多分もう無理。

宮塚恵一

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1.セフレ解消

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 好きな人ができたんだよ。

 ロメロにそう言われ、最初に頭に浮かんだのが「面白い冗談」という感情で、その次に来たのが、「ほんと? 良かったけど残念」というものだった。

 全体的には、普通に祝福の念と、お気に入りの中華そば屋が潰れたみたいな気持ちが綯い交ぜになった、そんな気持ちだった。

「マジで。びっくりじゃん」

 普段から、人を好きになるってのがよくわからない、と言っていたロメロが真剣にそんなことを言うものだから、少し笑えてきた。笑いを堪える私を見て、何笑ってんだよ、と頭を掻いて苦笑するロメロの言葉には、ついに吹き出した。

「ごめんて。へえ、でもどうすんの。私はまあいいとしてさ」

「一人一人に、もうやめようって、連絡入れてるとこ。最初から、恋人とかそういうんじゃないって言ってるのばかりだけど、一人しつこい子がいる」

「あー、なんだっけ。あれじゃないの。ユキコちゃんだっけ? バレンタインにロメロに手作りチョコくれたって子」

「そう。俺も、こんな気持ち初めてだから、ちゃんとしたいんだけど」

「ちゃんとしたいって。そんな言葉がロメロから出んの、ウケるね」

「だから、もう今後は会わないことにしたいんだ」

「普通の女友達ってのは?」

「それ、やりたいか?」

 ちょっと言ってみただけだが、少し考えて、ロメロの目を真っ直ぐに見る。

「やばい。全然だわ」

「だろ」

「寂しくは思うよ。でもつまり、ロメロがケジメつけたいってことでしょ」

「そうだよ」

「じゃあ好きにしたらいいんじゃない」

 しっしっ、とふざけて、私はロメロを追い払う仕草をする。

「なんか、ごめんな」

 ロメロはソファに浅めに座り直す。そして隣に置いた自身のナップザックを漁った。中から小さな箱を取り出される。箱はラッピングはされておらず、それだけ見てピンと来る。

「仮面ライダーのコラボ腕時計じゃん」

「そう。晶子が欲しがってたやつ」

 はい、とロメロは朝煎れたコーヒーを渡すくらいの手軽さで、私に箱を渡す。

「え、いいの」

「うん、せめてもの気持ち」

「ラッキー。ありがとー」

 ロメロに渡された小箱を早速開け、腕時計を取り出し、腕に装着した。

「これ、全員にやってんの? いいなー、お金あんの羨ましい」

「別に。今まで趣味らしい趣味もなかったから。貯金がちょいちょいあんの」

「それが羨ましいって」

「じゃあ、俺はこれで」

 ロメロは立ち上がると、私に向かって、ひらひらと手を振った。

「じゃあ、さよなら」

「あっさりしてんね」

「どうすんのが正解なのよ」

「それがわからんから、プレゼント買ったんでしょ」

「分かってんならつつかんといて」

 溜息をついたロメロの背中を押し、玄関まで見送る。

「それじゃ」

「じゃ。ロメロのゾンビみたいな呻き声、聞けなくなるのは残念だけど」

 ロメロと言うのは、ベッドの中でのうめき声がゾンビみたいで面白くて、私が適当にノリでつけたあだ名だ。なんだかんだと、最後までその呼び方で終わってしまった。

「それ残念か」

「いや別に」

 私だって人との別れ際の正解とか、よくわかんない。とりあえず、お互いが不快にならなければそれでいいんじゃないの。

 ロメロが外に出て玄関の扉が閉まり、私はソファまで戻ると、テレビをつけた。アマゾンファイヤースティックの繋がった入力に切り替えて、適当におすすめからユーチューブ動画を再生する。

 ロメロがね。わからんもんだわ。

 祝福するべきことなんだろうな、と思う。人を好きになれないと数年来言っていた、そんなちゃらんぽらんな男が、真剣な目で言うのだ。ロメロが好きになった子は幸せだ、とまでは思わないけれど、人を好きになれたロメロは少なくとも今、幸せだろう。

「あ。どんな子なのか聞きそびれたな」

 あまり興味はないけれど、最後に少し虐め倒す機会を逃したな、などと少々後悔した。

 私はうーんと、腕をピンと伸ばした。ちらりと、腕に巻き付く、ロメロにもらった仮面ライダーの腕時計を見る。

 テレビの音量は小さめにしているとは言え、腕時計の稼働するか細い音が聞こえるくらいには、部屋の中は静かだった。
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