き合っているギルド員の彼に尋ねても、担当していた任務じゃないから分からないと何も聞けなかった。
 そして、体調を崩していたというサリダは復帰していつものように振る舞い、事件のことに何も触れなかったから、私たち従業員も暗黙の了解のようにサリダには何も聞かなかったのだ。

 毎日作った笑顔を貼り付け、時折腫らした目で出勤するサリダを心配しても、本を読んでいたら夜更ししてしまったと笑うだけ。
 家族のいないサリダは何でも一人で解決してきたのか、人に相談する習慣がなくなってしまったのか、一人で耐えることに慣れてしまったのかもしれない。
 何でもいいから話してくれれば、一緒に悩んで気休めでも元気付けられたかもしれないのにと、寂しく思う気持ちもあった。
 少しでも気が紛れたらと、用もないのに買い物へ連れ回したり飲みにつれて行ったりと、仕事以外でも彼女と過ごす時間は多くなったと思う。

 それが突然男を紹介してほしいと、普段あまり自分から人を頼らないサリダが私を頼ってくれたから、どんな理由であろうと協力したかった。



 最初は首都エルマッジで働いている同郷の先輩がフリーだったので、その人を紹介した。
 面白い先輩だったので、サリダに合いそうだと思ったのだ。頭が玉ねぎみたいな人だけど、ウィスコールの男でなければ特に条件はないと言うから。
 後日、二人で出かけたというサリダから先輩の印象を聞いてみると、予想外の展開になっていた。

「最初は普通に出かけて食事もして、感じのいい人だと思ってたんだけどね。途中で彼が二人の男性に捕まって……」

 先輩が捕まったという相手はどうやら借金取りらしく、会話の内容から結構な額を借りている様子だったという。
 食事に連れて行ってもらった高級レストラン。先輩の身に着けている高級な衣服。その日のデート代も全て借りた金だと知り、ご馳走してもらったサリダは彼らの話を聞いて青ざめてしまったようだ。
 結局先輩が二人に捕まったまま話が終わらず、デートはそこで中止になったらしい。

 先輩が住んでいるエルマッジは家賃や物価が高い。高い給金がもらえる仕事ならいいが、そうでなければ生活は苦しくなる。
 先輩が田舎から都会に移り住み、先輩の華やかな暮らしぶりを話に聞いて、私も都会に憧れて田舎を出てきた口だ。
 私はコッツミルズの親戚の家に居候させてもらっているから貯金する余裕もあるけれど、先輩は華やかな生活が止められなくて火の車だったのかもしれない。

 後日、先輩から田舎へ帰ることになったと連絡があった。
 祖母がもう長くないらしい。お婆ちゃんっ子だったから最期くらい見届けたい、と言って先輩は帰っていった。……夜逃げじゃないといいけれど。


 知らなかったとはいえ、サリダに借金持ちの人を紹介して申し訳なく思い、次は彼氏の友人に声をかけてもらった。
 初めて対面した彼の友人はくりくりの髪型でカボチャのようだったけど、真面目で時間にもきっちりしている人だと聞いて、安心して紹介できた。――と思ったのは最初だけ。

 初めてサリダと引き合わせた直後、六分でカフェへ向かう予定だと言われ、カボチャ男と共に指定されたカフェへ向かった。そこできっちり三十分会話した後、サリダとカボチャ男は別行動することになり、私と彼氏は二人と別れた。
 けれど心配になってこっそり後をつける。
 だってあのカボチャ男、ちらちら時計ばっかり見てるから気になって。
 サリダはカボチャ男に連れて行かれるように、足早に五分で近くの公園へ移動。二十五分散歩して、二人は会話が弾んでいるように見えたがサリダに笑顔はない。
 彼氏に頼んで二人の会話を魔法で聞こえるようにしてもらったら、サリダの身上を調査でもしているかのような会話が聞こえてくる。サリダが美人だから浮気の心配をしているんだろうが、過去の男歴や何人寝たかまで聞いている。
 あまりにも失礼な質問に怒りが湧いて、私が二人の元へ向かおうとしたら「盗み聞きしてんのがバレる」と彼氏に全力で止められた。
 そしてトイレ休憩三分した後、七分以内に次の目的地へ行くとカボチャ男が話している。この分刻みの行動は一体何なのか。
 私がイライラを募らせながら見守っていると、彼氏が「そういえばあいつ計画魔だった」と漏らした。
 時間にきっちりとは聞いていたけど、分単位で移動から滞在時間まで全て決められたデートってどうなのよ。
 連れ回されて疲労の色を浮かべているサリダを偶然また会ったかのように装って救出し、強制解散させた。


 今度は友人の職場の人を紹介してもらった。少し女性慣れしているけど、と事前情報をもらってサリダと一緒に会ってみた。
 これがまた牛蒡みたいな人で。人は見かけで判断しちゃ駄目だとサリダが言うから、ひょろひょろでも意外と力のある人かもしれないと思い直す。
 相手の男はすごくサリダのことを気に入った様子で、話してみると優しそうな印象だったのだけど――。

 後日出かけたというサリダの話を聞くと、相手の男は二人になると警戒心を抱くほど距離が近く、夜になってもなかなか帰してもらえず、終いには胸やお尻を触られて恐怖を覚えたという。
 サリダならはっきりと嫌がっただろうが、それでも触れてきたとしたら相当たちが悪い。そんな下心ありありの奴、私が懲らしめてやると言えば、既にその男は雷に打たれて火傷し、診療所へ行ったという。
 天気はすんごく良かったと思うけど何で雷が落ちたんだろう。ピンポイントでそこだけ天気が悪かったんだろうか。天罰?

 他にも紹介したけどサリダは合わなかったようで上手くいかず。ラモントの従業員にも知り合いを紹介してもらったらしいけど、女は男に意見するなという男尊女卑主義の男で合わなかったとか、サリダが美人すぎて自分は釣り合わないと初対面で断られたとか、結婚も視野に入れるならラモントの仕事は休みが合わないので辞めてほしいと言う人もいたそうだ。お見合いがしたいわけではないと思うんだけど。

 うーん……まずい。まともな男をまだ一人も紹介できていない。
 人類の半分は男だっていうのに、何でサリダに合いそうな男がいないんだろう。そのままのサリダを理解できる普通の男はいないものか……。

「はああー……」
「なにその溜息。サリダさんとケンカでもしたか?」

 家のソファで考え込んでいると、従弟のドロウェが声をかけてきた。居候しているこの家の息子である。
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