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商人謁見
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その日謁見場ではメイド長、執事長とラースの3人がコソコソと話し合っていた。
そこに訪れた魔王が声を掛けるとピタリとそれまでの会話を止めた。
「何話してたの?」
魔王の質問に3人ともが目を逸らし、「魔王様のお耳にいれる程の事ではございません」と答える。
だが納得のいかない魔王は執拗に質問をするが、用事を思い出したと執事長はそっと部屋を出、メイド長は通常であれば魔王にお茶を淹れるのだが、今は部下のメイドを呼んで指示を出していた。
さすがの魔王も気付いた、自分に聞かれたくない事なのだと。
そうとわかったら、意地でも聞きたいのが人間である。
「ねえラース?何を話してたの?」
「いえ何も」
「命令よ?」
命令されても「仕事の事です」などと誤魔化せばよい、だがラースはラースなのだ。
「メイド長が2人の男性に言い寄られているという話です」
ついに吐き出した言葉に不機嫌な顔で魔王が2人に問いかけた。
「・・・・・・ふーん、なんで私に話さなかったの?」
「えっ、男日照りの魔王様に言え・・・・・・・グハッ」
「私事ですので」
そつなく答えるメイド長と瞬時に振り抜かれた左拳に沈むラースだった。
「で、どんな相手なの?顔は?恰好は?」
ワクワクした顔でメイド長ににじり寄り質問を繰り返す魔王。
悔しさはあるものの、他人の恋愛話も大好きであった。
澄まし顔でお茶を淹れるメイド長。
「2人とも商人で御座いまして、人族で御座いますがタイプでは御座いませんので」
「なんで?顔、顔!」
はしゃぐ姿はまるで子供である。
「では失礼して・・・・・・」
目の前に浮かんだ立体像はなかなかにイケメンな若い男達であった。
「な・・・・・・カッコいいじゃない!モッタイナイ!わた・・・・・・何でもない・・・・・・どこがダメなの?」
「私に頂だい」と言いかけて止めたらしい魔王、さすがにはしたないと気付いたようである。
「そうですね・・・・・・性格がと言いますか。2人とも魔王様に近い私の立場を愛されておりますしね」
「私に近づきたいって事!?」
魔王のいつも傍にいるメイド長、その立場はわかりやすくいうと社長秘書のようなものである。商人がそこに魅力を感じるのは当然の事であった。執事長も同じようによく言い寄られるのだが、この国は一夫一妻制の為に大きく阻まれていた。
ただ、メイド長に近づく理由はそれだけではなく、「あの魔王を手玉に取り抑制できる」という手腕が買われていたりする。
そして魔王に近づきたいのではなく、権力を行使する立場の者に近づきたいのだが魔王が気付けるはずもない。
「そうとも取れますね」
否定はせず、含みを持たせる言い方で答えるメイド長の唇はやはり大きく釣りあがっていた。
「会ってみたいわ」
「会う理由がございませんのでは?」
「メイド長に交際を申し込んだ男を上司である私が見定めるっていうのでいいじゃない」
必死な魔王にのらりくらりと躱していたメイド長だったが、最終的に後日呼ぶ事となった。メイド長は躱していたのではなく、案の定魔王の必死さを楽しんでいただけだった。
その日、商人2人が謁見場へと来ていた。諸々の挨拶を済ませ恭しく顔をあげたのだが、その身体は小刻みに震えていた。
「よく来てくれたわね2人とも」
「「ハッ、魔王様におかれましては「そういうのはいいわ」・・・・・・」
「で、わた・・・・・・メイド長のどこがいいのかしら?」
賛辞の言葉を途中で止めると、身を乗り出して声をかけた。本当は「私に会いたいのでしょ」と言いたかったのだが、呼び出した目的を思い出したのだ。
「その前に・・・・・・お2人ともお気持ちは大変嬉しく思いますが今回はお断りさせて頂きます」
商人が口を開く前にメイド長が大きな声ではっきりと告げた。
希望を持たせても仕方がないのである。
「この方が早いですわ」
「も~色々聞きたかったのに」
「私などただのカモフラージュでは?」
「フフフ」
魔王とメイド長の小声での会話である。
2人と唇は三日月型になっていた。
「本当の目的はわかっているのよ?」
ガクリと肩を落していた商人達は魔王の言葉に驚いた顔を見せた。
「も、申し訳ございません!け、決して疚しい気持ちなどではなく・・・・・・」
「し、商売を拡げたく思ったのも確かではございますが、それだけなどではなく・・・・・・」
「え?」
「ほ、本当でございます!」
「メイド長様は女性としても職業婦人としても大変魅力的でございます!」
「・・・・・・あれ?」
「「申し訳ございません、な、何卒ご容赦を・・・・・・」
額に汗を浮かべ、真っ青な表情で取り繕う姿に魔王は首を傾げていた。
そして言い方が遠回り過ぎたのかと、真実を告げる事にした。
「私が目的なのでしょ?」
「「ヒィィィィッ・・・・滅相もない!ま、まだやり残した事がございます、命、命だけはご容赦を!!」」
「・・・・・・下がっていいわよ」
足を縺れさせながら、競うように謁見場を出ていく2人。
玉座でそれを見つめる魔王の顔は赤くプルプルと震えていた。
「ブハッ・・・・・・恥ずかしい勘ちが・・・・・・・グハッ」
いつものラースが床に這いつくばっていた。
それを見つめるメイド長と執事長の肩は小刻みに震えていた。
そこに訪れた魔王が声を掛けるとピタリとそれまでの会話を止めた。
「何話してたの?」
魔王の質問に3人ともが目を逸らし、「魔王様のお耳にいれる程の事ではございません」と答える。
だが納得のいかない魔王は執拗に質問をするが、用事を思い出したと執事長はそっと部屋を出、メイド長は通常であれば魔王にお茶を淹れるのだが、今は部下のメイドを呼んで指示を出していた。
さすがの魔王も気付いた、自分に聞かれたくない事なのだと。
そうとわかったら、意地でも聞きたいのが人間である。
「ねえラース?何を話してたの?」
「いえ何も」
「命令よ?」
命令されても「仕事の事です」などと誤魔化せばよい、だがラースはラースなのだ。
「メイド長が2人の男性に言い寄られているという話です」
ついに吐き出した言葉に不機嫌な顔で魔王が2人に問いかけた。
「・・・・・・ふーん、なんで私に話さなかったの?」
「えっ、男日照りの魔王様に言え・・・・・・・グハッ」
「私事ですので」
そつなく答えるメイド長と瞬時に振り抜かれた左拳に沈むラースだった。
「で、どんな相手なの?顔は?恰好は?」
ワクワクした顔でメイド長ににじり寄り質問を繰り返す魔王。
悔しさはあるものの、他人の恋愛話も大好きであった。
澄まし顔でお茶を淹れるメイド長。
「2人とも商人で御座いまして、人族で御座いますがタイプでは御座いませんので」
「なんで?顔、顔!」
はしゃぐ姿はまるで子供である。
「では失礼して・・・・・・」
目の前に浮かんだ立体像はなかなかにイケメンな若い男達であった。
「な・・・・・・カッコいいじゃない!モッタイナイ!わた・・・・・・何でもない・・・・・・どこがダメなの?」
「私に頂だい」と言いかけて止めたらしい魔王、さすがにはしたないと気付いたようである。
「そうですね・・・・・・性格がと言いますか。2人とも魔王様に近い私の立場を愛されておりますしね」
「私に近づきたいって事!?」
魔王のいつも傍にいるメイド長、その立場はわかりやすくいうと社長秘書のようなものである。商人がそこに魅力を感じるのは当然の事であった。執事長も同じようによく言い寄られるのだが、この国は一夫一妻制の為に大きく阻まれていた。
ただ、メイド長に近づく理由はそれだけではなく、「あの魔王を手玉に取り抑制できる」という手腕が買われていたりする。
そして魔王に近づきたいのではなく、権力を行使する立場の者に近づきたいのだが魔王が気付けるはずもない。
「そうとも取れますね」
否定はせず、含みを持たせる言い方で答えるメイド長の唇はやはり大きく釣りあがっていた。
「会ってみたいわ」
「会う理由がございませんのでは?」
「メイド長に交際を申し込んだ男を上司である私が見定めるっていうのでいいじゃない」
必死な魔王にのらりくらりと躱していたメイド長だったが、最終的に後日呼ぶ事となった。メイド長は躱していたのではなく、案の定魔王の必死さを楽しんでいただけだった。
その日、商人2人が謁見場へと来ていた。諸々の挨拶を済ませ恭しく顔をあげたのだが、その身体は小刻みに震えていた。
「よく来てくれたわね2人とも」
「「ハッ、魔王様におかれましては「そういうのはいいわ」・・・・・・」
「で、わた・・・・・・メイド長のどこがいいのかしら?」
賛辞の言葉を途中で止めると、身を乗り出して声をかけた。本当は「私に会いたいのでしょ」と言いたかったのだが、呼び出した目的を思い出したのだ。
「その前に・・・・・・お2人ともお気持ちは大変嬉しく思いますが今回はお断りさせて頂きます」
商人が口を開く前にメイド長が大きな声ではっきりと告げた。
希望を持たせても仕方がないのである。
「この方が早いですわ」
「も~色々聞きたかったのに」
「私などただのカモフラージュでは?」
「フフフ」
魔王とメイド長の小声での会話である。
2人と唇は三日月型になっていた。
「本当の目的はわかっているのよ?」
ガクリと肩を落していた商人達は魔王の言葉に驚いた顔を見せた。
「も、申し訳ございません!け、決して疚しい気持ちなどではなく・・・・・・」
「し、商売を拡げたく思ったのも確かではございますが、それだけなどではなく・・・・・・」
「え?」
「ほ、本当でございます!」
「メイド長様は女性としても職業婦人としても大変魅力的でございます!」
「・・・・・・あれ?」
「「申し訳ございません、な、何卒ご容赦を・・・・・・」
額に汗を浮かべ、真っ青な表情で取り繕う姿に魔王は首を傾げていた。
そして言い方が遠回り過ぎたのかと、真実を告げる事にした。
「私が目的なのでしょ?」
「「ヒィィィィッ・・・・滅相もない!ま、まだやり残した事がございます、命、命だけはご容赦を!!」」
「・・・・・・下がっていいわよ」
足を縺れさせながら、競うように謁見場を出ていく2人。
玉座でそれを見つめる魔王の顔は赤くプルプルと震えていた。
「ブハッ・・・・・・恥ずかしい勘ちが・・・・・・・グハッ」
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