1 / 12
#1 テキーラ・ウルフが死んだ。
しおりを挟む
テキーラ・ウルフが死んだ。
東京郊外にある地下室のアジトの椅子で、俺がその報せを聞いて思ったことは、驚嘆でも悔恨でもなく「誰に殺られた?」という疑問符だった。
「それが、誰が殺ったわけでもねえらしいんですよ。自然死だそうで」
「あの物ノ怪みたいな爺さんが自然死? 冗談だろ」
俺はテレビを付けた。
テレビのニュースに映るのは相変わらずヒーロー達の活躍だった。
バスの転落事故を防いだオーネットマン、子供が溺れそうなのを颯爽と救ったトードガール、地下鉄を襲った大型ヴィランを倒したレッドキャップ……。
「旦那、流石に奴の死はニュースにゃ流れませんて」
「いや、わかってる。わかってるんだけどな」
ふ、と俺は笑みを零した。
「どうかしましたか、旦那?」
俺にウルフの死を報せに来た禿げ頭の情報屋がそう聞いた。
「いや何。あんな奴でも本当に死ぬときは死ぬのだな、とそう思っただけだ。ところでイトナミ」
俺は情報屋の名を呼ぶ。ん、と片方の眉を禿げ頭は吊り上げた。
「ヒーロー達はどれだけこのことを知っているんだ? お前にも伝わっているくらいだ。ヒーローコミュニティにもそろそろ訃報が流れてもおかしくはないだろう。だが、俺はそれをまだ聞いてないんでね」
「ははあ。それは流石に私どもにもわかりかねますや。旦那自身はまだ一応コミュニティに籍はあるんでしょう?」
情報屋はにやりと笑った。
「俺自身はヒーローではない、と散々っぱら言っているんだが、一応な。紅ヤマトのたっての希望だと言うし、抜け切れんでいる」
「ならもう少し待ったほうが……」
そんなことを言っているうちに、外套のポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話が鳴るのが聞こえた。俺は携帯電話を取り出して、通知を見る。
「……噂をすれば、か。これでヒーロー達にも情報が行き渡ったな」
テキーラ・ウルフが死んだ。
「新参者にゃあその意味もよくわかるまいが、これは大ニュースだぞ」
「ようござんした。それじゃあ私はこれで」
「わかった、よく報せてくれたイトナミ」
情報屋は深々と頭を下げてアジトを出ていった。
まあ、もしもウルフが死ぬようなことがあれば、そのことをいの一番に報せてくれ、なんて昔イトナミに依頼したのは俺だし、それ以上のことを奴がする必要もない。
今度は俺はアジトの電話機が鳴った。今時古臭い黒電話だ。戦後から受け継がれているという代わり映えのしない部屋だからこんな時代遅れの代物がこのアジトにはゴロゴロと転がっている。
「はいはい、どちらさん?」
「テキーラ・ウルフが死んだ」
電話口の声がそう言う。俺は苦笑した。
「知っている。今しがたイトナミに聞いたとこだよ。ヒーローコミュニティにも訃報が流れた。あんたが一番最後だぞ、ウルフガール」
そう、テキーラ・ウルフの孫娘に少しだけ嫌味を投げかける。組織に関係のある人間に訃報を伝えているところ、ようやく俺の順番が回ったってところか。
「そうか。お前への連絡順位は本来高くなくてな」
「そりゃそうだろうよ。……待て。本来ってのはなんだ」
「今度、ウルフの葬式をやる。参列するだろ」
「呼ばれりゃそりゃ行くさ。ウルフの爺さんは太客だったし、俺も個人としては弔いを上げたい」
「その時に時間があるだろう。また日取りが決まったら連絡する。じゃあな」
それだけ言うと、ウルフレディはすぐに電話を切ってしまった。
東京郊外にある地下室のアジトの椅子で、俺がその報せを聞いて思ったことは、驚嘆でも悔恨でもなく「誰に殺られた?」という疑問符だった。
「それが、誰が殺ったわけでもねえらしいんですよ。自然死だそうで」
「あの物ノ怪みたいな爺さんが自然死? 冗談だろ」
俺はテレビを付けた。
テレビのニュースに映るのは相変わらずヒーロー達の活躍だった。
バスの転落事故を防いだオーネットマン、子供が溺れそうなのを颯爽と救ったトードガール、地下鉄を襲った大型ヴィランを倒したレッドキャップ……。
「旦那、流石に奴の死はニュースにゃ流れませんて」
「いや、わかってる。わかってるんだけどな」
ふ、と俺は笑みを零した。
「どうかしましたか、旦那?」
俺にウルフの死を報せに来た禿げ頭の情報屋がそう聞いた。
「いや何。あんな奴でも本当に死ぬときは死ぬのだな、とそう思っただけだ。ところでイトナミ」
俺は情報屋の名を呼ぶ。ん、と片方の眉を禿げ頭は吊り上げた。
「ヒーロー達はどれだけこのことを知っているんだ? お前にも伝わっているくらいだ。ヒーローコミュニティにもそろそろ訃報が流れてもおかしくはないだろう。だが、俺はそれをまだ聞いてないんでね」
「ははあ。それは流石に私どもにもわかりかねますや。旦那自身はまだ一応コミュニティに籍はあるんでしょう?」
情報屋はにやりと笑った。
「俺自身はヒーローではない、と散々っぱら言っているんだが、一応な。紅ヤマトのたっての希望だと言うし、抜け切れんでいる」
「ならもう少し待ったほうが……」
そんなことを言っているうちに、外套のポケットに入れっぱなしになっていた携帯電話が鳴るのが聞こえた。俺は携帯電話を取り出して、通知を見る。
「……噂をすれば、か。これでヒーロー達にも情報が行き渡ったな」
テキーラ・ウルフが死んだ。
「新参者にゃあその意味もよくわかるまいが、これは大ニュースだぞ」
「ようござんした。それじゃあ私はこれで」
「わかった、よく報せてくれたイトナミ」
情報屋は深々と頭を下げてアジトを出ていった。
まあ、もしもウルフが死ぬようなことがあれば、そのことをいの一番に報せてくれ、なんて昔イトナミに依頼したのは俺だし、それ以上のことを奴がする必要もない。
今度は俺はアジトの電話機が鳴った。今時古臭い黒電話だ。戦後から受け継がれているという代わり映えのしない部屋だからこんな時代遅れの代物がこのアジトにはゴロゴロと転がっている。
「はいはい、どちらさん?」
「テキーラ・ウルフが死んだ」
電話口の声がそう言う。俺は苦笑した。
「知っている。今しがたイトナミに聞いたとこだよ。ヒーローコミュニティにも訃報が流れた。あんたが一番最後だぞ、ウルフガール」
そう、テキーラ・ウルフの孫娘に少しだけ嫌味を投げかける。組織に関係のある人間に訃報を伝えているところ、ようやく俺の順番が回ったってところか。
「そうか。お前への連絡順位は本来高くなくてな」
「そりゃそうだろうよ。……待て。本来ってのはなんだ」
「今度、ウルフの葬式をやる。参列するだろ」
「呼ばれりゃそりゃ行くさ。ウルフの爺さんは太客だったし、俺も個人としては弔いを上げたい」
「その時に時間があるだろう。また日取りが決まったら連絡する。じゃあな」
それだけ言うと、ウルフレディはすぐに電話を切ってしまった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる