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気持ち悪いって言うなよ

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 やはりというか予想通り、香織さんはうどんの背に乗っての降下となる。うどんが無駄に器用に尻尾で香織さんをくるっと巻いて自ら背に乗せた結果だ。まぁこれから起こる事を考えたら、少しでも癒しがあった方がいいからいいんだけどね。

 東さんたちを含めて総勢100人ほどだろうか、必死に端末を一つ一つ確かめているけれど、きっとあれは俺たちを探しているだろうね。
 ただ死体は無く武器防具と端末だけが転がっている事に首を傾げていると、ダンジョン内で死ぬとまず肉体だけが2~3時間後にダンジョンに吸収され、その後約10日ほどで武器防具や端末など身の回りの物も吸収され消えるらしい。それはまるで底なし沼に落ちていくように、ゆっくりと地面に消えるそうだ。もしその場に居合わせたとして、消えて行くのを止めようと土を掘り返したりしても、実際に沈んでいるわけではないので、何もないらしい。以前ダンジョン内で殺人を犯した場合の話を聞いた時の疑問が今解けた、ダンジョンに吸収されるという事を実体験として。

「やはりロシアか」

 さすが数十ヶ国語を話せるだけあるね、外国人同士が話している言語で判断出来たようだ。ちなみに俺には全く何を言っているかわからない。ロシア語なんて習っていないし……まぁ、もし英語だったとしても怪しい事は否めないけれど。対してうどんたち召喚獣は、どこの言葉だろうと理解出来るようだ……そして香織さんもほんの少しなら話す事は出来ないが理解は出来るらしい。
 何だろうこのエリート集団……
 何か哀しくなってきた、状況はそんな事気にしている場合ではないんだけど。
 よし、全てが終わったら香織さんに教えて貰おう!
 美人なお姉さん家庭教師とかって興奮するよね!!
 って、それどころじゃないんだった……危うく妄想モードに入ってしまいそうだったよ、危ない危ない。

「Что вы ищете?」

 降下しながらの師匠の声に、一斉に集団が見上げ振り向いてきた。
 東さんたちは師匠の声に驚いたというよりも、うどんの姿に驚いているようだ。そしてどこか「やはり」と口にしたり頷いているので、以前大須の突発型ダンジョン内で襲われた時の事を思い出しているのだろう。

「Это было все еще живо」

 うん、全く何を会話しているのかわからないから、通訳して貰う。師匠は「何かお探しかな?」と言ったのに対して、「やはり生きていたか」と返してきたようだ。
 どんな対応をとってくるのかと、警戒していると金山さんが1歩前に出てきた。

「ねぇ香織、一緒にロシアで暮らそうよ」
「……なんで」
「昔に話したと思うんだけど私のお父さんロシア人なんだよね。で、香織を連れて行けば家族一緒に暮らせるんだって。ずっと家族で暮らしたかったからさ、私のお願い聞いてよ。前に私の幸せを全力で応援するって言ったよね?」

 私たち?
 たちというところに疑問を浮かんで周りを見てみると、以前すれ違った時にキムとアマしか見えていなかった目にモブカットフィルターが付いていると思われる金山さんの妹さんが、ハリウッド映画俳優顔負けのイケメンにしなだれかかって腰に手を回してイチャイチャしていた。当事者のはずなのに、まるでこちらには興味なさそうな顔で、イチャイチャしているけど何なんだろうか。あれがお父さんなんだろうか?……いや、それにしては若すぎるな。

「連れて行ってどうするの?」
「今までと同じように探索してくれればいいよ……あとはパパ何かあったっけ?」
「ああ、実験のいくつかに興味して貰ったりするだけだな」
「そうだった、交配とか色々な実験だった」

 やはり妹さんが抱きついているのはお父さんじゃなかったようだ。パパと呼ばれ返事をしたのは、1団の中でも1番体格がいい金髪の角刈り男性だった。
 交配って……それって子供作らせたりするって事かな?なんか言い方からすると普通の事じゃなくて、マッドサイエンティスト的な匂いがするけれど。

「もし嫌だって言ったらどうするの?」
「えっ?何言ってるの?そんな選択肢ある訳ないじゃん。この状況見て分かるでしょ?」

 心底不思議そうな顔で首を傾げて笑う金山さん。行為自体はあざと可愛い感じだけど、目の奥が笑っていなくて逆に怖い。

「あっ、あとそこの横川くん。香織が来るなら一緒に来るよね?まぁ君にも選択肢はないんだけどさ」

 うーん、もし香織さんがロシアについて行くって言ったらか……考えてもいなかったけれど、確かにそれは悩むかも。まっ、香織さんがその選択肢を選ぶわけはないんだけどね。事前にこうなった場合の意思確認で、香織さんは日本で今まで通り生きていく事を言っていたし。

「親友じゃないんですか?それなのによく平気で実験だとか色々言えますね」
「はぁっ?親友?親友なんて思った事ないんだけど?」
「えっ?」
「何不思議そうな顔してんの?あんたそんな事思ってたの?気持ち悪っ!!」
「なんで……」
「あんたのせいで私がどれだけツラい思いをしてきたと思ってんの?小さい頃から比べられ……私がいいなって思っている男《ひと》みんな香織香織うるさいし、挙句の果てには比べられてブサイク呼ばわりされて、私がハーフだって知ると、髪の毛しか遺伝しなかった残念ハーフだとかまで言われてっ!!で……jobでエリート職が出て初めて勝ったと思ったら、勇者とかふざけないでよっ!!」

 香織さんがツラそうに顔を歪めて下を向いてしまったので、つい口を挟んでしまったのだが……まさか親友という言葉が地雷だなんて思ってもいなかった。先ほどまでの笑顔が一転、目を釣りあげ顔を歪めて口元に泡を浮かべながら、まるでマシンガンのように言葉を吐き出しているよ。

「でももし親友になって欲しいならなって上げてもいいよ?その代わり来てくれるんだよね?私のために。なんたって親友だもんね」
「……」
「何黙っちゃってんの!?私は一応あんたの為を思って言ってやってるんだよ?」
「……ため?」
「そうっ!勇者は利用出来ないなら殺すってのが世界の共通認識だって知ってた?そうならないように、奴隷としてでも生かせてあげようとしてるの。私って優しい~!」

 奴隷って……何時代の人間だよ。
 金山さんヤバイな……目がイッちゃってるし、なんかクスリでもやっちゃってるのかな?

「あんたも素直に着いてくれば、香織ともヤラしてあげるよ、交配実験もしてみたいだし嬉しいでしょ?妄想しているような事出来るよ?香織のその可愛い顔を歪ませたいんでしょ?」
「最悪だ」
「はぁっ!?何が最悪よ!!私からしたら、あんたたちの方が最悪なんですけど?あんただって香織の外見だけで夢中なんでしょ?学年も違うし、話した事なんてないはずだもんね~」
「……香織さんは覚えていないと思うけれど、幼稚園児の時に近くの公園で会って話した事あるし」
「はっ?小さい時から好きだったから違うとでも言いたいの?あぁそういや手紙にそんな事書いてあったね、気持ち悪いから渡さずに捨てたけど」

 確かにそんな妄想をした事がないかと言えば嘘になる……うん、確かによく妄想したりして夜お世話になった事は事実だ。だけど無理やりしたいわけじゃない。
 それに外見だけで好きになったわけじゃないからね。幼き日のある出来事が合ってから、ずっと好きだったんだ。
 手紙捨てたのかよ……そういえば検閲するとか言ってた事を思い出した。そりゃあいくら待っても返事なんて来ないはずだよ。それよりも幼き日からの一途な想いを気持ち悪いってひどいな……

「もういいや……面倒くさい。来ないって言うなら死んで私のためになって?」
「……本気で言ってるの?」
「はぁっ?本当にお花畑だよね……今までの話を聞いてなかった?本当にウザイ」
「……そっか」
「あっ、抵抗しない方が楽に死ねるから。これが最後の忠告ね……まっ、幼馴染の優しさってやつ」

 嘘であってくれと願うように確認した香織さんの言葉は、呆気なく地へと吐き捨てられた。

「あんたたちさ、ちょっと修行して強くなったかもしれないけど、パパたちはロシアの最強集団だし勝てないから……何笑ってんの?いくらそこの人が強くてもこの数に勝てると思ってんの?そこのデカい狐合わせて10人……あぁ、分身だっけ?あれ合わせて25人くらい?それでも10分の1なんだけど」

 最強集団とかいう言葉につい笑ってしまったら、目ざとく見られて更にキレられてしまったよ。
 確かに降下した直後より、更に59階層から降りてきた人たちを合わせると、現状では東さんたち合わせて200人くらいいるけれど……あっ、そうかそういえば東さんたちや金山さんたちには分身が100以上になる事を見せていなかったから、勘違いしているみたいだね。

「じゃっ、そういう事で死んでっ!!」

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