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潮風が目に染みるぜ
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朝一で名古屋南ダンジョンへとやってきた。前日に電車とバスの時刻表とかまで調べていたんだけど、出掛けようとしたら近衛の人が車で送ってくれる事になったよ。帰りも連絡したら迎えに来てくれるらしい。
以前は神出鬼没でどこに潜んでいるかわからない事や、無表情なのが怖い感じがして敬遠していたけれど、東さんや金山さんの事件の時以来なんだかんだ仲良くなった。最近では時折次元世界内で一緒に修行する事もあるし、その際に召喚獣たちをモフったりしているしね。だから軽い感じで「南なんだって?車出すから乗りなよ」って感じで送ってくれたんだ。しかも師匠の手配だろうと思ったら、まさかの夜勤明けの帰るところっていう、完全にプライベートの時間を割いての優しさだったので感謝しかない。
ちなみに今回の師匠たちによる若い世代の教育のし直しだけれど、その中に近衛班の人員は含まれていないそうだ。どうやら全班の中でも一番厳しいらしくて、甘い考えの者はそもそも所属出来ないし、もし所属していたとしたら発覚次第徹底的に教育するとの事だった……あとそもそも若い世代が余りいないとも。だからか一緒に居ても嫌な視線を感じる事もないし、1人の人間として対応してくれるのでめちゃくちゃ居心地がいいんだよね。ただ、師匠たちの悪口言ったら速攻で告げ口されそうだけど……
「じゃ、頑張ってね!」
「はい、ありがとうございました」
軽い調子で挨拶して帰って行く車を見送ってから、協会の中へと入った。
依頼書は自宅PCや協会端末からでも見る事が出来るが、受注自体は協会内の端末にて印刷して受付に申請する事により完了する。また協会内端末以外では依頼者情報も確認出来ないので、自宅で見て協会を通さずに直接交渉などは出来ない……まぁ噂では直接交渉すると依頼料は安く叩かれるらしいけどね、協会を通せないような後暗いところがあるシーカーだと判断されて。
まぁそんな訳で、ある程度目星を付けてきた依頼を探す。せっかくなので取り扱った事がなく相対した事のないモンスターという事で、80階層で採取出来る海石を納品するものにした。これは干潟のような階層にいる貝型モンスターやハゼやムツゴロウといった独特な魚、また干潟に棲む生物を餌とする鳥類のようなモンスターが落とす。海石は紺色の石で、それを真水にいれると海水に変わるというものだ。海石1gに対して真水200gに作用するらしく、水族館や生鮮魚の運搬業者が必要としているのがほとんどのようだ……まぁ他に何か利用出来ないかと研究する機関や企業からの依頼も微々たるものではあるが混じっているけどね。ただ今回は水族館からの常時依頼書を申請する。
受付にて端末を掲示する事で、80階層まで行く能力があるのかなどを確認される。どうやら俺たちには分からないが、依頼ごとに受注者制限があるらしい。また俺たちもこれまでの納品物や協会への貢献度など様々な点から協会独自のランク付けがされているらしく、個々に付与されたIDを示す事で、その制限と照らし合わせて受注出来るかどうかを判断される。
まぁ俺と香織さんは北ダンジョンで多大な魔晶石やドロップなどの売却をしているからね、問題なく申請は通った。その際どれほどの量までを買い取って貰えるのか?期限はいつまでなのか?などを確認してから、正式に受注が終わった。
それにしても朝一だっていうのに混んでいる。依頼書確認PCはそこまで混んでいなかったので、低層探索者が多いのだろう。
この名古屋南ダンジョンは100階層だ。元々は海で、埋め立てにより現在陸地になっているような地域にあるダンジョンは、大抵がどこか海を連想させるような階層が見受けられるのが特徴的だ……全階層がって訳ではないけど。ここは干潟だけだけど、場所によっては階層内なのに何故か海の満ち干きが見られる所もあるらしい。今更だけど、本当にダンジョンって不思議に満ち溢れているよね。あとここは100階層まで攻略しても、転移陣は出ないので自力での帰還が求められる。
混み合う協会内を縫うように歩いていると幾度となく声を掛けられる……香織さんと召喚獣たちだけが。「一緒に探索しようよ」とか「見かけない顔だね、案内してあげるよ」なんていうナンパもどきのものばかりだ。
それらをサクッと断って……中にはしつこいのもいるけれど、断って。基本的にはうどんやつくねが「邪魔」「どけ」とか強い口調で言っている……男のお前が言え?言っているはずなんだけど、何故か俺の声は耳に入らないみたい、あと彼らの視界には俺の姿は消えているみたいだよ?どうやら知らず知らずのうちに、以前学校で持っていないにもかかわらず発動していた、今や確実に持っている透明化スキルを発動しているようなんだよね。
まっ、さすがにウザイしダンジョンに潜れないので、魔力を多めに覆ってみました……効果抜群です、及び腰になった所を一気に脱出した。最初からやっておけば良かったと後悔したほどだったよ。
そんなこんなでようやく探索となったんだけど……うん、付けられているね。
特にしつこかった「俺たちこの辺りでは知らないヤツがいないほどの有名シーカーだぜ」なんて言っていた20代半ばくらいの10名ほどの首や耳の後にタトゥーが見えるパーティーと、協会内端末で検索している時からねちっこい目で隅の方からこちらを見つめていたオッサン7~8名のパーティーだ。
初めての場所という事で、ゆっくり慎重に潜るつもりだったけれど予定変更だ。端末情報を頼りに一気に潜れる所まで潜る事にした。ただちょっと腹も立つので少し試して見てからにしよう。何を試すかというと、少しづつスピードを早めるって事……どのスピードまで付いて来れるのかってね。3割増しにして3階層を抜ける頃にまずは自称有名シーカーたちの少しづつバラバラになり、4階層の真ん中辺りまで進んだ所で最後の1人も動きが止まった。オッサンたちはというと、5割増しにしたところで付いて来れなくなったようだ。何人かは足がもつれたのか転んでいたようだから、いい気味だと思う。でもその2組だけじゃないんだよね、香織さんが美しすぎるし、それこそ名古屋では有名な事もあってか、ルール違反のダンジョン内でのナンパが結構あった。もちろん断って早歩きなりで振り切ったんだけど。で、付けてくるのがほぼ居なくなったところで全力疾走で一気に80階層にまで到達した……北ダンジョンと同じように60階層くらいが限界かな~なんて思っていたけれど、だいぶ体力が着いたみたいだ。俺はもちろんだけど香織さんもね。お互いちょっと驚いたし。
干潟には俺たち以外のシーカーは誰一人として居なかった。
ここは干潟の泥の中……つまり地中から突然襲ってくる事が多いし、鳥などがそれにはお構い無しに上空から攻めてくるので、少し面倒なのが理由のようだ。
まぁもう俺たちには気配察知もあるし、魔力に注視していれば苦労する事は無い。問題は慣れない泥の上で、いかに足を捉われる事なく行動するかだけだ。ただ俺に関しては、水上歩行のスキルが適用されているのか沈む事はない。泥だから水上とは言えないと思うんだけど、水分量で適用基準が決まるのかな?いつか検証が必要かもしれないけれど、今はとりあえず分身を10ほど出してサクサクと泥の中に潜むモンスターを狩る……香織さんが時折転んで泥まみれになっているのを助け出したりしながら。
結構楽しい……
モンスターは全く手応えはないけれど、香織さんに肩を貸したり、両手を握って起き上がらせたりと、密着する事も多いし。
「足に魔力を平に纏えばコケないですよ」
ハク!コノヤロウ!!
何余計な事言ってくれてんだよっ!
途中で気付いていたけれど、黙っていたのに!!
ちょっと、なんでそんな簡単に魔力を纏えちゃうんですか?そんなに得意じゃなかったですよね!?
「……もしかして一太くん知ってた?」
なんでそっと俺から離れるんですか!?
もしかして顔に出てたんですか!?
そしていつの間に香織さんまで俺の顔から心の内を読めるようになったんですか!?
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
「ふーん……シャワー浴びたいから次元世界に入らして貰える?」
「そ、そうですね!ちょうどいいから休憩にしましょうか」
「一太くんは外で見張ってて、うどんちゃんたち行こっ!あっ、もし中に入ってきたら絶交だからね!!」
「……はい」
クソー!!
なんか潮風が目に染みるせいか泣けてくるよ……
風なんて吹いてないけど……
自業自得だって!?
うるさいわ!!
以前は神出鬼没でどこに潜んでいるかわからない事や、無表情なのが怖い感じがして敬遠していたけれど、東さんや金山さんの事件の時以来なんだかんだ仲良くなった。最近では時折次元世界内で一緒に修行する事もあるし、その際に召喚獣たちをモフったりしているしね。だから軽い感じで「南なんだって?車出すから乗りなよ」って感じで送ってくれたんだ。しかも師匠の手配だろうと思ったら、まさかの夜勤明けの帰るところっていう、完全にプライベートの時間を割いての優しさだったので感謝しかない。
ちなみに今回の師匠たちによる若い世代の教育のし直しだけれど、その中に近衛班の人員は含まれていないそうだ。どうやら全班の中でも一番厳しいらしくて、甘い考えの者はそもそも所属出来ないし、もし所属していたとしたら発覚次第徹底的に教育するとの事だった……あとそもそも若い世代が余りいないとも。だからか一緒に居ても嫌な視線を感じる事もないし、1人の人間として対応してくれるのでめちゃくちゃ居心地がいいんだよね。ただ、師匠たちの悪口言ったら速攻で告げ口されそうだけど……
「じゃ、頑張ってね!」
「はい、ありがとうございました」
軽い調子で挨拶して帰って行く車を見送ってから、協会の中へと入った。
依頼書は自宅PCや協会端末からでも見る事が出来るが、受注自体は協会内の端末にて印刷して受付に申請する事により完了する。また協会内端末以外では依頼者情報も確認出来ないので、自宅で見て協会を通さずに直接交渉などは出来ない……まぁ噂では直接交渉すると依頼料は安く叩かれるらしいけどね、協会を通せないような後暗いところがあるシーカーだと判断されて。
まぁそんな訳で、ある程度目星を付けてきた依頼を探す。せっかくなので取り扱った事がなく相対した事のないモンスターという事で、80階層で採取出来る海石を納品するものにした。これは干潟のような階層にいる貝型モンスターやハゼやムツゴロウといった独特な魚、また干潟に棲む生物を餌とする鳥類のようなモンスターが落とす。海石は紺色の石で、それを真水にいれると海水に変わるというものだ。海石1gに対して真水200gに作用するらしく、水族館や生鮮魚の運搬業者が必要としているのがほとんどのようだ……まぁ他に何か利用出来ないかと研究する機関や企業からの依頼も微々たるものではあるが混じっているけどね。ただ今回は水族館からの常時依頼書を申請する。
受付にて端末を掲示する事で、80階層まで行く能力があるのかなどを確認される。どうやら俺たちには分からないが、依頼ごとに受注者制限があるらしい。また俺たちもこれまでの納品物や協会への貢献度など様々な点から協会独自のランク付けがされているらしく、個々に付与されたIDを示す事で、その制限と照らし合わせて受注出来るかどうかを判断される。
まぁ俺と香織さんは北ダンジョンで多大な魔晶石やドロップなどの売却をしているからね、問題なく申請は通った。その際どれほどの量までを買い取って貰えるのか?期限はいつまでなのか?などを確認してから、正式に受注が終わった。
それにしても朝一だっていうのに混んでいる。依頼書確認PCはそこまで混んでいなかったので、低層探索者が多いのだろう。
この名古屋南ダンジョンは100階層だ。元々は海で、埋め立てにより現在陸地になっているような地域にあるダンジョンは、大抵がどこか海を連想させるような階層が見受けられるのが特徴的だ……全階層がって訳ではないけど。ここは干潟だけだけど、場所によっては階層内なのに何故か海の満ち干きが見られる所もあるらしい。今更だけど、本当にダンジョンって不思議に満ち溢れているよね。あとここは100階層まで攻略しても、転移陣は出ないので自力での帰還が求められる。
混み合う協会内を縫うように歩いていると幾度となく声を掛けられる……香織さんと召喚獣たちだけが。「一緒に探索しようよ」とか「見かけない顔だね、案内してあげるよ」なんていうナンパもどきのものばかりだ。
それらをサクッと断って……中にはしつこいのもいるけれど、断って。基本的にはうどんやつくねが「邪魔」「どけ」とか強い口調で言っている……男のお前が言え?言っているはずなんだけど、何故か俺の声は耳に入らないみたい、あと彼らの視界には俺の姿は消えているみたいだよ?どうやら知らず知らずのうちに、以前学校で持っていないにもかかわらず発動していた、今や確実に持っている透明化スキルを発動しているようなんだよね。
まっ、さすがにウザイしダンジョンに潜れないので、魔力を多めに覆ってみました……効果抜群です、及び腰になった所を一気に脱出した。最初からやっておけば良かったと後悔したほどだったよ。
そんなこんなでようやく探索となったんだけど……うん、付けられているね。
特にしつこかった「俺たちこの辺りでは知らないヤツがいないほどの有名シーカーだぜ」なんて言っていた20代半ばくらいの10名ほどの首や耳の後にタトゥーが見えるパーティーと、協会内端末で検索している時からねちっこい目で隅の方からこちらを見つめていたオッサン7~8名のパーティーだ。
初めての場所という事で、ゆっくり慎重に潜るつもりだったけれど予定変更だ。端末情報を頼りに一気に潜れる所まで潜る事にした。ただちょっと腹も立つので少し試して見てからにしよう。何を試すかというと、少しづつスピードを早めるって事……どのスピードまで付いて来れるのかってね。3割増しにして3階層を抜ける頃にまずは自称有名シーカーたちの少しづつバラバラになり、4階層の真ん中辺りまで進んだ所で最後の1人も動きが止まった。オッサンたちはというと、5割増しにしたところで付いて来れなくなったようだ。何人かは足がもつれたのか転んでいたようだから、いい気味だと思う。でもその2組だけじゃないんだよね、香織さんが美しすぎるし、それこそ名古屋では有名な事もあってか、ルール違反のダンジョン内でのナンパが結構あった。もちろん断って早歩きなりで振り切ったんだけど。で、付けてくるのがほぼ居なくなったところで全力疾走で一気に80階層にまで到達した……北ダンジョンと同じように60階層くらいが限界かな~なんて思っていたけれど、だいぶ体力が着いたみたいだ。俺はもちろんだけど香織さんもね。お互いちょっと驚いたし。
干潟には俺たち以外のシーカーは誰一人として居なかった。
ここは干潟の泥の中……つまり地中から突然襲ってくる事が多いし、鳥などがそれにはお構い無しに上空から攻めてくるので、少し面倒なのが理由のようだ。
まぁもう俺たちには気配察知もあるし、魔力に注視していれば苦労する事は無い。問題は慣れない泥の上で、いかに足を捉われる事なく行動するかだけだ。ただ俺に関しては、水上歩行のスキルが適用されているのか沈む事はない。泥だから水上とは言えないと思うんだけど、水分量で適用基準が決まるのかな?いつか検証が必要かもしれないけれど、今はとりあえず分身を10ほど出してサクサクと泥の中に潜むモンスターを狩る……香織さんが時折転んで泥まみれになっているのを助け出したりしながら。
結構楽しい……
モンスターは全く手応えはないけれど、香織さんに肩を貸したり、両手を握って起き上がらせたりと、密着する事も多いし。
「足に魔力を平に纏えばコケないですよ」
ハク!コノヤロウ!!
何余計な事言ってくれてんだよっ!
途中で気付いていたけれど、黙っていたのに!!
ちょっと、なんでそんな簡単に魔力を纏えちゃうんですか?そんなに得意じゃなかったですよね!?
「……もしかして一太くん知ってた?」
なんでそっと俺から離れるんですか!?
もしかして顔に出てたんですか!?
そしていつの間に香織さんまで俺の顔から心の内を読めるようになったんですか!?
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
「ふーん……シャワー浴びたいから次元世界に入らして貰える?」
「そ、そうですね!ちょうどいいから休憩にしましょうか」
「一太くんは外で見張ってて、うどんちゃんたち行こっ!あっ、もし中に入ってきたら絶交だからね!!」
「……はい」
クソー!!
なんか潮風が目に染みるせいか泣けてくるよ……
風なんて吹いてないけど……
自業自得だって!?
うるさいわ!!
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