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本編

01 - 1 綺麗さっぱり何も覚えていない朝

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 何度も何度も快楽の波が襲う。
 もう無理だと懇願しても止まってくれない。

 抱き締めながら一緒に体を揺らし、中がジンジンと痺れてゆく。
 耳元で聞こえる男の甘い吐息にゾクゾクしながら、徐々に締め付けを止められなくなり甘いきょう声が漏れた。
 途切れることなく襲う甘い刺激に耐えきれず、体中を稲妻のような快感が突き抜けた。それなのに、甘く痺れるそこを刺激し続ける男にまた、快楽の海に沈められる――。



 目が覚めたのは、日も高いお昼前。

 擦り切れるほどしていたのか、僅かにヒリヒリと痛む。体を起こそうにもだるくて仕方がない。
 張りのある肌触りの良い生地だった物をつま先でなぞると、至るところが湿っている。高品質な綿の生地だった物がしわくちゃで酷いものだ。

 昨日の男、とんでもない絶倫だった。
 だけど酒がかなり入っていてそれが誰だったのか思い出せない。酒で記憶をなくしたことなんて今まで一度もなかったから、覚えていないこと自体が不思議だ。
 ただ、何度も体に刻み付けられた感覚だけが朧気おぼろげな記憶に残っている。

 ふと窓に視線を向けて目を疑った。ガラスの窓に亀裂が入っている。
 やってしまった……。
 酒を飲んでいたから行為の最中に大きな声を上げてしまったみたいだ。だけど割れていない。昨日の男が魔法で防いだ……?

 大きなギルドのダイニング『ラモント』で働く私には、嫌な異称が付いている。破壊声のサリダ、と。
 大きな声を出すと魔力が乗ってしまい、自分の声で本当に物が壊れる。かといって、夜の営みで物を破壊したことなど今まで一度もない。一体どれほど乱されたんだろう。

 魔力を持っているからといって、魔法が使える人間ばかりではない。使えない人は全く使えない。私もそれだ。
 魔法は使えなくても魔導具という、僅かな魔力で魔法を発動させるものが出回っている。ランプを使わずとも部屋の照明は簡単につくし、火の魔法が使えずとも調理用の魔導加熱器もあり、生活に困ることはない。

 部屋を見回しても肝心の男の姿は見当たらない。昨日、酒を交わしたのはギルドの人間だろうが、もう仕事に出ているのだろう。
 ここもどこの宿かわからないが、昼になっても誰も起こしに来ないことから、料金も支払い済みなのだろう。部屋もベッドも広く、有り難いことに高そうな宿だ。

 重い体を起こしてシャワーへ向かう。
 汚れも匂いも何もかも落として、昨日の衣服を身に付けると部屋を後にした。
 念のため、宿の受付で確認してみたがやはり支払い済み。しかもその人物はランクが高くて名前すらわからないと聞いて、驚かずにはいられなかった。
 昨日の男はランクが八以上なのだ。亀裂の入った窓ガラスも全て、その男が弁償していた。

 ギルド員のランクは最大十まである。ランク八以上のランクカードは所有者の情報が非公開となっている。それで支払うと宿側も個人情報を知ることは不可能だ。それだけに信頼できる実績のある人物。この制度は多くの国でも共通だ。

 ランク八以上のギルド員は五人。ギルドマスター、サブマスター、そしてランク八が三人。明日仕事に行って確認する? さすがにギルドマスターとサブマスターは、ほとんど接点もないし恐ろしくて聞けない。

 今日の仕事が休みで良かった。もう一度、家のお風呂に浸って体を労ろう。可哀想なくらい体のあちこちが痛む。あまり体力もない私の体は、酷い筋肉痛で悲鳴を上げていた。

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