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魔王は討伐されました。
しおりを挟むこの世界には魔王が存在する。魔王は魔人や魔物を統べる者であり、200年に一度交代する。
魔王は人類と不可侵条約を結んでいるため、魔族と人類の仲はさして悪くなかった。
今期の魔王、ルトーが現れるまでは。
ルトーは魔王の敷地内に踏み込む者を惨殺し、見せしめとしてその死体を数日間晒し続けた。
その所業は人類に怒りと不安を抱かせ、とうとう魔族と人類は対立してしまった。
それから数年後、魔王に立ち向かおうと立ち上がった者が数人。その者達は勇者と呼ばれ、人類の希望となった。
そして私はその勇者、ではなくそれに討伐されようとしている魔王である。
私は、完全に覚めきっていない目を擦りながら終わるかもしれない人生を振り返った。
生まれた時から、何かに操られていた。
自分の意思に反して動く体は、人類を、時には仲間をも殺してきた。
その度に泣き叫ぶ心は、とっくに壊れていた。
死にたい。いつの間にかそれが私の口癖になった。
それでも体が自由になることはなく、昨日も数十人は殺した。切り裂いた肉の感触が頭から離れない。
いつの日までこんな生活が続くのだろうと嘆いていた時、勇者が現れたという情報が手に入った。
やっと、やっと解放される......。
普通であれば恐ろしいものである死が、私にはこの世で一番素晴らしいものに見えた。
それから今まで、ずっと待ち望んできた勇者。
やっと、今日魔王城に到着する。
ああ、待ち遠しい。早く私を救ってくれ。
「失礼します、魔王様。勇者が魔王様に到着しました」
「ああ、それで?」
「じ、城門が、突破されました」
「突破された......だと?」
部屋にやってきた使用人を睨むと、使用人は怯えた表情をする。
殺されるとでも思っているのだろうか。
そんなことしたくはないが、この体はどうだろうな。
沈黙が続くも、この体は使用人を殺したりなどはせず、ただ笑うだけだった。
「ははははっ、そうか。これは、俺の出番も近いかもしれないなぁ」
立ち上がり、身だしなみを整え魔王の間へ向かう。その間にも、幹部が倒されたという話を聞いた。
こんな最低な私を慕ってくれた幹部達。それらが無くなってしまったことを悲しく思ったが、それよりももうすぐ死ねるということに心が動いてしまう。
ああ、私も随分毒されてきたな。と思いつつ、これが人の本質なのかもしれないと感じた。
いくら相手を好いていても、自分より上にはいかない。自分が何より好きで、何より大事。
でも、それでも他人を優先できる。これを人々は勇者と言うんだろう。
魔王の間の扉を開けて、煌びやかな装飾が施されている玉座に座る。
そして足を組み、ただ勇者がやってくるのを待った。
しばらく待っていると、数人の足音が聞こえてきた。
ああ、やっとか。
やっと、殺してくれる。
大きな音を立てて扉が開かれると、そこに現れたのは、5人の男女。
「やっと来たか、勇者達よ」
「......魔王!」
恨めしげに私を見つめる彼らを笑って迎え入れる。
その姿は、まさしく「魔王」だっただろう。
それからは、壮絶な戦いだった。
何度も何度も魔法攻撃を喰らう。
しかし私が魔王の仮面を取ることはなかった。
「それだけか? 勇者よ。私はそんなもので倒れないぞ」
魔力が底をつきそうでも、虚勢を張って役目を果たそうとする。
それは、魔王なりの矜持だったんだろう。それを知って初めて、私は私をかっこいいと思った。
「!?」
その瞬間、勇者の一人が飛びかかってきた。
手には剣。魔法で私の動きを封じ、確実に仕留める算段だろう。
剣先が私の肌に触れた瞬間、ついに仮面が剥がれた。
私は、解放されたのだ。
魔王という役割からも、生きることからも。
薄れゆく意識の中、目の前の勇者に向かってこう言った。
「ありがとう」
聞こえていたかは分からない。ただ一瞬、勇者の瞳が揺らいだ気がした。
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