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その者蒼き衣を纏いて野に降り立つ

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「2時間待ったが来ないようだな……」
「組長さん2人いらっしゃいますし大丈夫ですよね?」
「あぁ、あの2人がいれば並大抵の事は大丈夫だ。しかもこんな低層であれば特にな」
「で……では大丈夫です、お待たせしてしまってすみませんでした。行きましょう」
「では地上へと帰ろうか」

 先輩……クソ忍者の低層という言葉に一瞬詰まりましたね。俺も同感ですよ!!
 さらっと低層というとは……怖いわ!!
 まぁここまで大して危険を感じる事もなかったけどさ。

 ボス部屋はこれまでと同じようなジャングルだった。部屋という名前に疑問を感じるほどの広さだが、扉があったので部屋なのだろう。
 出現するのは大型肉食恐竜で、全長50m以上あり土魔法を行使する。ボスの名前はアースドラゴン、その咆哮は心の弱い……精神値の低い者は聞くだけで硬直してしまうほどの恐怖を与えるらしい。クソ忍者に聞いたところ最低でも2Bはないとキツイという話だ。力・体力・敏捷は2Aで他の値もAはある。その皮は硬く、腕や尻尾、大きな口から覗く鋭い牙も攻撃に使用して襲いくる。またボスの小型版といった見た目(全長約15mほど)の取り巻きが30いる。これはボス部屋に侵入した人数に応じて変わるらしい……つまり後から来る東さんたちは17人なので170匹取り巻きがいるという事だ。ここでふっと、もし分身を大量に発現させたまま突入したらどうなるのだろうか?と思ったが、もし人数にカウントされたら大変なので黙っておく事にする。ただまぁ……通常階層と違い他のモンスターはいないので、ここまで散々大量のモンスターをけしかけられ続けた身としては、若干楽だと感じてしまうのは否めない。

「大鷲に乗っての上空からの攻撃はやはり禁止です?」
「うむ、修練中だからな」
「私の結界もでしょうか?」
「それも禁止だ、どうしても危険な時はいいがな……まぁ横川がいるし必要ないだろう」
「わかりました。横川くんよろしくね」
「頑張りますっ!分身!召喚トラ!」
「主様、私は何をしたらいいです?」
「あーうどんだったな?……うどんは俺とお話だ」
「へっ?……えっえっえっと主様のお役に立つのが召喚獣の役目ですので」
「横川いいな?」
「はい、うどん仰せのままにするんだ」
「かっ、かしこまりましたですっ」
『うどんよ、俺のプライベートは絶対に話すなよ?話したら二度と表に出さないし、退魔の陰陽師を探してお願いする』
『信用して下さい、主様のプライベート情報は何をどう脅されても話しません』
『ならよし、後でなんか美味いもん食わしてやる』

 クソ忍者はうどんと何を話すつもりなんだろうか?とりあえずうどんには忠告したが不安だ……あの調子だと、ちょっと脅されたらペラペラと話そうだし。食べ物で釣っておいたけどその効果を期待したい。

「うどんちゃん後でねっ!ボスたちは纏まってまっすぐ行った方向にいるみたいだからトラちゃん横川くん行こう!」

 ずっと気付かないフリをしてきたけれど、やはり気になる……
 先輩の中では召喚獣の方が比重が高いような……毎回俺より先にトラとか大鷲の名前が出てくるんだよね。もしかして俺ってトラの付属品……い、いやそんな事はないはずだ!分身しても迷う事なくすぐに本体の俺を見つけてくれるし!!
 ……ま、まさか先輩の判断も死んだような目とかそんなんじゃないよね?ち、違うと信じたいけど、怖くて聞けない。

 と、ともかく今はボスに集中しよう。
 真実を知るのを先送りにした?違うからね?ここはダンジョンだし、ボス部屋だからね、うん。

 36人の分身が一斉に駆け出す。鶴翼の陣……つまり俺と先輩を中心としたVの形だ。人数が多いので3重とし、後方の陣は魔法攻撃、前方は物理攻撃を担当する、そして最前列は召喚獣たちだ。魔法が着弾すると同時に抜刀した分身たちと召喚獣が攻撃を加えるのだ。分身たちはどうやら同期しているらしく、逐一指示を出さなくとも勝手に揃ってくれるのでありがたい。また先輩じゃないけど、もし万が一魔法攻撃により巻き込んでしまっても大して問題ないところが最高だ。もし「痛い」とか「苦しい」なんて感情が逆流してきたら大変だけど、それもないので二重の安心。まぁ消えたら分身を発現させるのに魔力を使用するので、疲れることは疲れるんだけどね。

「「「炎蛇炎爆炎地!!」」」
「隕石!」

 スキル名発句と共に、前方が一気に赤く染まり、その赤を切り裂くように上空に突然現れた隕石が落ちる……その着弾は地を空気を震わせた。

「抜刀!」

 召喚獣の何匹かが巻き込まれて消えてはいるが、それにはかまわず抜刀し飛びかかる。

「炎蛇!影蛇!炎地!」

 追加で魔法を発動しつつ、分身たちが跳び上がり剣を振るった……
 あれ?
 一撃でボスの首が落ちちゃったよ……取り巻きたちの姿も残っていないし。
 あるのは熱せれた空気のみ。

「霧雨!水球!!」

 まるで消火活動のように水を撒き散らしてみたら、そこにはドロップである魔晶石がボロボロと落ちているだけだった。

「終わったみたいです」
「う、うん……」

 な、なんか先輩が引いてるような?
 なんで??先輩の攻撃も一緒だったのに……

「お互い怪我がなくて良かったですね!」
「うーん、そうなんだけど……そうなんだけど、なんか強すぎない?」
「そんな事はないですよ、師匠たちに比べたら俺なんてカスみたいなもんだし。それに東さんたちだって強いんですよね?世界的に有名なわけだし」
「いや……」
「とりあえずドロップ拾って戻りましょう」
「……そうだね」

「いや……」って先輩も勇者なのに、東さんたちは世界的トップパーティーなのに謙遜するなんて、慎み深いな~。

 今回は宝箱は出てこ来なかったようだ残念。もし出たら2人でドキドキタイムという話素敵な時間を過ごせたのに!!

 さてドロップも拾い終わったし、どうしたらいいのかとクソ忍者を見たら、真剣な顔でうどんと何かを話し込んでいるようだ。また脅してでもいるのかな?

「師匠!終わりました~!」
「あぁ……よし、ボスのドロップである魔晶石を手にして移動するぞ、大鷲を出せ」

 俺の声に反応した後、何かを強い口調で言ったようで、うどんが激しく首を縦に振っている……まるでお土産の赤べこのようだ。

「召喚!大鷲」
「ほら移動だ、横川も早く乗れ」

 いや、うん乗って移動はわかるけど、なんで召喚主の俺より先にクソ忍者と先輩は乗っているんでしょう?しかも先輩にいたっては、1番羽がもふもふしている柔らかい首元をしっかりと確保しているし。

 俺が飛び乗ると、命令もしていないのに飛び立ち羽ばたき始めた大鷲……うん、だからなんでクソ忍者の命令を優先的に聞くのかな?まぁいいけどさ。
 そしてキツネのうどんは何故か俺のこちらへ来いという命令を無視して、先輩の肩の上に乗っている。その姿はまるで腐海の端に生きる青い服の姫様のようだ……素敵だ。素敵ゆえにうどんに強く言えない……あの野郎、絶対に計算してやがるっ!

 大鷲が移動した場所は、部屋の右隅にある扉の前だった。

「扉?……いや階下への扉は左にあるはずじゃ?」
「あぁ知らん者は左へと行くからなかなか見つからんが、こちらに転移陣のある部屋がある。ただボスを倒さん限り扉は開かんようになっているがな」

 説明されて納得だ、そりゃあアナウンスされないと知らないわけだし、ウワサがでないのもわかる。

「では帰還する」

 ボスの魔晶石を真ん中にセットすると、地面に描かれた魔法陣が光だし、俺たち3人は1階層の正ルートから外れた片隅へと移動した。

 そのまま探索者協会へと移動したわけだが、なぜか応接室へと案内された。不思議に思ってキョロキョロする俺と先輩に教えられたのは、100階層に行ったとわかっている事と、ドロップが大量にある事が予想されるために、他のシーカーたちのやっかみや良からぬ事を企む者が出ないようとの配慮らしい。

 81階層~100階層を先輩と一緒に探索した訳だが、そのドロップは全て先輩たちパーティーに譲る事となった。また61階層~65階層で1,000個魔晶石を集めろと言われた時のドロップ全ては東さんたちパーティーへ。その他の俺が1人で倒したドロップは貰える事に。
 なぜそんなに譲る事となったかといえば、ほとんどの階層で先行していたために、他の人たちは稼げてないからという事らしい。
 先輩は最初固辞していたけれど、最終的には受け取る事となった……まぁそれを4人で割るわけだけどね。

 さすがに若干の不満を覚えないわけでもなかったけど……俺の取り分の売却額が計1,208万円になったので、そんな気持ちは一瞬で吹っ飛んだんだけどね!!
 気になるスクロールは、プチファイアというマッチ代わりにしかならないような火魔法の中のスキルの1つだった模様。買取価格はまさかの5,000円……ガッカリ具合が半端なかったよ。ポーションの方は何だったかわかっていない。なぜかというと、受付の人とクソ忍者がコソコソと話し合ったあと、「横川、これは俺が欲しいがいいか?」と真剣な眼差しで言われたので了承したためだ。一体何だったのか気になるけれど、終わった事だからしょうがない。
 何に使おうかな!?
 今度こそアマとキムを連れて……って横に先輩がいるのに何を考えているんだ俺は。今は先輩の空気をしっかり吸い込んでおかないと!!

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