上 下
1 / 2

魔王は討伐されました。

しおりを挟む

この世界には魔王が存在する。魔王は魔人や魔物を統べる者であり、200年に一度交代する。

魔王は人類と不可侵条約を結んでいるため、魔族と人類の仲はさして悪くなかった。

今期の魔王、ルトーが現れるまでは。

ルトーは魔王の敷地内に踏み込む者を惨殺し、見せしめとしてその死体を数日間晒し続けた。

その所業は人類に怒りと不安を抱かせ、とうとう魔族と人類は対立してしまった。
それから数年後、魔王に立ち向かおうと立ち上がった者が数人。その者達は勇者と呼ばれ、人類の希望となった。

そして私はその勇者、ではなくそれに討伐されようとしている魔王である。

私は、完全に覚めきっていない目を擦りながら終わるかもしれない人生を振り返った。



生まれた時から、何かに操られていた。
自分の意思に反して動く体は、人類を、時には仲間をも殺してきた。

その度に泣き叫ぶ心は、とっくに壊れていた。

死にたい。いつの間にかそれが私の口癖になった。
それでも体が自由になることはなく、昨日も数十人は殺した。切り裂いた肉の感触が頭から離れない。

いつの日までこんな生活が続くのだろうと嘆いていた時、勇者が現れたという情報が手に入った。

やっと、やっと解放される......。

普通であれば恐ろしいものである死が、私にはこの世で一番素晴らしいものに見えた。


それから今まで、ずっと待ち望んできた勇者。
やっと、今日魔王城ここに到着する。

ああ、待ち遠しい。早く私を救ってくれ。

「失礼します、魔王様。勇者が魔王様に到着しました」
「ああ、それで?」
「じ、城門が、突破されました」
「突破された......だと?」

部屋にやってきた使用人を睨むと、使用人は怯えた表情をする。

殺されるとでも思っているのだろうか。
そんなことしたくはないが、この体はどうだろうな。

沈黙が続くも、この体は使用人を殺したりなどはせず、ただ笑うだけだった。

「ははははっ、そうか。これは、俺の出番も近いかもしれないなぁ」

立ち上がり、身だしなみを整え魔王の間へ向かう。その間にも、幹部が倒されたという話を聞いた。

こんな最低な私を慕ってくれた幹部達。それらが無くなってしまったことを悲しく思ったが、それよりももうすぐ死ねるということに心が動いてしまう。

ああ、私も随分毒されてきたな。と思いつつ、これが人の本質なのかもしれないと感じた。
いくら相手を好いていても、自分より上にはいかない。自分が何より好きで、何より大事。

でも、それでも他人を優先できる。これを人々は勇者と言うんだろう。



魔王の間の扉を開けて、煌びやかな装飾が施されている玉座に座る。

そして足を組み、ただ勇者がやってくるのを待った。



しばらく待っていると、数人の足音が聞こえてきた。

ああ、やっとか。
やっと、殺してくれる。

大きな音を立てて扉が開かれると、そこに現れたのは、5人の男女。

「やっと来たか、勇者達よ」
「......魔王!」

恨めしげに私を見つめる彼らを笑って迎え入れる。
その姿は、まさしく「魔王」だっただろう。



それからは、壮絶な戦いだった。

何度も何度も魔法攻撃を喰らう。
しかし私が魔王の仮面を取ることはなかった。

「それだけか? 勇者よ。私はそんなもので倒れないぞ」

魔力が底をつきそうでも、虚勢を張って役目を果たそうとする。
それは、魔王なりの矜持だったんだろう。それを知って初めて、私は私をかっこいいと思った。

「!?」

その瞬間、勇者の一人が飛びかかってきた。
手には剣。魔法で私の動きを封じ、確実に仕留める算段だろう。

剣先が私の肌に触れた瞬間、ついに仮面が剥がれた。

私は、解放されたのだ。

魔王という役割からも、生きることからも。

薄れゆく意識の中、目の前の勇者に向かってこう言った。

「ありがとう」

聞こえていたかは分からない。ただ一瞬、勇者の瞳が揺らいだ気がした。












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

執着男に勤務先を特定された上に、なんなら後輩として入社して来られちゃった

パイ生地製作委員会
BL
【登場人物】 陰原 月夜(カゲハラ ツキヤ):受け 社会人として気丈に頑張っているが、恋愛面に関しては後ろ暗い過去を持つ。晴陽とは過去に高校で出会い、恋に落ちて付き合っていた。しかし、晴陽からの度重なる縛り付けが苦しくなり、大学入学を機に逃げ、遠距離を理由に自然消滅で晴陽と別れた。 太陽 晴陽(タイヨウ ハルヒ):攻め 明るく元気な性格で、周囲からの人気が高い。しかしその実、月夜との関係を大切にするあまり、執着してしまう面もある。大学卒業後、月夜と同じ会社に入社した。 【あらすじ】  晴陽と月夜は、高校時代に出会い、互いに深い愛情を育んだ。しかし、海が大学進学のため遠くに引っ越すことになり、二人の間には別れが訪れた。遠距離恋愛は困難を伴い、やがて二人は別れることを決断した。  それから数年後、月夜は大学を卒業し、有名企業に就職した。ある日、偶然の再会があった。晴陽が新入社員として月夜の勤務先を訪れ、再び二人の心は交わる。時間が経ち、お互いが成長し変わったことを認識しながらも、彼らの愛は再燃する。しかし、遠距離恋愛の過去の痛みが未だに彼らの心に影を落としていた。 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl 制作秘話ブログ: https://piedough.fanbox.cc/ メッセージもらえると泣いて喜びます:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion

処理中です...