僕の仕事は『MITTY』さ

北夏・蒼己

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突然の通知

僕の仕事は『MITTY』さ

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 世の学校が、夏休みに入り、夏だ、海だ、山だー、と叫んでいる若者たちがちらほら出没し始めたころ、それは、海平家にとって突然の通告だった。

 「あっ、二人とも、来月からカナダに引っ越すから」

 父、洋介の突然の通告に、彼の息子である真一は、食べていたケーキを鼻から吹き出し、その妹であるカレンは、ちょうど降りてきた階段から、転げ落ちてしまった。

 グシャッ、そしてゴキュッといういやな音と共に、カレンは床に倒れてしまった。

 「うぅ~」誰もがそう言った。
 
 「おーい、生きてる?」

 恐る恐るという感じで、生きているかを聞いた兄に対し、カレンは、

 「ア、アイルビー・・・バック」

 と、どこかで聞いたことがある名台詞とサムズアップを残し、パタリと倒れてしまった。

 「それ、死ぬときに言うやつな。」

 そう教えると、真一は父の方に向き直り
 
 「それで?」と、聞いた。
 すると洋介は、さきほどのゴキュッ、ならぬ、ウキュッという感じの顔で、首をかしげた。
 
 (こいつ、五秒前のことも忘れとる・・・)
 
 しかし、そんな殺気にいっこうに気づく気配もなく、とうとう真一は
 
 「父さん、さきほどの爆弾発言のせいで、被害者も出ています。説明をしてください」
 
 カレンを方を指さすと、未だに倒れているカレンをみて、やっと思い出したように、手をポンッと打った。

 「ああ、それね。大丈夫、さっきの高さからなら、まあ捻挫レベルだからね」
 
 そして、大丈夫だよ~という風に手を振る父に対し、真一は、殺意というものがいつ、どんな風に芽生えるのか理解した。
 
 「父さん、カレンのことではありません。カナダの転勤について説明してください」
 
 すると、今度こそ思い出したように手をポンッと打った洋介は
 
 「ああ、そっちか。いやね、父さんカナダ支社をまかされちった(笑)」

 ピースサインをアピールする父の隣では、母、洋子がパチパチと嬉しそうに手を叩いていた。

 しかし、真一が聞きたいのはそっちではない。なぜ、自分たちまでカナダに行かなければいかないか、だ。
すると洋介は
 
 「フッ、なにを馬鹿なことを。僕とママは運命共同体。それは生まれる前から決まっていたのさ。僕がママと離れて暮らすなんて考えられない!」
 
 と、普通の人間なら、恥ずかしくて顔がりんごになりそうなセリフを、いとも簡単に言う父。そんな父に対し、真一は、いや、あんたが運命だって決めたのはただ名前が似てるからだろ!そりゃ確かに生まれる前から名前は決められてたらしいけどさ、あと、そういうことを子供の前で言うのはやめてくれ!こっちが恥ずかしくなる、と親子でラブシーンを見るときのような気持ちになった。

 しかし、そんな息子の気持ちをキャッチできていない洋介は

 「あぁ、ママ。どうして君はママなんだい?君はまるで天使のようだ。僕だけの(以下省略)」
 
 はぁ、とため息をつく真一。そんな息子をみた母は

 「大丈夫よ、真ちゃん。そんなに心配することないわ。二人とも英検だって二級まで持ってるじゃない」

 いや、今ため息ついたのはカナダがどうとかじゃなくて、あんたら見ててため息ついたんだよ!
 そんなセリフをグッとこらえる真一であった。
 
 「まっ、そう心配しなさんな。あっちじゃ新学期は九月からだ。時期もちょうどいい。じゃ、父さんたちは今から寝るから」

 そう言って、二人仲良く手をつないで寝室へと向かう夫婦であった。もちろん、その間にも二人の愛のささやきは続いていた。

 「早よ行けーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
 
 息子の魂の叫びに背中を押されつつ、それでも夫婦はゆっくり仲良く寝室へと消えた。
 
 「ふぅ、疲れる」

 その時、後ろでモゾモゾっと音がしたかと思うと、カレンが
 
 「これ、食べていい?」

 と、さきほどまで真一が食べていたケーキに手を伸ばしていた。

 「いいけど・・・・・それさっき俺が鼻から出したやつだぞ」
 「うぅ~」

 急いで手を引っ込めたカレンは、目をこすりながら階段を上がり始めた。
 
 「私も寝るわ、おやすみ~」

 そう言うと、こちらも自室へと消えてしまった。
 一人残された真一は
 
 「俺も寝るか」と、急いでケーキを片付け自室へと戻った。
 
 もしかしたら明日起きたらこれは全て夢でカナダなんてないのかもしれない。
 そうだ、きっとそうだ。
 そんなことを考えつつ、ゆっくりと眠りに落ちる真一であった。
 その淡い期待も、翌日見事に打ち砕かれるのだが・・・
 
 Good Night、真一君♪
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