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#3 依頼
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車の助手席に乗り、ちらりとバックミラーを確認すると、確かに銀狼組のものと思われる黒い車がスタンバッているのが確認できた。
ウルフレディが運転席に乗り込み、髪をかきあげる。いつもならコスチュームを着てマスクをしているものだからわからないが、やはり立ち振る舞いも含めていっぱしの貴婦人だ。普段はぴっちりしたレザースーツを着て別の意味で男どもを悩殺しているウルフレディだが、こうして見るとかなり綺麗な顔立ちをしているな、などと思う。
「普段の衣装はどうしたんだ?」
なんて冗談めかして訊くと、心底面倒くさそうにウルフレディは答えた。
「あの格好で葬式ができるか。お前だって、いつも被っているシルクハットはどこだ。あれを被って会場に来れば、ウチの若い連中に袋叩きにあるお前が見られたかもしれんのに」
「わかったわかった。俺が悪かったよ」
俺は両手を挙げて降参のポーズを取った。
ウルフレディはそんな俺を鼻で笑うと、エンジンをかけ車を走らせた。
「テキーラ・ウルフの死因は聞いたか?」
「自然死だと?」
「本気で言ってるのか」
「正直それを聞いた時は、嘘だろ? と思ったね」
「他殺だ」
ウルフレディはハッキリと言い放った。
「毒物か何かを流し込まれたんだ。そんなものは死体からは当然検出されなかったし、極めて自然死に見えるように細工をしていたが、私の目は誤魔化せん。普段から薬を打つお祖父様だから気付かないとでも思ったんだろうな。いつも打つ場所とはわずかに違うところに注射痕があった」
「それだけ? 医者か本人の手が滑っただけかもわからんぞ」
「違う。あれは他人から打たれなければ、つかないような角度の痕だ。当然、ウルフは他人を信用しない。医者も私の知る限り、もうしばらく奴の診察の時に注射を用いていない。私が知らないと言うことは当然、そんな事実はない、ということだ」
「目ざといこって」
茶々は入れたが、俺もウルフレディの見立てを疑っているわけではない。誰にも負けない繊細な目とそこから繰り出す大胆な手を武器にウルフレディは、孫娘とは言えども女だてら、銀狼会の地位を登り詰めたのだ。
「つまり今回俺に依頼したいのは」
「当然、ウルフを殺した者の特定、そして暗殺だ」
ですよねえ。
俺は肩を落とした。いつも被っているシルクハットがあれば顔を隠したい。
「どっちにしても危険には違いない。そうだな、1億ってことか」
「払おう」
「即決だな」
正直、だいぶ吹っかけたつもりだったが、問題ではないらしい。
「親族の殺し、更にはメンツの問題だ。自然死だということにはしているが、当然それを信じている人間は今のところ少ない。あのウルフが寿命で死ぬはずがない、とな。百パーセントないとは言えないが、やはりきな臭さを感じている人間が大多数、と言うのが現状だ」
「時間が経てば変わるさ。人の噂も七十五日だろ。今は誰もが疑惑を投げかけちゃいるが、時間が経てば『信じられなかったが、彼も人の子か』と納得してくる」
「それが犯人の狙いだろう。お前の言う通り、ウルフとて人の子、死ぬときは死ぬ。だが、己の死期も悟らず、跡目のことも考えずに死ぬような男ではなかった。それに私の目が『殺し』だと直感した以上は真相は必ず解明してもらうぞ、マナヒコ。とりあえず今日は葬儀だ。今日のところはしっかりと喪にふくせ。明日から調査を開始しろ。調査結果は逐一、私に知らせるんだ」
「明日から? また随分急だな」
「既にウルフの死から数日経っている。ターゲットを見つけるには早い方がお前は都合がいいんだろう。できれば死んだ当日にでも依頼したかったくらいだが、それはそれでウルフの死が他殺であると周りに知らせる危険性がぐんと増す。だからこのタイミングでいいんだ。一応、他殺の線も考えてウルフレディが動いている、とした方が通りがいい」
「なるほど、さすがの采配だな」
「着いたぞ」
ウルフレディとの仕事の話に夢中になっているうちに、気づけば葬儀場近くの駐車場に車は着いていた。
ウルフレディが運転席に乗り込み、髪をかきあげる。いつもならコスチュームを着てマスクをしているものだからわからないが、やはり立ち振る舞いも含めていっぱしの貴婦人だ。普段はぴっちりしたレザースーツを着て別の意味で男どもを悩殺しているウルフレディだが、こうして見るとかなり綺麗な顔立ちをしているな、などと思う。
「普段の衣装はどうしたんだ?」
なんて冗談めかして訊くと、心底面倒くさそうにウルフレディは答えた。
「あの格好で葬式ができるか。お前だって、いつも被っているシルクハットはどこだ。あれを被って会場に来れば、ウチの若い連中に袋叩きにあるお前が見られたかもしれんのに」
「わかったわかった。俺が悪かったよ」
俺は両手を挙げて降参のポーズを取った。
ウルフレディはそんな俺を鼻で笑うと、エンジンをかけ車を走らせた。
「テキーラ・ウルフの死因は聞いたか?」
「自然死だと?」
「本気で言ってるのか」
「正直それを聞いた時は、嘘だろ? と思ったね」
「他殺だ」
ウルフレディはハッキリと言い放った。
「毒物か何かを流し込まれたんだ。そんなものは死体からは当然検出されなかったし、極めて自然死に見えるように細工をしていたが、私の目は誤魔化せん。普段から薬を打つお祖父様だから気付かないとでも思ったんだろうな。いつも打つ場所とはわずかに違うところに注射痕があった」
「それだけ? 医者か本人の手が滑っただけかもわからんぞ」
「違う。あれは他人から打たれなければ、つかないような角度の痕だ。当然、ウルフは他人を信用しない。医者も私の知る限り、もうしばらく奴の診察の時に注射を用いていない。私が知らないと言うことは当然、そんな事実はない、ということだ」
「目ざといこって」
茶々は入れたが、俺もウルフレディの見立てを疑っているわけではない。誰にも負けない繊細な目とそこから繰り出す大胆な手を武器にウルフレディは、孫娘とは言えども女だてら、銀狼会の地位を登り詰めたのだ。
「つまり今回俺に依頼したいのは」
「当然、ウルフを殺した者の特定、そして暗殺だ」
ですよねえ。
俺は肩を落とした。いつも被っているシルクハットがあれば顔を隠したい。
「どっちにしても危険には違いない。そうだな、1億ってことか」
「払おう」
「即決だな」
正直、だいぶ吹っかけたつもりだったが、問題ではないらしい。
「親族の殺し、更にはメンツの問題だ。自然死だということにはしているが、当然それを信じている人間は今のところ少ない。あのウルフが寿命で死ぬはずがない、とな。百パーセントないとは言えないが、やはりきな臭さを感じている人間が大多数、と言うのが現状だ」
「時間が経てば変わるさ。人の噂も七十五日だろ。今は誰もが疑惑を投げかけちゃいるが、時間が経てば『信じられなかったが、彼も人の子か』と納得してくる」
「それが犯人の狙いだろう。お前の言う通り、ウルフとて人の子、死ぬときは死ぬ。だが、己の死期も悟らず、跡目のことも考えずに死ぬような男ではなかった。それに私の目が『殺し』だと直感した以上は真相は必ず解明してもらうぞ、マナヒコ。とりあえず今日は葬儀だ。今日のところはしっかりと喪にふくせ。明日から調査を開始しろ。調査結果は逐一、私に知らせるんだ」
「明日から? また随分急だな」
「既にウルフの死から数日経っている。ターゲットを見つけるには早い方がお前は都合がいいんだろう。できれば死んだ当日にでも依頼したかったくらいだが、それはそれでウルフの死が他殺であると周りに知らせる危険性がぐんと増す。だからこのタイミングでいいんだ。一応、他殺の線も考えてウルフレディが動いている、とした方が通りがいい」
「なるほど、さすがの采配だな」
「着いたぞ」
ウルフレディとの仕事の話に夢中になっているうちに、気づけば葬儀場近くの駐車場に車は着いていた。
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