僕の仕事は『MITTY』さ

北夏・蒼己

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名刺と記憶

僕の仕事は『MITTY』さ

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 翌朝、セットしたアラームの音と共に目が覚めた真一は、どうか昨日のあれが全て夢でありますように、と、心の中で仏やキリスト、その他もろもろに祈っていた。
 が、結果はうすうす真一も分かっていた。
 
 下に降りると、ちょうど朝食をとっていた父、洋介が
 
 「おっはー☆昨日はよく眠れたかい?」
 
 「・・・・・おかげさまで」
 
 そして
 
 「引っ越すのは来月といっても、今から荷物整理しとけよ。じゃないとギリギリでやったら間に合わないぞ」
 
 ああ、やっぱり・・・・・
 
 はぁ、という、真一のマリアナ海溝よりも深い、そして、そこらのドライアイスよりも冷たいため息が彼の口から漏れる。
 
 ちなみに、今日の洋介の服装は、上はラブカナダ、そして、下はカナダの国旗が刺繍された、誰がどの角度から見てもアイラブカナダな雰囲気を醸し出している。
 真一は、この服装を見た時から結果は分かっていた。が、やはり父の口から言われると、ついため息をついてしまう。いや、もしかしたら、ただ単に父のファッションがウザいだけかもしれないが・・・
 
 「父さん、どうしても僕も行かなくちゃだめ?」
 
 真一は、今世紀最大のお・ね・が・い・目線を、父に送る。すると、後ろから
 
 「ちょっと、それに私は含まれているの?」
 
 カレンだ。どうやら、兄の冷た~いため息が、彼女を起こさせたようだ。

 「うん?ってことはカレン、お前も行きたくないのか?」

 真一は、まるで豚が空を飛んだ時のような顔をしてカレンを見た。

 「うーん、旅行ならいいけど・・・住むのはねぇ」

 どうやら、兄妹一致の意見らしい。しかし、洋介は、悪戯っ子のようにニヤッと笑うと、
 
 「だったら二人とも、ラリッサおばさんのところにでも行くか?」

 『いや!!!』
 
 二人の心の底からの拒絶反応が重なる。

 ラリッサおばさんとは、二人の母親、つまり洋子のいとこのお母さんのおばあさんにあたる人物だ。海平家の家系で唯一の外国人だ。ちなみに、歳はもう●●歳を超えているだろう。(今ここに彼女の歳を書くのは簡単だ。しかし、それをすると後でどうなる事やら・・・彼女の口から多数の放送禁止用語、そして、被害者の顔はモザイクオンリーになってしまうだろう。それは流石にマズいので、ここは読者の皆様のご想像にお任せしたい)

 カレンが口を開いた。

 「ラリッサおばさん家はいや!だってあの家は人間が住む場所じゃないわ。匂いはそこらのごみ置き場よりも臭いし、おばさんの手作りケーキは食わされるし(ラリッサおばさんの手作りケーキは豚でも食べない)、足の爪を切らされた挙句、白髪抜きまで!地獄の方がマシよ!」
 
 隣で、真一がうんうんと頷く。
 
 「じゃあカナダに行くか?」

 うっ、と言葉に詰まる二人。
 
 「そ、それは・・・・・」

 それから約十五分、彼らは脳内で引っ越しか、●●ばばあか。壮絶な戦いが繰り広げられていた。

 「・・・分かった。父さんの勝ち、私たち行くわ」

 洋介はそれを聞くなり、この世でこれ以上のドヤ顔があるかというほど、それはそれはウザったらしいドヤ顔をした。

 普段二人は父の事が大好きだ。が、彼のこういう性格のせいで、たまに殺意がどんなものなのか、分かることがある。

 「・・・・・お父さん、コーヒー、いる?」
 「じゃあ僕はフルーツを切るよ。・・・大好きな父さんのためにね」

 今、彼らの言葉は絶対零度並に冷たい。言葉のブリザードといった感じだ。それほどまでに、彼らの言葉は冷たかった。しかも、それが笑顔のままだから余計に恐ろしい・・・

 しかし、洋介はそれに気づくことなく朝食を取っている。二人が渡すと、それを嬉しそうに口に運ぶ洋介。数秒後、洗面所に駆け込んだ彼は、その後三十分は出てこなかった。
 
 二人の手には、タバスコと、そのゆかいな仲間たちが、しっかりと握られていた。
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