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本編
08 - 2 頑固な鎧
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「もしかして夕食、作るの?」
「はい」
「普段、外で食べてるんじゃないの?」
ロゼはほとんどの食事をラモントで取っている。自炊なんてしたことがあるんだろうか。このクール男子が。
「普段は外です。サリダが今日家で食べるって言ったから」
そういえば養護院を出てからロゼに聞かれた。『今日、家で夕食を食べます?』と。あれは私が自宅に帰って食べるか聞いたのだと思っていたんだけど。
「……あれってもしかして、ロゼの家でご飯を食べるか聞いたの?」
「はい」
「私のアパートまで送ってくれたのは?」
「送ったというか……あなたの足がアパートに向かっていたので、荷物でも取りに戻るのかと思って」
ええ!?
ロゼと話が通じていなかったことに驚愕した。
「あの時、誰の家か言わなかったじゃないっ。私は自宅に帰って自炊するつもりで答えたの。結果的にあなたの家にお邪魔させてもらうことになっちゃったけど、言葉が一つ抜けるだけで会話って通じないこともあるのよ?」
そう言うとロゼは黙ってしまった。それから少し間をおいて、小さく「すみません」とつぶやいた。目を伏せて下を向いたままこちらを見ないロゼの様子が変で、近づいて顔を覗き込んだ。薄っすらと頬が淡紅色に染まっている。
「ふ、ふふっ。ロゼもそんな恥ずかしがることあるのね」
「だから、話すの苦手なんです……」
本当に目を合わせない。いつも冷たい目で真っすぐ見るくせに。苦手なところを突かれるのは弱いらしい。そんな様子を見ていると胸の奥がくすぐられ、初々しい娘のような頬に無意識に手が伸びた。けれど指先がそこに到達することは叶わなかった。
「今、悪戯しようとしてたでしょう」
もういつものロゼの顔に戻ってしまい、妙に落胆した。触れようとして捕らえられた手はロゼが唇を寄せ、ぬるりと温かいものが指の間を濡らした。
「悪戯してるのはあなたでしょっ」
慌てて手を引っ込めると、ロゼはあどけない笑顔を見せた。はあ、と小さく息をつく。私はこの笑顔に弱いみたいだ。その顔を見せられると怒る気も失せてしまう。
「……それで何を作るの? 私も手伝うわ」
「簡単なものしか作れないですよ」
用意してある食材はたくさんあって二人で四品作った。調理用の魔導加熱器が一つしかないから火はロゼに任せて。
スープを作ってくれたロゼは魔法が使えるから、加熱器から下ろした鍋を魔法でずっと保温してくれて、その間に肉を焼いてくれる。一家に一人ロゼがいると便利だなと心の中でつぶやいて、緩んでしまった口元を彼に見られないようこっそり隠した。
狭いキッチンで分業するのは厳しかったけれど、人の家で、しかも男と一緒に料理をするというのは初めてで思いの外楽しかった。心配していたロゼの料理の腕もそれほど悪くはなかった。
二人用のテーブルもギリギリ皿が並んでホッとする。それ以前にお皿があって良かった。なければここに並ぶのが鍋になっていたところだ。
食事を提供する側だった私が、ロゼと同じテーブルを囲んでいるというのも何だか新鮮だった。
「ロゼはウィスコールに来る前、何をしてたの?」
「もっと小さなところにいましたよ。人数も少なくて寝る暇もないほど忙しかったですね」
食事をしながら色々聞いてみた。ウィスコールは仕事も人数も安定していて働きやすいようで、そこが人気なのか加入希望者はいつもたくさん来ているという。
「ウィスコールっていい人が多いわよね。ランクの高い人に尊大な人もいないし。そういえばランク八の人ってユーディスさん以外ほとんど会わないけど何しているの?」
「他の二人は既婚者だからラモントに来ることは少ないですね。それに今はそれぞれ遠方に出てるので不在です」
遠方に出て長く空けることがあるのに既婚者……。配偶者はどれほどの器の持ち主なんだろう。配偶者の帰りをずっと待ち続けるなんて容易ではないはず。そんな人たちと比べたら、私の考えなんてとてもちっぽけなものだ。
「はい」
「普段、外で食べてるんじゃないの?」
ロゼはほとんどの食事をラモントで取っている。自炊なんてしたことがあるんだろうか。このクール男子が。
「普段は外です。サリダが今日家で食べるって言ったから」
そういえば養護院を出てからロゼに聞かれた。『今日、家で夕食を食べます?』と。あれは私が自宅に帰って食べるか聞いたのだと思っていたんだけど。
「……あれってもしかして、ロゼの家でご飯を食べるか聞いたの?」
「はい」
「私のアパートまで送ってくれたのは?」
「送ったというか……あなたの足がアパートに向かっていたので、荷物でも取りに戻るのかと思って」
ええ!?
ロゼと話が通じていなかったことに驚愕した。
「あの時、誰の家か言わなかったじゃないっ。私は自宅に帰って自炊するつもりで答えたの。結果的にあなたの家にお邪魔させてもらうことになっちゃったけど、言葉が一つ抜けるだけで会話って通じないこともあるのよ?」
そう言うとロゼは黙ってしまった。それから少し間をおいて、小さく「すみません」とつぶやいた。目を伏せて下を向いたままこちらを見ないロゼの様子が変で、近づいて顔を覗き込んだ。薄っすらと頬が淡紅色に染まっている。
「ふ、ふふっ。ロゼもそんな恥ずかしがることあるのね」
「だから、話すの苦手なんです……」
本当に目を合わせない。いつも冷たい目で真っすぐ見るくせに。苦手なところを突かれるのは弱いらしい。そんな様子を見ていると胸の奥がくすぐられ、初々しい娘のような頬に無意識に手が伸びた。けれど指先がそこに到達することは叶わなかった。
「今、悪戯しようとしてたでしょう」
もういつものロゼの顔に戻ってしまい、妙に落胆した。触れようとして捕らえられた手はロゼが唇を寄せ、ぬるりと温かいものが指の間を濡らした。
「悪戯してるのはあなたでしょっ」
慌てて手を引っ込めると、ロゼはあどけない笑顔を見せた。はあ、と小さく息をつく。私はこの笑顔に弱いみたいだ。その顔を見せられると怒る気も失せてしまう。
「……それで何を作るの? 私も手伝うわ」
「簡単なものしか作れないですよ」
用意してある食材はたくさんあって二人で四品作った。調理用の魔導加熱器が一つしかないから火はロゼに任せて。
スープを作ってくれたロゼは魔法が使えるから、加熱器から下ろした鍋を魔法でずっと保温してくれて、その間に肉を焼いてくれる。一家に一人ロゼがいると便利だなと心の中でつぶやいて、緩んでしまった口元を彼に見られないようこっそり隠した。
狭いキッチンで分業するのは厳しかったけれど、人の家で、しかも男と一緒に料理をするというのは初めてで思いの外楽しかった。心配していたロゼの料理の腕もそれほど悪くはなかった。
二人用のテーブルもギリギリ皿が並んでホッとする。それ以前にお皿があって良かった。なければここに並ぶのが鍋になっていたところだ。
食事を提供する側だった私が、ロゼと同じテーブルを囲んでいるというのも何だか新鮮だった。
「ロゼはウィスコールに来る前、何をしてたの?」
「もっと小さなところにいましたよ。人数も少なくて寝る暇もないほど忙しかったですね」
食事をしながら色々聞いてみた。ウィスコールは仕事も人数も安定していて働きやすいようで、そこが人気なのか加入希望者はいつもたくさん来ているという。
「ウィスコールっていい人が多いわよね。ランクの高い人に尊大な人もいないし。そういえばランク八の人ってユーディスさん以外ほとんど会わないけど何しているの?」
「他の二人は既婚者だからラモントに来ることは少ないですね。それに今はそれぞれ遠方に出てるので不在です」
遠方に出て長く空けることがあるのに既婚者……。配偶者はどれほどの器の持ち主なんだろう。配偶者の帰りをずっと待ち続けるなんて容易ではないはず。そんな人たちと比べたら、私の考えなんてとてもちっぽけなものだ。
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