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本編
08 - 3 頑固な鎧
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「そう言えばユーディスさんって、あまりウィスコールを離れることないわよね」
「ええ。今受けてる仕事の関係で遠方には行けません」
ランクが高い人ほど極秘任務もあるのだろう。それを知っているということは、ロゼも同じ任務に加わっているのかもしれない。
それよりランク八の二人がウィスコールにいないということは。
私が記憶をなくすまで飲んでいた日、一緒にいたのはユーディスか、ギルドマスター、サブマスターの誰か……? あの日、その三人に会った記憶はないけれど、消去法でいくとこの三人しかいないことになる。
何も思い出せず、私はこめかみを手で押さえた。
「……ねえロゼ。この間、私がすごく酔って何も覚えてなかった日って、ラモントにユーディスさんいなかったわよね?」
「ええ、ラモントでは見かけてません。何か思い出したんです?」
「ううん、何も……」
「覚えてないなら、そんな大したことではないんでしょう。あまり気にしなくてもいいんじゃないですか」
ロゼの言葉に黙ってうなずいた。誰かと寝たなんて知られたら、ロゼにまた危ないと言って叱られるだろう。今度こそユーディスに会った時、ちゃんと確認しよう。
食べる量がわからなくて多めに作ったせいか、もうお腹いっぱいになってしまいフォークを置いた。皿に少しずつ残って申し訳ないなと思っていると、ロゼは残っていたものを全て平らげてくれた。
「ごちそう様でした。ロゼのスープ、優しい味で美味しかったわ」
純粋に思った感想を伝えれば、ロゼは僅かにはにかんだ。ウィスコールでは見せてくれることのない、温かくなるような優しい表情。普段からそんな顔をしていればいいのに。
「それは良かったです。サリダの料理も美味しかったですよ。ラモントの味とはまた違ってホッとしますね」
「それはお粗末様でした。母に教わったものやレオンに教わったものを、私なりのやり方で手抜き料理に変えてあるのよねー」
立ち上がって食器を重ねていくと、ロゼが受け取ってそれをキッチンに運んでくれた。
「プロの料理を手抜きするとどうなるんですか?」
「それなりに、雑な味になる」
ロゼと顔を見合わせるとくしゃりと顔を崩し、声に出して笑った。大雑把な私は手抜きで簡単に作れる方が性に合っている。そこが合わないという元彼もいたけれど、ロゼは笑って共感してくれた。彼には何故か変な安心感を覚える。
一緒に片付けていると、ロゼはずっと聞きたかったであろう話題に触れた。
「サリダ。レオンが言っていたことを聞いても構いませんか?」
「両親のこと? 構わないわよ」
両親の話を人にするのは久しぶりだ。
「二人とも亡くなってるって話したでしょう。父は戦闘系ギルドにいて、任務中に亡くなったの。その二年後に母も病気で亡くなった。その時、私は二十一歳で仕事もしてたから生活はなんとかなったけどね」
綺麗に汚れを落とした皿をロゼから受け取り、水滴を清潔な布巾に吸わせていく。ロゼは鍋を洗いながら、黙って私の次の言葉を待っている。
「二人はとても仲が良かったから、父が死んで母は絶望していたみたい。笑顔もほとんど見なくなって。そして母も後を追うように病気で呆気なく亡くなったの」
死の報せを聞いて泣き崩れた母は、それ以来いつも一人隠れて泣いていた。私の前で涙を見せることはなかったけれど、母が一人でいる時は心配になるほど弱って見えた。
「愛する人を失うのって、生きる意欲をなくすほど辛いことなんだと思う。日に日に笑わなくなって弱っていく母の姿を見るのは辛かった」
両親を失って胸にぽっかり穴が空いたような喪失感は今も消えない。
これが愛する恋人や夫だったら、胸に空いた穴はどれほど大きくなるんだろう。それは生きていられないほどの大きさになるんだろうか。私はまだ失ったことがないからわからない。
「私はそんな母みたいな思いはしたくない。だから、危険な仕事をする人とは付き合いたくないの。命を懸けて仕事をしている人たちに対して、失礼な言い方で申し訳ないけど……」
「そうだったんですか……」
ロゼがぽつりと一言零した。彼らの職業を否定するようなことはあまり言いたくなくて、今までトラブルが嫌だからということにしていた。
レオンはそんなことでクビにするような器の小さな人間ではない。店に迷惑をかけたくないから、トラブルを避けるに越したことはないけれど。
「ええ。今受けてる仕事の関係で遠方には行けません」
ランクが高い人ほど極秘任務もあるのだろう。それを知っているということは、ロゼも同じ任務に加わっているのかもしれない。
それよりランク八の二人がウィスコールにいないということは。
私が記憶をなくすまで飲んでいた日、一緒にいたのはユーディスか、ギルドマスター、サブマスターの誰か……? あの日、その三人に会った記憶はないけれど、消去法でいくとこの三人しかいないことになる。
何も思い出せず、私はこめかみを手で押さえた。
「……ねえロゼ。この間、私がすごく酔って何も覚えてなかった日って、ラモントにユーディスさんいなかったわよね?」
「ええ、ラモントでは見かけてません。何か思い出したんです?」
「ううん、何も……」
「覚えてないなら、そんな大したことではないんでしょう。あまり気にしなくてもいいんじゃないですか」
ロゼの言葉に黙ってうなずいた。誰かと寝たなんて知られたら、ロゼにまた危ないと言って叱られるだろう。今度こそユーディスに会った時、ちゃんと確認しよう。
食べる量がわからなくて多めに作ったせいか、もうお腹いっぱいになってしまいフォークを置いた。皿に少しずつ残って申し訳ないなと思っていると、ロゼは残っていたものを全て平らげてくれた。
「ごちそう様でした。ロゼのスープ、優しい味で美味しかったわ」
純粋に思った感想を伝えれば、ロゼは僅かにはにかんだ。ウィスコールでは見せてくれることのない、温かくなるような優しい表情。普段からそんな顔をしていればいいのに。
「それは良かったです。サリダの料理も美味しかったですよ。ラモントの味とはまた違ってホッとしますね」
「それはお粗末様でした。母に教わったものやレオンに教わったものを、私なりのやり方で手抜き料理に変えてあるのよねー」
立ち上がって食器を重ねていくと、ロゼが受け取ってそれをキッチンに運んでくれた。
「プロの料理を手抜きするとどうなるんですか?」
「それなりに、雑な味になる」
ロゼと顔を見合わせるとくしゃりと顔を崩し、声に出して笑った。大雑把な私は手抜きで簡単に作れる方が性に合っている。そこが合わないという元彼もいたけれど、ロゼは笑って共感してくれた。彼には何故か変な安心感を覚える。
一緒に片付けていると、ロゼはずっと聞きたかったであろう話題に触れた。
「サリダ。レオンが言っていたことを聞いても構いませんか?」
「両親のこと? 構わないわよ」
両親の話を人にするのは久しぶりだ。
「二人とも亡くなってるって話したでしょう。父は戦闘系ギルドにいて、任務中に亡くなったの。その二年後に母も病気で亡くなった。その時、私は二十一歳で仕事もしてたから生活はなんとかなったけどね」
綺麗に汚れを落とした皿をロゼから受け取り、水滴を清潔な布巾に吸わせていく。ロゼは鍋を洗いながら、黙って私の次の言葉を待っている。
「二人はとても仲が良かったから、父が死んで母は絶望していたみたい。笑顔もほとんど見なくなって。そして母も後を追うように病気で呆気なく亡くなったの」
死の報せを聞いて泣き崩れた母は、それ以来いつも一人隠れて泣いていた。私の前で涙を見せることはなかったけれど、母が一人でいる時は心配になるほど弱って見えた。
「愛する人を失うのって、生きる意欲をなくすほど辛いことなんだと思う。日に日に笑わなくなって弱っていく母の姿を見るのは辛かった」
両親を失って胸にぽっかり穴が空いたような喪失感は今も消えない。
これが愛する恋人や夫だったら、胸に空いた穴はどれほど大きくなるんだろう。それは生きていられないほどの大きさになるんだろうか。私はまだ失ったことがないからわからない。
「私はそんな母みたいな思いはしたくない。だから、危険な仕事をする人とは付き合いたくないの。命を懸けて仕事をしている人たちに対して、失礼な言い方で申し訳ないけど……」
「そうだったんですか……」
ロゼがぽつりと一言零した。彼らの職業を否定するようなことはあまり言いたくなくて、今までトラブルが嫌だからということにしていた。
レオンはそんなことでクビにするような器の小さな人間ではない。店に迷惑をかけたくないから、トラブルを避けるに越したことはないけれど。
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