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レナルドの父との話を打ち切って、私はここに来たときに割り当てられた部屋に向かっていた。部屋の手前まで来たところで、エリックと鉢合わせる。
「どこに行ってたんだよ……!」
エリックは私の部屋の前で、しばらく待ち構えていたのかもしれない。これ以上行き違いになっても困ると思ったのか、彼は私の腕を掴んだ。
「どこ、と言われても……。あなたも話を聞かれていたんじゃないんですか?」
「話を聞かれた?それどころじゃないよ。一体何の尋問なんだ、って本当に聞こうかと思った」
「まあ、かなり異例の話ですからね……」
どうやら、彼は彼で昨日状況を把握した警護師団の幹部に散々事情を聞かれていたらしい。しかし、結局彼一人の言葉では信用しきれなかったのだろう。ここの幹部があの場にいたとして、対処できたか分からないようなことをやってのけたのだから。
しかも、途中までその場にいたというレナルドに話を聞いても要領を得ないのだ。結局、いつ倒れたのか定かではない私を呼ぶしかなかったというところだろうか。
「こんな訳の分からないことになるなら、先に言っておいてくれたらいいだろ」
「あのとき、そんな暇はなかったじゃないですか」
部屋の前で延々と話をしていても仕方がない。エリックがここにいることを知った人が集まってきそうな気もして、私はとりあえず扉を開けて彼を招き入れた。
「そういう問題じゃなくて……。ああ、そうだ。これはどうしたらいいんだよ」
「…………これ?」
訊ねた瞬間、彼の右手がぼんやりと光る。私は、エリックから逃げるように少し後ずさってしまった。普通なら気がつくはずだけれど、全く分からなかったのはダインに隠れる意志があったからだろう。
とは言え、さすがにいい加減慣れてしまったのかもしれない。そこに現れた精霊を見ているだけなら、私の心身に大きな問題はなさそうだった。
エリックの手の上で浮かぶ球体は、また喋り出している。あまり気にしないでおこう。ここで返事をしたら私は確実に頭のおかしい女と思われる。直接声を出さなくても話すことはできたかもしれないが、かなりの集中力が必要だった。そして多分、今私にはそんな余裕はない。私はとりあえずダインを無視することに決め、エリックの言葉に集中することにした。
「どういうことなのか、知ってるんだろ?」
「どういう、って…………ああ、外れなかったんですか?」
ここにダインがいることが、それを示している。本来なら、貸し出された精霊は回収され、まとめて倉庫へ送られるからだ。精霊を外して回収するのは、この国の魔術師の役割だった。
基本的に、精霊の取り付け、取り外しと言われる作業は人間の都合で無理に行われていることだ。人間側が精霊と意思疎通を図って契約ができない以上、物理的に無理やり取り付けるしかない。
そして、それを外すのもなかば無理やりだ。おそらく人間側の意見としては、無理にやっているつもりはないだろうけれど。
しかし、中には人間の都合を無視する精霊もいる。ダインはそういった精霊の最たるものだった。
「どこに行ってたんだよ……!」
エリックは私の部屋の前で、しばらく待ち構えていたのかもしれない。これ以上行き違いになっても困ると思ったのか、彼は私の腕を掴んだ。
「どこ、と言われても……。あなたも話を聞かれていたんじゃないんですか?」
「話を聞かれた?それどころじゃないよ。一体何の尋問なんだ、って本当に聞こうかと思った」
「まあ、かなり異例の話ですからね……」
どうやら、彼は彼で昨日状況を把握した警護師団の幹部に散々事情を聞かれていたらしい。しかし、結局彼一人の言葉では信用しきれなかったのだろう。ここの幹部があの場にいたとして、対処できたか分からないようなことをやってのけたのだから。
しかも、途中までその場にいたというレナルドに話を聞いても要領を得ないのだ。結局、いつ倒れたのか定かではない私を呼ぶしかなかったというところだろうか。
「こんな訳の分からないことになるなら、先に言っておいてくれたらいいだろ」
「あのとき、そんな暇はなかったじゃないですか」
部屋の前で延々と話をしていても仕方がない。エリックがここにいることを知った人が集まってきそうな気もして、私はとりあえず扉を開けて彼を招き入れた。
「そういう問題じゃなくて……。ああ、そうだ。これはどうしたらいいんだよ」
「…………これ?」
訊ねた瞬間、彼の右手がぼんやりと光る。私は、エリックから逃げるように少し後ずさってしまった。普通なら気がつくはずだけれど、全く分からなかったのはダインに隠れる意志があったからだろう。
とは言え、さすがにいい加減慣れてしまったのかもしれない。そこに現れた精霊を見ているだけなら、私の心身に大きな問題はなさそうだった。
エリックの手の上で浮かぶ球体は、また喋り出している。あまり気にしないでおこう。ここで返事をしたら私は確実に頭のおかしい女と思われる。直接声を出さなくても話すことはできたかもしれないが、かなりの集中力が必要だった。そして多分、今私にはそんな余裕はない。私はとりあえずダインを無視することに決め、エリックの言葉に集中することにした。
「どういうことなのか、知ってるんだろ?」
「どういう、って…………ああ、外れなかったんですか?」
ここにダインがいることが、それを示している。本来なら、貸し出された精霊は回収され、まとめて倉庫へ送られるからだ。精霊を外して回収するのは、この国の魔術師の役割だった。
基本的に、精霊の取り付け、取り外しと言われる作業は人間の都合で無理に行われていることだ。人間側が精霊と意思疎通を図って契約ができない以上、物理的に無理やり取り付けるしかない。
そして、それを外すのもなかば無理やりだ。おそらく人間側の意見としては、無理にやっているつもりはないだろうけれど。
しかし、中には人間の都合を無視する精霊もいる。ダインはそういった精霊の最たるものだった。
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