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本編
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東の空は薄っすら紫に色付いている。黎明の空は足早に色を変えていく。仕事が始まる頃には、後から追いかけてくる日が空を明るく染めるだろう。
ロゼの家から七分ほど歩くと、ウィスコールの建物が見えてくる。中央通りに建つ大きなそれは、遠目からでも目立つ建物だ。
この時間にウィスコールを出入りする人間は主にラモントで働く従業員で、ギルド員がこんな時間にいることは滅多にない。
建物に近付くとよく知る人物がいた。入口が閉まっているわけではなく、ランクカードで認証をすれば中には自由に入れるはずだが、中へ入らずその場に佇んでいた。
「……アスター?」
見間違えはしない、アスターだ。何故こんな早朝に。そう思っているとこちらに気付いたのか、アスターは鋭い目で睨み付けながらこちらに向かってきた。
何……?
アスターの普段と違う様子からただならぬものを感じ、私は一歩後退る。
「ロゼ! お前……っ!!」
アスターの口から出たその名に、私は後ろを振り返った。少し後ろに、部屋で見た姿のままの彼が立っている。全く気付かなかった。ロゼはずっと後ろをついてきていたんだ。
「ずっとサリダに付きまとってるらしいな? お前どういうつもりなんだよ!?」
アスターは怒りを露にしながら、私の後ろにいるロゼの襟元をつかんだ。
誰かから私たちが一緒にいることを聞いたんだろう。それが何故、私がロゼに付きまとわれていると思ったのか。アスターが耳にした情報を自分に都合よく解釈したんだろうか。
アスターより背の高いロゼは嘲るように見下ろして、淡々と感情のこもらない声を放つ。
「それが何です? アスターには何の関係もないでしょう? ですが付きまとっているというのは誤解ですね。サリダは私の恋人なので」
「は!? お前、本気で言ってんのか……っ!?」
恋人って! 何故わざわざ嘘をついて煽るようなこと……!
ロゼと目が合うと彼は小さくうなずいた。話を合わせろというの?
今にも殴りかかりそうなアスターの形相に危惧の念を抱く。ギルド員同士の闘争は禁じられている。今ここでトラブルを起こせば二人とも懲戒処分は免れない。
「アスターやめて! あなたは何も関係ないでしょう!」
「サリダ! ロゼと……本当なのか!?」
アスターは頭に血が上ったように顔が赤く、その怒りを私に向ける。それはそうだろう。今までの断り文句が全て『ギルド員とは付き合わない』なのだから。
「そうよ……。だからもう、仕事以外で私に絡まないで」
嘘を口にするのが心苦しく、後ろめたさで胸が痛んだ。
「……チッ。あんなに、ギルド員とは嫌だと言ってたくせに……っ。そうかよ……!」
ロゼを突き飛ばすように手を離すと、アスターは身を翻して足早にウィスコールの敷地から出ていった。その後姿から私は目を逸らせなかった。
こんな方法しかやり方はなかったんだろうか。日中にロゼが私を連れ回していたのは、わざとアスターの耳に噂が入るよう仕向けていたのかもしれない。
「ロゼ、ここまでする必要あったの……?」
「言ったでしょう、早く失恋させてやれと。待ち伏せまでして、アスターはあなたに執着しすぎている」
「あんな風にしたら、あなたたちの関係が悪化するじゃないの」
ロゼの家から七分ほど歩くと、ウィスコールの建物が見えてくる。中央通りに建つ大きなそれは、遠目からでも目立つ建物だ。
この時間にウィスコールを出入りする人間は主にラモントで働く従業員で、ギルド員がこんな時間にいることは滅多にない。
建物に近付くとよく知る人物がいた。入口が閉まっているわけではなく、ランクカードで認証をすれば中には自由に入れるはずだが、中へ入らずその場に佇んでいた。
「……アスター?」
見間違えはしない、アスターだ。何故こんな早朝に。そう思っているとこちらに気付いたのか、アスターは鋭い目で睨み付けながらこちらに向かってきた。
何……?
アスターの普段と違う様子からただならぬものを感じ、私は一歩後退る。
「ロゼ! お前……っ!!」
アスターの口から出たその名に、私は後ろを振り返った。少し後ろに、部屋で見た姿のままの彼が立っている。全く気付かなかった。ロゼはずっと後ろをついてきていたんだ。
「ずっとサリダに付きまとってるらしいな? お前どういうつもりなんだよ!?」
アスターは怒りを露にしながら、私の後ろにいるロゼの襟元をつかんだ。
誰かから私たちが一緒にいることを聞いたんだろう。それが何故、私がロゼに付きまとわれていると思ったのか。アスターが耳にした情報を自分に都合よく解釈したんだろうか。
アスターより背の高いロゼは嘲るように見下ろして、淡々と感情のこもらない声を放つ。
「それが何です? アスターには何の関係もないでしょう? ですが付きまとっているというのは誤解ですね。サリダは私の恋人なので」
「は!? お前、本気で言ってんのか……っ!?」
恋人って! 何故わざわざ嘘をついて煽るようなこと……!
ロゼと目が合うと彼は小さくうなずいた。話を合わせろというの?
今にも殴りかかりそうなアスターの形相に危惧の念を抱く。ギルド員同士の闘争は禁じられている。今ここでトラブルを起こせば二人とも懲戒処分は免れない。
「アスターやめて! あなたは何も関係ないでしょう!」
「サリダ! ロゼと……本当なのか!?」
アスターは頭に血が上ったように顔が赤く、その怒りを私に向ける。それはそうだろう。今までの断り文句が全て『ギルド員とは付き合わない』なのだから。
「そうよ……。だからもう、仕事以外で私に絡まないで」
嘘を口にするのが心苦しく、後ろめたさで胸が痛んだ。
「……チッ。あんなに、ギルド員とは嫌だと言ってたくせに……っ。そうかよ……!」
ロゼを突き飛ばすように手を離すと、アスターは身を翻して足早にウィスコールの敷地から出ていった。その後姿から私は目を逸らせなかった。
こんな方法しかやり方はなかったんだろうか。日中にロゼが私を連れ回していたのは、わざとアスターの耳に噂が入るよう仕向けていたのかもしれない。
「ロゼ、ここまでする必要あったの……?」
「言ったでしょう、早く失恋させてやれと。待ち伏せまでして、アスターはあなたに執着しすぎている」
「あんな風にしたら、あなたたちの関係が悪化するじゃないの」
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