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本編
02 - 3 ダイニング『ラモント』
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するとアスターが私に話を振る。
「なあサリダ、昨日どうしてたんだ? 休みだったろ」
「ええ。休みは昼まで寝て、家でのーんびりしてたけど?」
寝てたのは宿だけど。
それには触れずアスターの問いに答えれば、求めていた答えと違うのかつまらなそうな顔をした。
「ふうん、そう」
「……何なの?」
それで話は終わったのか、ロゼと会話し始めるアスター。一昨日のことをやはり何か知っているんだろうか。さすがにこの人数の前で聞く勇気はないけれど。
「アスターはハノンとラブラブだったもんなあ。もうサリダにちょっかいかけんなよ?」
ディランに暴露されてアスターは舌打ちし、バツの悪そうな顔をする。
「へえ、人気の受付嬢じゃない。大事にしてあげなさいよー?」
「……別に付き合ってねえし」
一昨日、同じテーブルにいたハノンに手を出したわけだ。彼女もアスターに気があったようだし願ったり叶ったりか。となるとアスターの線はない。そのことに少し胸をなで下ろした。
ならあの日、ロゼとディランとはどうしていただろう。
ロゼは無口であまり話さないし、何より魔導士だ。あの夜、微かに覚えている男は筋肉質で鍛えられていた気がする。ランク六の彼は試験も受けていないらしい。
ディランは色恋や女性にはあまり興味を示さない。聖導士で治癒魔法を一通り扱え、戦闘技術も持っている万能な人だ。なのにランク五。六の昇格試験は遅刻して受けられなかったらしい。能力は高そうなのにランク八にはほど遠い。
全員支払いはランクカードを魔導具で読み取れば決済できるため、登録された名前や職業、ランクがわかる。
だからこの中にランク八の人間はいないんだけど……一体誰だったんだろう。壊したガラス代を弁償したいだけなのに。そもそも本当にランク八以上の男なんだろうか……。
とりあえず今は仕事だ。
伝票をカウンターに持っていき、厨房に注文を告げる。
「あ、サリダ。鍛冶工房に朝食配達へ行ってくれる?」
ホール会計をしていた同期のクリエに声をかけられ、カウンターに視線を向けると箱が五つ並んでいた。この箱の中にレオンお手製の料理が敷き詰められている。
今日は彩りも良く美味しそうだ。後で賄いを頂こう。
「はーい。それじゃあ私はしばらく出てるから、コーデリア後はよろしく!」
カウンターで別テーブルの注文を告げているコーデリアに話を振ると、彼女は可愛らしい笑顔で答えた。
「はあーい、アスターさんがいる席ですねっ。じゃあ先にドリンク持って行こっと」
「触られないように気を付けてね」
「むしろ触られたらラッキーです! エヘヘ」
アスターに熱を上げている二つ年下のホール担当コーデリアに仕事を任せて、三階にある鍛冶工房へ朝食を運んだ。
鍛冶工房も常に忙しい。武器や防具の修理などを行っていて職人がいつも交代で休憩をしている。この工房もいわゆる貸店舗だ。
三階の工房の入口で声をかけると、職人たちはみんなこちらに顔を向けた。きりのいいところで立ち上がって職人たちが朝食を取りに来る。
朝はまだ元気があるが、夕方を過ぎるとみんな疲れが顔に出ていて言葉も少ない。それでもうちの料理を食べると笑顔になってくれて、それが私の元気の源になっている。
ラモントに戻ると次は四階の執務室へ朝食の配達を告げられる。
四階の執務室はギルドマスターを始め、会計など主に事務を任されたギルド員も仕事をしている。高ランクの人間がいる部屋だ。
扉をノックすると返事があり、中に入った。
「おはようございます。ラモントのサリダです。朝食をお持ちしました!」
ここでは敬語だ。
ギルドマスターがいる部屋だから当然でもあるが。
「なあサリダ、昨日どうしてたんだ? 休みだったろ」
「ええ。休みは昼まで寝て、家でのーんびりしてたけど?」
寝てたのは宿だけど。
それには触れずアスターの問いに答えれば、求めていた答えと違うのかつまらなそうな顔をした。
「ふうん、そう」
「……何なの?」
それで話は終わったのか、ロゼと会話し始めるアスター。一昨日のことをやはり何か知っているんだろうか。さすがにこの人数の前で聞く勇気はないけれど。
「アスターはハノンとラブラブだったもんなあ。もうサリダにちょっかいかけんなよ?」
ディランに暴露されてアスターは舌打ちし、バツの悪そうな顔をする。
「へえ、人気の受付嬢じゃない。大事にしてあげなさいよー?」
「……別に付き合ってねえし」
一昨日、同じテーブルにいたハノンに手を出したわけだ。彼女もアスターに気があったようだし願ったり叶ったりか。となるとアスターの線はない。そのことに少し胸をなで下ろした。
ならあの日、ロゼとディランとはどうしていただろう。
ロゼは無口であまり話さないし、何より魔導士だ。あの夜、微かに覚えている男は筋肉質で鍛えられていた気がする。ランク六の彼は試験も受けていないらしい。
ディランは色恋や女性にはあまり興味を示さない。聖導士で治癒魔法を一通り扱え、戦闘技術も持っている万能な人だ。なのにランク五。六の昇格試験は遅刻して受けられなかったらしい。能力は高そうなのにランク八にはほど遠い。
全員支払いはランクカードを魔導具で読み取れば決済できるため、登録された名前や職業、ランクがわかる。
だからこの中にランク八の人間はいないんだけど……一体誰だったんだろう。壊したガラス代を弁償したいだけなのに。そもそも本当にランク八以上の男なんだろうか……。
とりあえず今は仕事だ。
伝票をカウンターに持っていき、厨房に注文を告げる。
「あ、サリダ。鍛冶工房に朝食配達へ行ってくれる?」
ホール会計をしていた同期のクリエに声をかけられ、カウンターに視線を向けると箱が五つ並んでいた。この箱の中にレオンお手製の料理が敷き詰められている。
今日は彩りも良く美味しそうだ。後で賄いを頂こう。
「はーい。それじゃあ私はしばらく出てるから、コーデリア後はよろしく!」
カウンターで別テーブルの注文を告げているコーデリアに話を振ると、彼女は可愛らしい笑顔で答えた。
「はあーい、アスターさんがいる席ですねっ。じゃあ先にドリンク持って行こっと」
「触られないように気を付けてね」
「むしろ触られたらラッキーです! エヘヘ」
アスターに熱を上げている二つ年下のホール担当コーデリアに仕事を任せて、三階にある鍛冶工房へ朝食を運んだ。
鍛冶工房も常に忙しい。武器や防具の修理などを行っていて職人がいつも交代で休憩をしている。この工房もいわゆる貸店舗だ。
三階の工房の入口で声をかけると、職人たちはみんなこちらに顔を向けた。きりのいいところで立ち上がって職人たちが朝食を取りに来る。
朝はまだ元気があるが、夕方を過ぎるとみんな疲れが顔に出ていて言葉も少ない。それでもうちの料理を食べると笑顔になってくれて、それが私の元気の源になっている。
ラモントに戻ると次は四階の執務室へ朝食の配達を告げられる。
四階の執務室はギルドマスターを始め、会計など主に事務を任されたギルド員も仕事をしている。高ランクの人間がいる部屋だ。
扉をノックすると返事があり、中に入った。
「おはようございます。ラモントのサリダです。朝食をお持ちしました!」
ここでは敬語だ。
ギルドマスターがいる部屋だから当然でもあるが。
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