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本編
05 - 2 しつこく絡みつく視線
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「無自覚なんだなあ。お前、毎日鏡見てるのか?」
「見てますよ……。鏡を見ないと化粧はできませんから」
飲食店の仕事ゆえ普段は化粧と呼べるほどの化粧はしておらず、ファンデーションと薄い口紅だけ。しっかりした眉毛や濃いまつ毛は何も手を加えず、化粧に時間をかけることはあまりない。
黒髪や漆黒の瞳は父譲りで、この国で魅力的だと言われる青や緑の瞳、金色の髪でもない私は地味なものだ。
「隙のない造形でも素の笑顔でそれを崩して見せりゃあ、自分だけに隙を見せられたように感じるだろ。それが計算でないなら尚更、勘違いする男も出てくるさ」
「え? よくわかりませんよ。もっとわかりやすく……」
「ハハハッ、まあいい。それよりまたロゼが何か言ってきたら悪いが付き合ってやってくれ」
「はあ……わかりました……」
ユーディスの言葉をあまり飲み込めないまま、彼の注文を厨房に通して他のテーブルの注文を取りに行った。面白そうに笑っていたから、からかわれただけだろうか。
その間にホール担当の女の子が時折ユーディスの元へ話しかけに行く姿が見えた。トップランクのギルド員ともなるとやはりモテるのだろう。
それにしてもまたロゼが何か言ってきたらって、別の仕事でもあるんだろうか。
ユーディスはロゼに目をかけているのか、二人が仕事で組んでいるところもたまに見かける。ロゼは期待されている人材なのか。
ウィスコールにロゼが入ってきたのは一年くらい前のことだ。確かディランもそれくらいの時期に加入している。
アスターもディランもだいたい同じチームになることが多く、彼ら三人が共に行動するようになったのは半年以上前だ。
いつの間にか仲良くなっているという印象だった。みんな年が近いから親しくなるのも早かったんだろう。
ユーディスの料理がカウンターに置かれて、テーブルに運ぶとユーディスの隣に座る人物にドキリとする。
いつの間に来たんだろう。ロゼが同じテーブル席に着いていた。伝票を見るとまだ誰も注文を取っていない。
「お待たせしました! ロゼもおはよう。今日も早いのね」
ユーディスの前にプレートを置くと、眠そうなロゼは大きな欠伸をしている。
いつもの様子と変わらなくて少し肩の力が抜けた。
「おはようございます。いつものバゲットサンドで……」
「今日は具の中にヤマバシがあるから豚に替えるわね。コーヒーはいつものでいい?」
確認するとロゼは黙ってうなずいた。
注文の変更点を伝票に書き加えていると、ユーディスがキョトンとした顔でこちらを見ている。
「客の好み全部覚えてんのか? すごいなサリダ」
「いえ、さすがに全員覚えてるわけじゃありませんよ。よく来てくれる人の好みはバッチリ覚えていますけどね」
ロゼに視線を向けるといつもの魔導士ローブを着ておらず、丸首のゆったりしたシャツを白とグレーで重ね着して、黒のパンツもゆったりしたラフな格好だ。出勤してすぐここに来たみたいだ。
ロゼは眠そうな顔でほとんど言葉を発していない。昨日仕事が遅かったんだろうか。
様子を窺っていると彼と目が合う。いつもとは違い、好奇心を宿した目。頬杖を付きながらロゼは微かに口角を上げ、私の心臓が早鐘を打った。
「そ、それではごゆっくり」
この間のことがあってから、ロゼのことが気になって見てしまう。
やばい。目が合っただけで汗かくとか、もうおかしい……。
厨房に注文を入れていると、別のホール担当の子が近付いてきた。
「ねえサリダ、いつも狡くない? イケメンばかり相手して、あたしと代わってよ!」
きたっ。かなりご立腹のようで、可愛い顔に眉間のシワが寄っている。
嫉視の視線から逃れるように、目を向けたカウンターには朝食の箱が並んでいた。
良いタイミングとばかりに返事をする。
「たまたまだって! じゃあ私は朝食配達に行ってくるから、後お願いするわね!」
眉間のシワがなくなり、にこにこ顔に早変わりした彼女から素早く離れ、朝食の配達先を確認するとラモントを後にした。
本当に女子のやっかみは怖い。そんなに彼らの相手がしたいならいつでも言ってくれれば交代する。注文を受けた料理を運べなかったのは少し心残りだけど……。
それから何とも間抜けなことに、ユーディスが一人の時にこの間の宿の支払いについて確認するチャンスだったと気付く。
それを失念していたことを思い出し、肩を落としながら階段を上がった。
三階の工房と四階の執務室にいつもどおり朝食を届け、今日は訓練場の方にも届けることになり、地下への階段を下りた。
大きなギルドは建物も広く、配達するだけで時間があっという間に過ぎる。
「見てますよ……。鏡を見ないと化粧はできませんから」
飲食店の仕事ゆえ普段は化粧と呼べるほどの化粧はしておらず、ファンデーションと薄い口紅だけ。しっかりした眉毛や濃いまつ毛は何も手を加えず、化粧に時間をかけることはあまりない。
黒髪や漆黒の瞳は父譲りで、この国で魅力的だと言われる青や緑の瞳、金色の髪でもない私は地味なものだ。
「隙のない造形でも素の笑顔でそれを崩して見せりゃあ、自分だけに隙を見せられたように感じるだろ。それが計算でないなら尚更、勘違いする男も出てくるさ」
「え? よくわかりませんよ。もっとわかりやすく……」
「ハハハッ、まあいい。それよりまたロゼが何か言ってきたら悪いが付き合ってやってくれ」
「はあ……わかりました……」
ユーディスの言葉をあまり飲み込めないまま、彼の注文を厨房に通して他のテーブルの注文を取りに行った。面白そうに笑っていたから、からかわれただけだろうか。
その間にホール担当の女の子が時折ユーディスの元へ話しかけに行く姿が見えた。トップランクのギルド員ともなるとやはりモテるのだろう。
それにしてもまたロゼが何か言ってきたらって、別の仕事でもあるんだろうか。
ユーディスはロゼに目をかけているのか、二人が仕事で組んでいるところもたまに見かける。ロゼは期待されている人材なのか。
ウィスコールにロゼが入ってきたのは一年くらい前のことだ。確かディランもそれくらいの時期に加入している。
アスターもディランもだいたい同じチームになることが多く、彼ら三人が共に行動するようになったのは半年以上前だ。
いつの間にか仲良くなっているという印象だった。みんな年が近いから親しくなるのも早かったんだろう。
ユーディスの料理がカウンターに置かれて、テーブルに運ぶとユーディスの隣に座る人物にドキリとする。
いつの間に来たんだろう。ロゼが同じテーブル席に着いていた。伝票を見るとまだ誰も注文を取っていない。
「お待たせしました! ロゼもおはよう。今日も早いのね」
ユーディスの前にプレートを置くと、眠そうなロゼは大きな欠伸をしている。
いつもの様子と変わらなくて少し肩の力が抜けた。
「おはようございます。いつものバゲットサンドで……」
「今日は具の中にヤマバシがあるから豚に替えるわね。コーヒーはいつものでいい?」
確認するとロゼは黙ってうなずいた。
注文の変更点を伝票に書き加えていると、ユーディスがキョトンとした顔でこちらを見ている。
「客の好み全部覚えてんのか? すごいなサリダ」
「いえ、さすがに全員覚えてるわけじゃありませんよ。よく来てくれる人の好みはバッチリ覚えていますけどね」
ロゼに視線を向けるといつもの魔導士ローブを着ておらず、丸首のゆったりしたシャツを白とグレーで重ね着して、黒のパンツもゆったりしたラフな格好だ。出勤してすぐここに来たみたいだ。
ロゼは眠そうな顔でほとんど言葉を発していない。昨日仕事が遅かったんだろうか。
様子を窺っていると彼と目が合う。いつもとは違い、好奇心を宿した目。頬杖を付きながらロゼは微かに口角を上げ、私の心臓が早鐘を打った。
「そ、それではごゆっくり」
この間のことがあってから、ロゼのことが気になって見てしまう。
やばい。目が合っただけで汗かくとか、もうおかしい……。
厨房に注文を入れていると、別のホール担当の子が近付いてきた。
「ねえサリダ、いつも狡くない? イケメンばかり相手して、あたしと代わってよ!」
きたっ。かなりご立腹のようで、可愛い顔に眉間のシワが寄っている。
嫉視の視線から逃れるように、目を向けたカウンターには朝食の箱が並んでいた。
良いタイミングとばかりに返事をする。
「たまたまだって! じゃあ私は朝食配達に行ってくるから、後お願いするわね!」
眉間のシワがなくなり、にこにこ顔に早変わりした彼女から素早く離れ、朝食の配達先を確認するとラモントを後にした。
本当に女子のやっかみは怖い。そんなに彼らの相手がしたいならいつでも言ってくれれば交代する。注文を受けた料理を運べなかったのは少し心残りだけど……。
それから何とも間抜けなことに、ユーディスが一人の時にこの間の宿の支払いについて確認するチャンスだったと気付く。
それを失念していたことを思い出し、肩を落としながら階段を上がった。
三階の工房と四階の執務室にいつもどおり朝食を届け、今日は訓練場の方にも届けることになり、地下への階段を下りた。
大きなギルドは建物も広く、配達するだけで時間があっという間に過ぎる。
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