佐藤さんの四重奏

makoto(木城まこと)

文字の大きさ
上 下
15 / 19

第15話 練習

しおりを挟む
 春の定期演奏会は五月の上旬。
 ちょうど、ゴールデンウイーク中の祝日が発表の日で、わたしたちの練習期間は三週間と少しという短さだった。
「じゃあ、演奏するのはカノンで決まりってことでいい?」
 この場にいるメンバーの多数決で四重奏のリーダーをつとめることになった菜々子が、半円にならべられたイスに座っているわたしたちに声をかける。
 わたしと陽はうなずいたけれど、姫香ちゃんはそっぽを向いて、ふてくされたような表情になる。
「ちょっと! なにか文句でもあるの!?」
 姫香ちゃんの態度が気にくわなかったのか、菜々子が声を荒らげた。
「さっきも言ったと思うけど、この練習期間の短さで新譜をやるなんて、とてもじゃないけど無理って、もう百回言ったはずだ・け・ど!?」
 そう言いながら、菜々子は手に持っているチョークを黒板にガンガンとたたきつけた。いや、百回は言ってないと思うけど……。
 演奏する曲の話し合いをしたときに、練習期間が短いから、みんなが知っている曲がいいよねという話になった。
 その曲の候補として、カノンが選ばれたのだ。
 わたしと姫香ちゃんは、今通っている音楽教室でバイオリンの課題曲として練習していて、陽と菜々子もひいたことのある曲ということで第一候補に挙がっていた。
「カノンですと、わたくしの演奏レベルが高すぎて周りとの差が生じると思いますの。非常にアンバランスに聴こえるかと」
「あんた、さっきから口から出てくるのは文句ばかりでケンカ売ってるわけ!?」
「事実を述べているだけですわ」
 わたしは、ちらりと音楽室のかべにかかっている時計に目を向ける。
(話し合いが全然進まなくて一時間が経っちゃった……)
「あら。もう窓から夕日が見えるわね。今日はおそくなっちゃったから、また明日にでも集まりましょうか」
 気を利かしてくれた真崎先生がポン、と手をたたいて話し合いはお開きとなった。
「……ふん。失礼しますわ」
 姫香ちゃんは帰り支度をすると、勢いよく音楽室をとび出した。
「ごめん、千里。今日は一人で帰る」
 つづいて菜々子がものすごい形相でゆらゆらと身体をゆらしながら音楽室から出ていった。菜々子を見届けた陽が、ポツリとつぶやく。
「……なんていうか。空気、悪いよな」
 明日からおれ、耳栓持ってこようかな、とつけ加えて陽はイスから立ち上がった。
 セカンドバイオリンの姫香ちゃんとチェロの菜々子の板ばさみとなる席に座れば、それはもう大変なことだ。(うるさいという意味で)
 陽もだいぶ、つかれているみたい。
 四重奏はチームだ。四人が団結しないと、いい演奏はきっとできない。
 ――なにか、わたしにできることはないかな……。

               *

「は? 親睦会をする?」
 帰り道、わたしが思いついた提案に陽は反応した。
「親睦会って、なにするんだよ」
「うーん、そうだなぁ……。みんなでおかしを食べたり、遊んだりして仲を深められればいいなって思ったんだけど。その流れで練習したり……」
 中身までは考えていなかったわたしは、とりあえず思いついたことを口に出す。
「そんなので仲良くなってたら、今ごろ苦労してないだろ」
「……そうだよね」 
 陽がため息をついた後に、つづいてわたしもため息をつく。
 まずは、あの二人を仲直りさせないことには始まらない。
「でも、場所を変えて練習ってのはいいかもな。音楽室とホールでひくのとじゃ、きんちょう感も全然ちがうだろうし」
 そうだ、わたしたちには時間がない。すぐにでも練習を始めないと、このままでは大勢のお客さんの前で演奏するレベルには達しない。
 陽の考えには大賛成だった。
「えっと、じゃあ……こんな考えはどうかな?」
 四重奏メンバーの親睦が深められそうで、練習ができそうな場所といえば――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】ノラ・ジョイ シリーズ

丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴* ▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー ▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!? ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

夢の中で人狼ゲーム~負けたら存在消滅するし勝ってもなんかヤバそうなんですが~

世津路 章
児童書・童話
《蒲帆フウキ》は通信簿にも“オオカミ少年”と書かれるほどウソつきな小学生男子。 友達の《東間ホマレ》・《印路ミア》と一緒に、時々担任のこわーい本間先生に怒られつつも、おもしろおかしく暮らしていた。 ある日、駅前で配られていた不思議なカードをもらったフウキたち。それは、夢の中で行われる《バグストマック・ゲーム》への招待状だった。ルールは人狼ゲームだが、勝者はなんでも願いが叶うと聞き、フウキ・ホマレ・ミアは他の参加者と対決することに。 だが、彼らはまだ知らなかった。 ゲームの敗者は、現実から存在が跡形もなく消滅すること――そして勝者ですら、ゲームに潜む呪いから逃れられないことを。 敗退し、この世から消滅した友達を取り戻すため、フウキはゲームマスターに立ち向かう。 果たしてウソつきオオカミ少年は、勝っても負けても詰んでいる人狼ゲームに勝利することができるのだろうか? 8月中、ほぼ毎日更新予定です。 (※他小説サイトに別タイトルで投稿してます)

おなら、おもっきり出したいよね

魚口ホワホワ
児童書・童話
 ぼくの名前は、出男(でるお)、おじいちゃんが、世界に出て行く男になるようにと、つけられたみたい。  でも、ぼくの場合は、違うもの出ちゃうのさ、それは『おなら』すぐしたくなっちゃんだ。  そんなある日、『おならの妖精ププ』に出会い、おならの意味や大切さを教えてもらったのさ。  やっぱり、おならは、おもっきり出したいよね。

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

友梨奈さまの言う通り

西羽咲 花月
児童書・童話
「友梨奈さまの言う通り」 この学校にはどんな病でも治してしまう神様のような生徒がいるらしい だけど力はそれだけじゃなかった その生徒は治した病気を再び本人に戻す力も持っていた……

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

処理中です...