アンビバレンツ坩堝

宮塚恵一

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第1話 袋小路

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 夢現の如く也。


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 駅から暫く歩いたところに、袋小路がある。
 誰からも忘れられた場所。雑草が生い茂り、苔むしたコンクリートも手入れされていない。
 何故だが雄也は、偶に此処に来たくなる。
 昔、此処に大切な物があったように思うのは、あの〈特會点とっかいてん〉によって流れ込んだ記憶のせいなのかもしれないが、判らない。

 いつも鞄に入れている大きめの手拭いを地面に敷いて座ると、駅前のコンビニで買った缶ビールのプルタブを開けた。

 此処で週一で酒を飲むのが、習慣化してしまった。独りになりたい時、此処が一番落ち着くものだから、仕事もない夜は此処で独り静かに晩酌をする。

 何本か酒を開けて、ふとスマホを見ると、通知が何件も溜まっていた。
 メッセージアプリに「今、会える?」の文字と、不在着信が幾つか。そのどれもにテルヤの名前がある。

「我慢し切れなくなっちゃった?」

 雄也はテルヤの番号に折り返す。ワンコールが終わらないくらいの短さで、相手が出た。

『えと、雄也さん?』
「そうだよー。なあにー? 会うのは明日の約束だったと思うけど?」
『すみません。雄也さん、甘い物って好きですか?』
「好きだよ。それが?」
『仕事で東京に行ったんですが、前にテレビで特集やってたパンケーキが売っていたもので、買ったんですが、もし良ろしかったらと……』

 雄也は思わず噴き出しそうになるのを抑えようとしたが、我慢し切れず、大声で笑った。

「あはは! パンケーキって、君。女の子とデートのつもりかい? 良いけどね。じゃあ、明日はテルくんと一緒に甘ーいパンケーキを食べて、それからたっぷり、甘い夜を過ごそうか」
『は、はい。お願いします』
「うん、よろしくー」

 雄也はテルヤとの通話を終え、スマホをポケットにしまう。それから飲んだ酒の缶をビニール袋で一纏めにして、立ち上がった。

「おっとと」

 そこまで飲んだつもりではなかったが、少しよろける程度には酒が回っていた。テルヤが笑わせるからだ、と再び笑いが込み上げて来た。
 テルヤは三ヶ月くらい週末デートを繰り返している遊び相手だが、毎度毎度会う時に用意するプレゼントのチョイスが面白い。この間は大きなぬいぐるみだったのだが、どうもゲームセンターで何度も挑戦して手に入れた物のようだ。

 多分、デートの相手に何をプレゼントしたら良いか、みたいなサイトを参考にしているものと見た。
 でも多分、キャバ嬢を落とすには、とかそういうタイプのサイトだ。それもあまり信憑性のないやつ。

「殊勝なところは、買うけどねえ」

 とは言え悪い気はしないので、テルヤ相手には他の人よりも意識してサービスするようにしている。このまま帰る予定だったけど、近所の薬局でコンドームとローションを買って帰るか。ちょっとお高めな奴。代金は、レシート持ってけばテルヤが払ってくれるだろう。
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