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それはとても自堕落な

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ああ、疲れた。

俺はベッドに倒れ込んだ。
机では文字が打ち込んであるパソコンが光を放っていた。

今自分が執筆している小説の一章を書き終わったところだ。
自分の趣味では無い出版社側から強制されたその物語を書くのは、疲れるし何より楽しく無い。

趣味で書いていた時は、あんなに楽しかったのに、、、

趣味だった時は小説家を目指すのに、いざなってみればその仕事から解放されたいと思うなんて馬鹿だとは思う。
だが自分が楽しめないことをしてなにになるのか。


まぁ金にはなるが。

ピンポーン

俺がそんなどうでもいい考えに浸っていると、インターホンを押す音がした。

そうだった。今日は編集さんがくる日だった。
忘れていたせいで部屋はゴミだらけだし、服も着替えてない。

まぁ良いか。
編集さんだって慣れているだろうしな。

「はいはい、今出まーす」

ガチャ
扉を開けるとそこには知らない人が立っていた。
少しチャラそうな感じのイケメン。いかにも「モテる人」って感じだ。

はて、この人は誰だろうか。
こんなボロいアパートに引っ越してきたとは思えないし、宅配の人でもなさそうだ。

「あの、どちらさまですか?」
「ああ、申し遅れました。私、今日から先生の担当編集になりました、伊藤です。」
「担当編集?」

そういえば、編集さんが交代するとかなんとか言っていた気がする。

ああ、こんなことなら少し掃除でもしておけばよかったな。

いくら無気力な人間だと自覚しているとはいえ、人を迎え入れるときの最低限のマナーは知っているつもりだ。

編集さんだろうと分かっていながらも着替えなかったのには目を瞑ることにして、改めて新しい編集さんを見る。

チャラそう、イケメン、腹黒そう、浮気してそう。
、、、二章ではこんなキャラを出すのも良いな。

どんなに趣味じゃない小説でも、キャラを作るためのヒントを得ることは忘れない、小説家の鏡だろう。
なんて自画自賛をしながら、彼を招き入れる。

仕事部屋はヤバいからリビングに案内するか、、、

「どうぞこちらに」
「ありがとうございます!」
うん、元気だ。眩しいな。

「今お茶出すんで、そこで座っててください」
「いえ、お構いなく」
「じゃ、このままで。」

普通の人ならお茶と菓子の一つや二つ出すもんだろうが、あいにく俺は普通ではない。
お構いなくというお世辞を素直に受け取ることにする。

「じゃ、知ってると思うけど諸星春です。よろしく」
「改めまして、伊藤健です! よろしくお願いします!」

「すみませんね、こんな汚いところで」
「いえいえ」

軽く挨拶をし、ソファに座る。
すると新しい編集さんがこちらをじーっと見つめていることに気がついた。

「何か?」
「いえ、私、その、、、先生のファンでして、、、先生の本も全部持ってるんですよ!」

ファン、ファンか、、、
編集さんなら今までの小説くらい無料で読めるだろうに、全部持ってるとは、ありがたいことである。

「はぁ、そうですか。ありがとうね。こんな汚いやつでガッカリしたでしょう」
「そんなことありませんよ! 先生は素敵な方です!」

お世辞も上手い。これは良いキャラになりそうだ。

そんなこんなで仕事の話を終えた。
彼はずいぶんと話が上手く、久しぶりに楽しい思いをした。

時計を見ると三時間ほど経っており、こんなに長く人と話したことがあっただろうかと驚く。

「あの、先生」
「なんですか?」

「よろしければ仕事場を見せていただけませんか?」
「汚いですけど、それでもよければ」

仕事場の扉を開ける。

ペットボトルと食品が散乱している、ゴミだらけの部屋。

「はは、すみません。こんな部屋で」
「、、、先生」
「はい?」

なんだろう。声に負の感情が込められているような、、、
もしかして何かしたか? いや、この部屋のことには決まっているんだがでも、、、

「掃除させてください!」
「ヘァ?」

思わず変な声が出てしまった。掃除させろ? いやまぁしてくれるならありがたいんだが普通したいと思うか?

「はぁ、まあ、良いですよ」
「ありがとうございます!」

それからの彼は凄かった。いやもう、本当に。
ゴミをさっと拾い上げ、袋に入れ、棚の奥底に眠っていた掃除機を引っ張り出してかけ、机などを拭く。
出てきた虫は容赦なく潰し、それもゴミへ。
その速さはまさにジェットコースター。

うん。優秀だ。この編集さんは当たりである。
少しおかしい人ではあるが。

「先生! 終わりました!」
「あ、はい、お疲れ様です。」

彼の綺麗だった服は、とても汚れており、それで外出は難しいほどだった。

「あの、シャワー浴びます?」
流石にここまでさせて何もなしに帰らせるのは可哀想だ。

「良いんですか?」
「はい、まぁ」

「じゃ、お言葉に甘えて」

彼がシャワーを浴びている間に彼の服を袋に入れ、ついでに自分の服も着替える。

そして、俺にはサイズが合わなかった大きい服と下着を用意して、風呂の前に置いた。

「着替え置いといたんで、それ着てください」
「ありがとうございます!」

水の音の隙間から、彼の声がする。
爽やかで、優しそうな声。

その声がなりやんでも、水の音は俺の耳に届いていた。



ーーーー


「ありがとうございました!」
「いや、こちらこそどうも」

風呂から上がった編集さんは、俺に向かって頭を下げた。

「もう、帰りますか?」
「はい! 失礼します!」

そうか、もう帰ってしまうのか。なぜか感じてしまったその喪失感。その意味もわからずに彼を見送る。

「先生、提案があるんですけど」
「提案?」

「毎週日曜日に先生の部屋を掃除しにきていいですか? このままじゃすぐ散らかるでしょう?」
「ぐっ」

ありがたい申し出ではあるのだが心に響く、、、

「良いですか?」
「はい、まぁ。よろしく」

それから俺と編集さんの奇妙な関係が始まった。










「先生! こんにちは」
「こんにちは」

眩しい、、、編集さんの笑顔は何度も喰らってきたが、やはり慣れない。
そう、初めて出会った日から数カ月がったった。
宣言通り彼は毎週俺の家に通い、掃除をしてくれた。料理も作ってくれて、で

そして

「先生っ、気持ち良いですか?」
「良いっ、良いから。もっと、あっ、あああ゛」

「先生のナカっ、気持ち良いです。俺、そろそろっ」
「お、俺もイくっ」

「一緒にっ、イきましょう」
「あああっあ゛、ああっ、イくっああああ゛あ゛ーーーーーー!」


いつしか俺たちは体を重ねる関係となっていった。
初めては、いつ頃だっただろうか。分からないが、セックスは気持ちよかった。
指だけで、何度もイかされ、挿れられる頃にはクタクタになっていた。
それでもお構いなしに突っ込むものだから、いろんな意味で死にそうだった。

苦しいし、でも気持ち良いし。それより、こんなイケメンがセックスの間は俺だけをみてくれるという優越感が、とても心地よかった。

まぁ何というか、俺は彼に依存しているんだと思う。
それほどまでの人間なのだ。彼は。

「これじゃいつかダメになるな」
彼が居なくなったら、部屋はすぐゴミで溢れかえり、栄養など全く考えないコンビニ弁当を食べることになるだろう。
今は毎日入っている風呂も週一になり、洗濯も一ヶ月でまわすかどうか。

前は普通であったはずのその生活も、彼のせいで普通ではなくなってしまった。いや、ここはおかげと言うべきか。

よし、今日は自分で掃除機をかけよう。外に出て、買い物して、食事を作ろう。
うん、そうしよう。

外に出ても恥ずかしくない服に着替え、財布とカバンを持って玄関へと向かう。

「せ~んせっ、来ちゃいました」
扉を開けると買い物袋からネギがはみ出ているイケメン、つまり編集さんがいた。

「ど、どうして? 今日来る予定は、、、」
「すみません。ちょっと会いたくなっちゃって」

えへへと笑いながら頭をかく彼。
そのセリフは女子に言ってやれよ。こんな男に言う必要はないだろう。

「ダメ、、、でしたか?」
「い、いや、そういうわけでは」
「じゃあ、お邪魔します!」

ゴーーーー

掃除機をかける音。
ああ、せっかく自分でやろうと意気込んだのに。
まあ良いか。コイツがやってくれる方が綺麗だろうしな。

「先生♪ 終わりましたよ!」
「ああ、ありがとう」
「シャワー、借りますね。それとも一緒に入ります?」

イタズラに微笑む彼。
その余裕そうな顔にイラっときてしまった。

そうだ、少しからかってやろう。
「そうだな、一緒に入ろうか」
「はい!」

元気な返事だ。俺の予想では少し戸惑うだろうとしていたのだが。

まぁ良いか。一緒にシャワーを浴びるくらいわけない。




「先生、洗ってあげますよ」
「え?」
「先生の体、全部洗ってあげます」

ああこれは俺でも分かる。お誘いだ。セックスの。

まぁ良いか。って、そればっかりだな、俺。
でも気持ちいいし。しょうがないか。

「んっ、ああっ、ん゛ーー!」
「先生 
、、、春さん! 名前、呼んでください」

「んっ、健! あ゛あ゛っ、もう無理っ、もうダメっ、気持ち良すぎ」
「ん、イって下さい。俺も出しますよ!」
「ん、イく、イっ゛ーーーーーーー!」

二人共が果てると同時に彼は言った
「春さん。一緒に暮らしませんか?」

きっとコイツと一緒に暮らしたらもう立ち直れない、、、 だけど、
「う、うん。分かった」
快楽に犯された頭では、頷くことなどできなかった。









「春さん、原稿はどうですか?」
「終わったよ、今」

「えらいですね」
健は人を堕落させるその笑顔で、頭を撫でた。
その温かい手に猫のように擦り寄った。

「頑張ってる春さんのために、すき焼き作ったんですよ。好きですよね、すき焼き」
「うん、好き」

健と同居してから、早さん三ヶ月。
月に二回は買い物しに外に出ていたあの頃とは違い、俺が外に出ることはなくなった。

趣味じゃない小説を、健のために書き、ただひたすらに健を待つ生活。

こんなの監禁みたいなものだ。いや、軟禁か。
でもそれを受け入れてしまうくらい、彼を好きになってしまったのだ。

完全に依存している。だけど、それだけじゃない。
健もまた、俺のためだけに働いている。
俺以外がそれに選ばれる未来もあったかもしれない。でも、今は俺だけ。

そう、彼が縛るのは、自分のものにしようと躍起になって動くのは、俺だけなのだ。


それだけで、良いと思った。

「健」
「なんですか?」

「愛してるよ、永遠に」
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