イモータル・エンパイア

宮塚恵一

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Chapter4:The Immortal Slayer

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 ガードナー暗殺の為、グラットーの用意したルートを進みながら、ジャックは静かに、歴史の授業で学んだロード・ルスヴンの偉業を思い返していた。

 ロード・ルスヴンは世界統一を果たした唯一の存在として、崇拝され続けてきた。

 それは西暦3804年の現在も変わらない。
 以前は世界に何人も居たという王という存在は最早、御伽噺の世界にしか存在せず、ルスヴンこそが唯一の王。

 だが、ルスヴンは自分を過信しなかった。
 王として独裁を敷くことは決してなく、議会や大学を用意し、地域の統治と発展は人々に任せた。しかし、王に隠れて圧政を行うような者が居れば、即座に王自ら不死の軍隊を率い、その一族を根絶やしにした。
 人々を苦しめるような者があれば一人として残すことは許さず滅する統治を続け、世界は発展した。

 しかし、それでも綻びというのはあるものだ。

 巡礼者ピルグリムを名乗る一団もその一つだ。ロード・ルスヴンは、その為政が始まって最初の千年程は、己が認めた者を自身と同じ不死者へと変えていた。
 不死者と言えどルスヴンの眷属には違いなく、ルスヴンに逆らうことは出来ない筈であった。

 だが、ルスヴンの隙を見て眷属の縛りを外した者が居た。
 チャールズ・ディケンソンを名乗るその男は、ロード・ルスヴンに対抗する不死者だ。
 彼は自身の賛同者を巡礼者ピルグリムと名付け、ルスヴンから離れたところで不死を欲する者や彼の支配から一瞬でも外れた逸れ者達を取り込み、地下に潜りながらルスヴンに対抗している。

 そんな彼等に対して、ロード・ルスヴンに永遠の忠誠を誓うのがグラットー達王党派だった。

 かつてチャールズのようの存在を許してしまったことを悔い、その後ルスヴンは不死者の軍隊以外に、不死を授けてはいない。
 不死者の軍隊は、意志だけが統率された自我なき軍隊であり、ルスヴンの言葉だけに従うが、王党派のメンバーは歴とした人間である。

『ガードナーは王党派会館、その奥に居る。奴は直ぐにでも不死者の軍隊との戦争をおっ始める気だ』

 王党派会館の裏口から侵入したジャックに、グラットーからの通信が入った。

『こっちは会館の目前に、電磁砲をブッ放したとこだ。この程度じゃビクともしなかったがな』
「ガードナーは、俺の存在に気付いていると思うか?」
『お前は死んだことになってるんだ。バレてないことを祈るさ』
「そうだな」

 ジャックは王党派会館の中を進んだ。外から、グラットー達の戦う銃声が聞こえる。
 
 ジュリアン・ガードナーが王党派党首となった今、グラットー達も苦戦を強いられている。

『いいか。落ちぶれたとは言えジャック、お前も陛下の後継者候補だ』
「今更そんな話か?」

 思わず大声をあげて笑いたくなる。二千年もの間続いたルスヴンの世界統治。それがこんな事態になってしまったのは、全て俺達を後継者候補にしてしまったが為だ。

 ロード・ルスヴンは、日に日に弱っていた。決して死ぬことはない。どんな負傷であろうと、病魔に侵されようと、月光を浴びれば回復する不死者だ。

 だが、ルスヴンの人間としての老いは、その身体に間違いなく蓄積していた。
 死ぬことはない。だが、今やルスヴンは一度眠ればその後百年は目を覚ますことがない。

 ルスヴンが眠りにつき、起きたのが三百年前。その後再び眠りにつく前にと、ルスヴンは自身の後継者候補を定めた。

 それがジュリアン・ガードナーとジャック・ガードナーの二人だ。

 ルスヴンの血から複製された二人は、いずれルスヴンの記憶と人格の全てを移植される器として育てられた。

 だが、巡礼者ピルグリムもまたルスヴンの眠りの間に、その叛逆の手を打ち続けていた。

 怪物が世を総べてはならない。

 巡礼者ピルグリムの長、チャールズの思惑もあり、その巡礼者ピルグリムの表向きの教義に賛同したジュリアンとジャックは、後継者候補でありながら、ルスヴンの下を離れ、チャールズと共に戦うことを決めた。

 ルスヴンもそんな巡礼者ピルグリムに対抗する最中、二十年前に最後の眠りにつき、未だ目を覚ましていない。

『たとえ複製まがいものであろうと、お前には陛下の血が流れている。俺はお前のその高貴なる血を信じるぞ』
「それを言うなら、ガードナーにも同じ血が流れている」
『不死者となった奴は今や、陛下とは別の怪物だ』

 勝手な理屈を言う。だが、グラットーなりにジャックを鼓舞しているつもりなのだろう。

「こうなれば俺はもう、誰の命令にも従わんよ。俺は俺の判断で、ジュリアン・ガードナーを殺す」

 不死者殺しのジャック。彼がそう呼ばれるようになったのは、王の血を継いだジャックとジュリアンにだけ、不死者を殺す力があるからだ。

「チャールズもルスヴンも、王党派も関係がない。これは奴を止められなかった俺の責務だ」
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