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本編
05 - 1 しつこく絡みつく視線
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今週は早番が続くため、朝は五時半起きだ。
ウィスコールまでは徒歩十五分ほどなので、私はいつもギリギリまで寝ている。朝食はレオンが作ってくれるから、身なりを整えればすぐにでも家を出れる。
六時に出勤すると、料理人たちは下準備のため誰よりも早く出勤している。レオンとはよくシフトがかぶり、今週は同じ早番だ。
料理人は全員レオンのレシピをマスターしているから、レオンが休みであろうと味は変わらないのだが、何故かレオンが作るととても美味しく感じる。魔法でも使ってるんだろうか。
「違うわよ。日によって少しアレンジしてるのよ。飽きないようにね」
私が疑問をぶつけるとすぐに答えてくれるレオン。
レシピどおりじゃないんだ。確かに同じ味ばかりだと客は飽きてしまうかもしれない。だけど他の料理人はまだレシピに手を加えることは許されていないらしい。みんなの作る料理も美味しいのに、レオンはなかなか厳しいのだとか。
新しいレシピの開発もしているし、ダイニング『ラモント』はいつも変化がある。それが毎日ワクワクさせてくれるし、ここでの食事がいつも楽しみだった。
「アンタはすっかりアタシのファンだものねぇ」
「レオンの料理にハズレなんてないものね! 家でも毎日レオンのご飯食べたいわ」
「当たり前でしょうが。こっちはプロよ。家で食べたいなら給料から天引きしておくから持って帰っていいわよ」
「……自炊を頑張るわ」
「ほほほ、そうしなさい」
そう言ってレオンが私の背中を思い切り叩いたら、一瞬ビリッと電気が走った。痛くはないけれど。
「いったあ! 今すんごい静電気走ったわね……。アンタ静電気溜めて仕事しないでよっ」
「何で私のせいなのよっ!!」
ガチャンッと何か割れる音がしてそこに視線を向けると、カウンターに置いてあったコーヒーカップが割れていた。
「天引きね」
「わざとじゃないのに……っ」
うっかり大きな声を出してしまった。魔法は使えないのに、声にだけ魔力が乗ってしまってうんざりする。
このダイニングで働き始めて三年経つが、その間に壊した物は数え切れない。それでも私を雇ってくれているレオンには頭が下がる思いだ。
話しながら清掃している内に従業員も全員出勤し、挨拶をして今日の業務連絡などを行った。
いつもどおり七時に開店すると、一際目を引く人物が姿を見せた。
「よう、サリダ」
先日、ネズミ退治を見に来ていたユーディスだ。朝一番に顔を出すなんて珍しい。
まだ出勤ではないのかユーディスは防御コートを羽織らず、六つの内の二つしかボタンが留まっていない臙脂色のシャツとチャコールのパンツというゆるい格好をしている。
ホール店員は女性が多く、早速ユーディスの注文を取りに行こうと彼に近付いてくるが、彼はずっと私に話しかけ、彼女たちに視線すら向けなかった。
この流れだと私がテーブルに案内して注文を取ることになるのだけど、後で何か言われそうで怖い。
「この間はサリダのおかげで仕事が早く終わったよ」
「お役に立てて光栄です。ネズミ掃除は大変だったでしょうけれど」
「全部死んだわけじゃなく二割ほどは気絶だったな。それも全部研究塔に送ったから、大変なのはそっちだろうな」
クククッと悪戯な顔で笑うユーディス。
研究塔は国の研究施設で様々な分野の研究が行われている。そこに千匹はいそうなネズミを全部送ったのなら、それは本当に気の毒だ。想像しただけでゾッとする。
「それにしてもどうしてあんなに増えたのかしら……? あ、ご注文お伺いしますね」
「それを調べるのが研究塔の奴らさ。――じゃあ、何か軽いものとミルクを」
ユーディスはいつも朝にミルクを頼むからそれに合うものを選んだ。
「バイト代はウィスコールから出るから期待しといて」
「わあ、それは楽しみです!」
いくら出るんだろう。そろそろ暑くなってくるし、夏の新しい洋服と靴を買い足そうかな。そろそろ髪を切るのもいいかもしれない。
そんなことを色々想像しているといつの間にか口元がゆるんでいたらしく、ユーディスが私を見て笑みを浮かべていた。
「アスターがお前に執着するわけだ」
「もう止めてくださいよ。アスターはただの女好きじゃないですか。他の子みたいに落とせないからってしつこいだけですよ」
ユーディスは目を丸くしながら、椅子にもたれて呆れたように口を開く。
ウィスコールまでは徒歩十五分ほどなので、私はいつもギリギリまで寝ている。朝食はレオンが作ってくれるから、身なりを整えればすぐにでも家を出れる。
六時に出勤すると、料理人たちは下準備のため誰よりも早く出勤している。レオンとはよくシフトがかぶり、今週は同じ早番だ。
料理人は全員レオンのレシピをマスターしているから、レオンが休みであろうと味は変わらないのだが、何故かレオンが作るととても美味しく感じる。魔法でも使ってるんだろうか。
「違うわよ。日によって少しアレンジしてるのよ。飽きないようにね」
私が疑問をぶつけるとすぐに答えてくれるレオン。
レシピどおりじゃないんだ。確かに同じ味ばかりだと客は飽きてしまうかもしれない。だけど他の料理人はまだレシピに手を加えることは許されていないらしい。みんなの作る料理も美味しいのに、レオンはなかなか厳しいのだとか。
新しいレシピの開発もしているし、ダイニング『ラモント』はいつも変化がある。それが毎日ワクワクさせてくれるし、ここでの食事がいつも楽しみだった。
「アンタはすっかりアタシのファンだものねぇ」
「レオンの料理にハズレなんてないものね! 家でも毎日レオンのご飯食べたいわ」
「当たり前でしょうが。こっちはプロよ。家で食べたいなら給料から天引きしておくから持って帰っていいわよ」
「……自炊を頑張るわ」
「ほほほ、そうしなさい」
そう言ってレオンが私の背中を思い切り叩いたら、一瞬ビリッと電気が走った。痛くはないけれど。
「いったあ! 今すんごい静電気走ったわね……。アンタ静電気溜めて仕事しないでよっ」
「何で私のせいなのよっ!!」
ガチャンッと何か割れる音がしてそこに視線を向けると、カウンターに置いてあったコーヒーカップが割れていた。
「天引きね」
「わざとじゃないのに……っ」
うっかり大きな声を出してしまった。魔法は使えないのに、声にだけ魔力が乗ってしまってうんざりする。
このダイニングで働き始めて三年経つが、その間に壊した物は数え切れない。それでも私を雇ってくれているレオンには頭が下がる思いだ。
話しながら清掃している内に従業員も全員出勤し、挨拶をして今日の業務連絡などを行った。
いつもどおり七時に開店すると、一際目を引く人物が姿を見せた。
「よう、サリダ」
先日、ネズミ退治を見に来ていたユーディスだ。朝一番に顔を出すなんて珍しい。
まだ出勤ではないのかユーディスは防御コートを羽織らず、六つの内の二つしかボタンが留まっていない臙脂色のシャツとチャコールのパンツというゆるい格好をしている。
ホール店員は女性が多く、早速ユーディスの注文を取りに行こうと彼に近付いてくるが、彼はずっと私に話しかけ、彼女たちに視線すら向けなかった。
この流れだと私がテーブルに案内して注文を取ることになるのだけど、後で何か言われそうで怖い。
「この間はサリダのおかげで仕事が早く終わったよ」
「お役に立てて光栄です。ネズミ掃除は大変だったでしょうけれど」
「全部死んだわけじゃなく二割ほどは気絶だったな。それも全部研究塔に送ったから、大変なのはそっちだろうな」
クククッと悪戯な顔で笑うユーディス。
研究塔は国の研究施設で様々な分野の研究が行われている。そこに千匹はいそうなネズミを全部送ったのなら、それは本当に気の毒だ。想像しただけでゾッとする。
「それにしてもどうしてあんなに増えたのかしら……? あ、ご注文お伺いしますね」
「それを調べるのが研究塔の奴らさ。――じゃあ、何か軽いものとミルクを」
ユーディスはいつも朝にミルクを頼むからそれに合うものを選んだ。
「バイト代はウィスコールから出るから期待しといて」
「わあ、それは楽しみです!」
いくら出るんだろう。そろそろ暑くなってくるし、夏の新しい洋服と靴を買い足そうかな。そろそろ髪を切るのもいいかもしれない。
そんなことを色々想像しているといつの間にか口元がゆるんでいたらしく、ユーディスが私を見て笑みを浮かべていた。
「アスターがお前に執着するわけだ」
「もう止めてくださいよ。アスターはただの女好きじゃないですか。他の子みたいに落とせないからってしつこいだけですよ」
ユーディスは目を丸くしながら、椅子にもたれて呆れたように口を開く。
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