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第15話 練習
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春の定期演奏会は五月の上旬。
ちょうど、ゴールデンウイーク中の祝日が発表の日で、わたしたちの練習期間は三週間と少しという短さだった。
「じゃあ、演奏するのはカノンで決まりってことでいい?」
この場にいるメンバーの多数決で四重奏のリーダーをつとめることになった菜々子が、半円にならべられたイスに座っているわたしたちに声をかける。
わたしと陽はうなずいたけれど、姫香ちゃんはそっぽを向いて、ふてくされたような表情になる。
「ちょっと! なにか文句でもあるの!?」
姫香ちゃんの態度が気にくわなかったのか、菜々子が声を荒らげた。
「さっきも言ったと思うけど、この練習期間の短さで新譜をやるなんて、とてもじゃないけど無理って、もう百回言ったはずだ・け・ど!?」
そう言いながら、菜々子は手に持っているチョークを黒板にガンガンとたたきつけた。いや、百回は言ってないと思うけど……。
演奏する曲の話し合いをしたときに、練習期間が短いから、みんなが知っている曲がいいよねという話になった。
その曲の候補として、カノンが選ばれたのだ。
わたしと姫香ちゃんは、今通っている音楽教室でバイオリンの課題曲として練習していて、陽と菜々子もひいたことのある曲ということで第一候補に挙がっていた。
「カノンですと、わたくしの演奏レベルが高すぎて周りとの差が生じると思いますの。非常にアンバランスに聴こえるかと」
「あんた、さっきから口から出てくるのは文句ばかりでケンカ売ってるわけ!?」
「事実を述べているだけですわ」
わたしは、ちらりと音楽室のかべにかかっている時計に目を向ける。
(話し合いが全然進まなくて一時間が経っちゃった……)
「あら。もう窓から夕日が見えるわね。今日はおそくなっちゃったから、また明日にでも集まりましょうか」
気を利かしてくれた真崎先生がポン、と手をたたいて話し合いはお開きとなった。
「……ふん。失礼しますわ」
姫香ちゃんは帰り支度をすると、勢いよく音楽室をとび出した。
「ごめん、千里。今日は一人で帰る」
つづいて菜々子がものすごい形相でゆらゆらと身体をゆらしながら音楽室から出ていった。菜々子を見届けた陽が、ポツリとつぶやく。
「……なんていうか。空気、悪いよな」
明日からおれ、耳栓持ってこようかな、とつけ加えて陽はイスから立ち上がった。
セカンドバイオリンの姫香ちゃんとチェロの菜々子の板ばさみとなる席に座れば、それはもう大変なことだ。(うるさいという意味で)
陽もだいぶ、つかれているみたい。
四重奏はチームだ。四人が団結しないと、いい演奏はきっとできない。
――なにか、わたしにできることはないかな……。
*
「は? 親睦会をする?」
帰り道、わたしが思いついた提案に陽は反応した。
「親睦会って、なにするんだよ」
「うーん、そうだなぁ……。みんなでおかしを食べたり、遊んだりして仲を深められればいいなって思ったんだけど。その流れで練習したり……」
中身までは考えていなかったわたしは、とりあえず思いついたことを口に出す。
「そんなので仲良くなってたら、今ごろ苦労してないだろ」
「……そうだよね」
陽がため息をついた後に、つづいてわたしもため息をつく。
まずは、あの二人を仲直りさせないことには始まらない。
「でも、場所を変えて練習ってのはいいかもな。音楽室とホールでひくのとじゃ、きんちょう感も全然ちがうだろうし」
そうだ、わたしたちには時間がない。すぐにでも練習を始めないと、このままでは大勢のお客さんの前で演奏するレベルには達しない。
陽の考えには大賛成だった。
「えっと、じゃあ……こんな考えはどうかな?」
四重奏メンバーの親睦が深められそうで、練習ができそうな場所といえば――。
ちょうど、ゴールデンウイーク中の祝日が発表の日で、わたしたちの練習期間は三週間と少しという短さだった。
「じゃあ、演奏するのはカノンで決まりってことでいい?」
この場にいるメンバーの多数決で四重奏のリーダーをつとめることになった菜々子が、半円にならべられたイスに座っているわたしたちに声をかける。
わたしと陽はうなずいたけれど、姫香ちゃんはそっぽを向いて、ふてくされたような表情になる。
「ちょっと! なにか文句でもあるの!?」
姫香ちゃんの態度が気にくわなかったのか、菜々子が声を荒らげた。
「さっきも言ったと思うけど、この練習期間の短さで新譜をやるなんて、とてもじゃないけど無理って、もう百回言ったはずだ・け・ど!?」
そう言いながら、菜々子は手に持っているチョークを黒板にガンガンとたたきつけた。いや、百回は言ってないと思うけど……。
演奏する曲の話し合いをしたときに、練習期間が短いから、みんなが知っている曲がいいよねという話になった。
その曲の候補として、カノンが選ばれたのだ。
わたしと姫香ちゃんは、今通っている音楽教室でバイオリンの課題曲として練習していて、陽と菜々子もひいたことのある曲ということで第一候補に挙がっていた。
「カノンですと、わたくしの演奏レベルが高すぎて周りとの差が生じると思いますの。非常にアンバランスに聴こえるかと」
「あんた、さっきから口から出てくるのは文句ばかりでケンカ売ってるわけ!?」
「事実を述べているだけですわ」
わたしは、ちらりと音楽室のかべにかかっている時計に目を向ける。
(話し合いが全然進まなくて一時間が経っちゃった……)
「あら。もう窓から夕日が見えるわね。今日はおそくなっちゃったから、また明日にでも集まりましょうか」
気を利かしてくれた真崎先生がポン、と手をたたいて話し合いはお開きとなった。
「……ふん。失礼しますわ」
姫香ちゃんは帰り支度をすると、勢いよく音楽室をとび出した。
「ごめん、千里。今日は一人で帰る」
つづいて菜々子がものすごい形相でゆらゆらと身体をゆらしながら音楽室から出ていった。菜々子を見届けた陽が、ポツリとつぶやく。
「……なんていうか。空気、悪いよな」
明日からおれ、耳栓持ってこようかな、とつけ加えて陽はイスから立ち上がった。
セカンドバイオリンの姫香ちゃんとチェロの菜々子の板ばさみとなる席に座れば、それはもう大変なことだ。(うるさいという意味で)
陽もだいぶ、つかれているみたい。
四重奏はチームだ。四人が団結しないと、いい演奏はきっとできない。
――なにか、わたしにできることはないかな……。
*
「は? 親睦会をする?」
帰り道、わたしが思いついた提案に陽は反応した。
「親睦会って、なにするんだよ」
「うーん、そうだなぁ……。みんなでおかしを食べたり、遊んだりして仲を深められればいいなって思ったんだけど。その流れで練習したり……」
中身までは考えていなかったわたしは、とりあえず思いついたことを口に出す。
「そんなので仲良くなってたら、今ごろ苦労してないだろ」
「……そうだよね」
陽がため息をついた後に、つづいてわたしもため息をつく。
まずは、あの二人を仲直りさせないことには始まらない。
「でも、場所を変えて練習ってのはいいかもな。音楽室とホールでひくのとじゃ、きんちょう感も全然ちがうだろうし」
そうだ、わたしたちには時間がない。すぐにでも練習を始めないと、このままでは大勢のお客さんの前で演奏するレベルには達しない。
陽の考えには大賛成だった。
「えっと、じゃあ……こんな考えはどうかな?」
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