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番外編:もう一つの舞台
05 アンリベルの恐ろしさ
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ラモントで飲もうとアスターに誘われた日。奴がとうとう動いた。
奴から酒をもらっていたサリダがふらつき始めた。彼女は酒に強い方だし、最後に口にした酒もそこまで強いものではなかったはずだ。
俺もディランも薬を投入した瞬間を確認できず、魔法検知も失敗。アスターは絶対にばれない自信でもあるのか、いつもどおり堂々としていてユリアナ、ハノンと楽しそうに会話している。薬の扱いに相当手慣れているようだった。
俺は無意識にサリダの後を追っていた。ディランが何か言いたそうだったが後を任せて。
サリダを捕まえてトイレの通路へ行き、抑制剤を握らせた。腕をつかんだ時に確認した彼女の脈拍が随分と早い。頬も紅潮している。
針を仕込んだ指輪で彼女の腕から採血し、トイレで魔法検出液に混ぜる。魔法薬を服用していれば、僅かな量でも色が変わるはずだが反応なし。
「くそ……っ」
遅かった。本当に厄介な魔法薬だと苛立ちが募る。それをサリダに使ったアスターが憎くて仕方がなかった。奴を問い質して吐かせたい。そんなことをしても酒に酔ったんだろうと逃げられるだけなのもわかっている。捜査していることを知られるわけにもいかない。
一呼吸置いて逸る気持ちを抑え、アスターのいるテーブルに戻る。じきに閉店だ。アスターたちと解散してから、ディランにアスターの監視を頼んだ。
「お前らしくねえな、ロゼ。冷静になれよ? サリダはお前に任せるけど、余計なことは言うな。どこで繋がりがあるともわかんねえんだからな?」
そんなことわかっている。だけど彼女に言ってしまいたい。アスターは魔法薬使用者だと。奴に関わるなと。
だがディランの言うとおり、彼女が犯人と関わっていないとも断言できず、そこも疑わなければならなかった。
ふらつくサリダが建物から出てきたところを捕まえた。彼女が抑制剤を飲んでいないと気付き、怒りが湧くとともに落胆もした。俺は彼女に信頼されていない。
明らかに興奮状態の彼女に無理やり抑制剤を飲ませた。こんな形で彼女に口付けるなんて皮肉なものだ。柔らかい彼女の唇を貪り、彼女から舌を入れられてそれに応えると吸い付いてくる。俺の体をせがむ彼女が可愛くて仕方がない。彼女に触れてしまった俺は既にタガが外れていた。
宿に連れて行って余裕もないのに指だけで可愛がると、すぐに達したサリダのとろけた顔にそそられる。ろくに愛撫もせず、潤った彼女の中に入った。
初めて触れた彼女のしなやかな肢体に夢中になった。愛おしくて何度も口付け、豊満な胸を揺らすように揉みながら、ピンク色の先端をつまむと中がキュッと締まった。彼女の甘い声が可愛くて何度でも鳴かせたくなる。俺のものだと勘違いしそうになるほど、彼女も俺を求めてくれた。
「――好きだよ、サリダ」
「ロゼ……私は……」
体を繋げながら。
彼女に拒否されるとわかっていながら。
「……応え、られない……」
「それでも好きだ」
言葉にする度、彼女を困らせる。だけど愛おしくて止められない。
彼女の奥へ奥へ。深く身を沈める。
「……あ……ロゼ……ッ」
「今だけ、俺のものでいて」
口を塞いで返事もできないよう、舌を絡め合う。繋がった部分の少し上に膨らむ小さな突起を指で刺激すると、中はビクビクと痙攣し、奥を激しく突けばあっという間に彼女は絶頂に達した。キュウキュウと締め付ける中、俺も欲を注いだ。
どうせ忘れるからと、いつも言えない想いを口にして明け方まで抱き続けた。
眠る彼女の可愛い顔を見つめながら、俺は一瞬でも思う。アンリベルのおかげで彼女を抱けた、と。そんな自分の思考に気付き、アンリベルの恐ろしさを知る。
どうせ忘れる……って何だ。彼女が忘れるとわかっていて俺はそれを利用した。特殊捜査官であるにも関わらず、この状況を利用してしまった。これじゃ俺は、アスターと何も変わらないじゃないか。
明け方に宿を出ると、罪悪感を抱えながらディランにこのことを報告した。
「好きな女がそんな状態になったら放っとけねえよなあ……。お前の気持ちはわかるよ。俺も自分の彼女がそんなことになったらそうしてると思うわー」
ウィスコールの会議室で、ディランは慰めるように優しい声音で話し、うつむく俺の頭をクシャクシャにして子犬のようになでまくる。
「他の捜査官には言わなくていい。抑制剤の投薬完了までを報告しとけ」
「でも……」
「お前はそういうとこ真面目だよなー。別に問題にもなんねえよ。アンリベルの恐ろしさがわかって勉強になったな」
俺が落ち込むと復活するまで時間がかかることを知っているディランは、「そんじゃしばらく寝るわ」と仮眠室に向かった。
俺が懺悔をしたのは宿を出てすぐの朝五時。朝が苦手なディランは文句一つ言わず、話を聞いてくれたのだった。
この一件以来、サリダがアスターと二人にならないよう、出来る限り遠ざけた。アスターには遠出する任務を優先的に回すようユーディスに依頼し、同時に彼女のそばにいるための手回しもした。
下水道のネズミ退治にサリダの力を借りたいとユーディスに話すと、あっさり許可が下りた。サリダは止めておけと忠告していたのに、やけに協力的なユーディス。おかげで彼女のことをしつこく聞かれたため、宿に泊まったことも話すことになった。
「――なるほどな。もう見てるだけなのは止めたわけだ」
「はい。実はその時、捜査官カードを使ってしまったので……もしサリダに問われたら、相手はあなただということにしてもらえませんか? ランク八はあなたしかいないので」
「はあ? 俺が? お前……本当にそれでいいのか?」
「今はまだ捜査官だと知られるわけにいかないので……お願いします」
少し困ったような顔をしたユーディスだったが、間を空けてうなずいた。
「……ああ、もし聞かれたらそういうことにしとくよ。でもサリダがどう思おうと俺は知らんぞ?」
ユーディスは悪戯な笑みを見せて、俺の頭を無骨な手でクシャクシャになでた。こいつもディランみたいなことをする。子供扱いされているみたいで癪に障る。
口が堅いことも知っていて信頼も置いているが、ユーディスはちょくちょく俺をからかって楽しんでいるようだった。
奴から酒をもらっていたサリダがふらつき始めた。彼女は酒に強い方だし、最後に口にした酒もそこまで強いものではなかったはずだ。
俺もディランも薬を投入した瞬間を確認できず、魔法検知も失敗。アスターは絶対にばれない自信でもあるのか、いつもどおり堂々としていてユリアナ、ハノンと楽しそうに会話している。薬の扱いに相当手慣れているようだった。
俺は無意識にサリダの後を追っていた。ディランが何か言いたそうだったが後を任せて。
サリダを捕まえてトイレの通路へ行き、抑制剤を握らせた。腕をつかんだ時に確認した彼女の脈拍が随分と早い。頬も紅潮している。
針を仕込んだ指輪で彼女の腕から採血し、トイレで魔法検出液に混ぜる。魔法薬を服用していれば、僅かな量でも色が変わるはずだが反応なし。
「くそ……っ」
遅かった。本当に厄介な魔法薬だと苛立ちが募る。それをサリダに使ったアスターが憎くて仕方がなかった。奴を問い質して吐かせたい。そんなことをしても酒に酔ったんだろうと逃げられるだけなのもわかっている。捜査していることを知られるわけにもいかない。
一呼吸置いて逸る気持ちを抑え、アスターのいるテーブルに戻る。じきに閉店だ。アスターたちと解散してから、ディランにアスターの監視を頼んだ。
「お前らしくねえな、ロゼ。冷静になれよ? サリダはお前に任せるけど、余計なことは言うな。どこで繋がりがあるともわかんねえんだからな?」
そんなことわかっている。だけど彼女に言ってしまいたい。アスターは魔法薬使用者だと。奴に関わるなと。
だがディランの言うとおり、彼女が犯人と関わっていないとも断言できず、そこも疑わなければならなかった。
ふらつくサリダが建物から出てきたところを捕まえた。彼女が抑制剤を飲んでいないと気付き、怒りが湧くとともに落胆もした。俺は彼女に信頼されていない。
明らかに興奮状態の彼女に無理やり抑制剤を飲ませた。こんな形で彼女に口付けるなんて皮肉なものだ。柔らかい彼女の唇を貪り、彼女から舌を入れられてそれに応えると吸い付いてくる。俺の体をせがむ彼女が可愛くて仕方がない。彼女に触れてしまった俺は既にタガが外れていた。
宿に連れて行って余裕もないのに指だけで可愛がると、すぐに達したサリダのとろけた顔にそそられる。ろくに愛撫もせず、潤った彼女の中に入った。
初めて触れた彼女のしなやかな肢体に夢中になった。愛おしくて何度も口付け、豊満な胸を揺らすように揉みながら、ピンク色の先端をつまむと中がキュッと締まった。彼女の甘い声が可愛くて何度でも鳴かせたくなる。俺のものだと勘違いしそうになるほど、彼女も俺を求めてくれた。
「――好きだよ、サリダ」
「ロゼ……私は……」
体を繋げながら。
彼女に拒否されるとわかっていながら。
「……応え、られない……」
「それでも好きだ」
言葉にする度、彼女を困らせる。だけど愛おしくて止められない。
彼女の奥へ奥へ。深く身を沈める。
「……あ……ロゼ……ッ」
「今だけ、俺のものでいて」
口を塞いで返事もできないよう、舌を絡め合う。繋がった部分の少し上に膨らむ小さな突起を指で刺激すると、中はビクビクと痙攣し、奥を激しく突けばあっという間に彼女は絶頂に達した。キュウキュウと締め付ける中、俺も欲を注いだ。
どうせ忘れるからと、いつも言えない想いを口にして明け方まで抱き続けた。
眠る彼女の可愛い顔を見つめながら、俺は一瞬でも思う。アンリベルのおかげで彼女を抱けた、と。そんな自分の思考に気付き、アンリベルの恐ろしさを知る。
どうせ忘れる……って何だ。彼女が忘れるとわかっていて俺はそれを利用した。特殊捜査官であるにも関わらず、この状況を利用してしまった。これじゃ俺は、アスターと何も変わらないじゃないか。
明け方に宿を出ると、罪悪感を抱えながらディランにこのことを報告した。
「好きな女がそんな状態になったら放っとけねえよなあ……。お前の気持ちはわかるよ。俺も自分の彼女がそんなことになったらそうしてると思うわー」
ウィスコールの会議室で、ディランは慰めるように優しい声音で話し、うつむく俺の頭をクシャクシャにして子犬のようになでまくる。
「他の捜査官には言わなくていい。抑制剤の投薬完了までを報告しとけ」
「でも……」
「お前はそういうとこ真面目だよなー。別に問題にもなんねえよ。アンリベルの恐ろしさがわかって勉強になったな」
俺が落ち込むと復活するまで時間がかかることを知っているディランは、「そんじゃしばらく寝るわ」と仮眠室に向かった。
俺が懺悔をしたのは宿を出てすぐの朝五時。朝が苦手なディランは文句一つ言わず、話を聞いてくれたのだった。
この一件以来、サリダがアスターと二人にならないよう、出来る限り遠ざけた。アスターには遠出する任務を優先的に回すようユーディスに依頼し、同時に彼女のそばにいるための手回しもした。
下水道のネズミ退治にサリダの力を借りたいとユーディスに話すと、あっさり許可が下りた。サリダは止めておけと忠告していたのに、やけに協力的なユーディス。おかげで彼女のことをしつこく聞かれたため、宿に泊まったことも話すことになった。
「――なるほどな。もう見てるだけなのは止めたわけだ」
「はい。実はその時、捜査官カードを使ってしまったので……もしサリダに問われたら、相手はあなただということにしてもらえませんか? ランク八はあなたしかいないので」
「はあ? 俺が? お前……本当にそれでいいのか?」
「今はまだ捜査官だと知られるわけにいかないので……お願いします」
少し困ったような顔をしたユーディスだったが、間を空けてうなずいた。
「……ああ、もし聞かれたらそういうことにしとくよ。でもサリダがどう思おうと俺は知らんぞ?」
ユーディスは悪戯な笑みを見せて、俺の頭を無骨な手でクシャクシャになでた。こいつもディランみたいなことをする。子供扱いされているみたいで癪に障る。
口が堅いことも知っていて信頼も置いているが、ユーディスはちょくちょく俺をからかって楽しんでいるようだった。
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