上 下
15 / 24

15

しおりを挟む
 私がかつて所属していた部隊の人事がうまくいかないのは、いくつかの要素がある。


 まず、成績と精霊使いの資質には相関性がほとんどないからだ。正確には、ある程度の能力があって、力の強い精霊を与えられれば結果はついてくる。まあ、精霊の力を借りるのだから、いくら本人に資質があっても役に立たないものばかり与えられていれば活躍できないのは当たり前だった。

 次に、どうやって精霊の配分が決まっているかというと、ほとんどは家柄や学校での成績、内部に関係者がいるかどうかだ。そもそも学校で優遇されている者もいるだろうから、結局のところある程度家柄が重要視される。学校に通うにしても例外はあるとはいえ、学費が必要だった。

 そうやって優遇された場合、かなり高位の精霊使いとして扱われ、出世はできる。ただ、ある一定のところで頭打ちになるのだ。王都でも精霊使いの9割は、そのような感じだった。つまり、精霊使いの能力は誰であろうとほとんど大差がないということだ。ごく一部を除いて。

 しかし、さすがに王宮の第一部隊ともなると、そういう『成績だけよい人』をスカウトしてきてもあまり役に立たない。その人のためだけに扱いやすい精霊を用意し、毎回活躍できるよう取り計らうのは難しいからだ。

 最終的に、高い能力を必要とする部隊では、まともに精霊を使える人を探している。が、そういう人を取り立てるにあたって障害となるのが周りからの不平、不満だ。基本は成績順なのに、いきなり最上位の部隊だけルールを破ると、厄介なことが起こる。昇進を待っている高位の精霊使いだとか、有名な精霊使いを輩出している一族だとか、いろいろな場所からクレームが来る。しかも、資質に違いがあると説明してもほぼ分かってもらえない。

 そういうわけで、人手不足(正しくいうなら役に立つ人材が人手不足、かもしれない)に悩まされている部隊は、クレームが出ないように周囲を納得させた上で人材を集めなければならなかった。



 結局のところ、私はこれ以上引き抜きの話を黙っていても意味はないと判断した。何故か半年前に情報は筒抜けだし、その話が原因でエリックの立場が悪くなっている可能性もある。何にしても、最終的に大クレームに発展さえしなければいいのだ。

「エリックさん、王都に来る気はありません?」

 断られたら断られたで別に構わないか、と開き直って、私は彼に訊ねた。そもそもエルドレッドはおそらく半年前に失敗している。私がどうであれ、文句を言われる筋合いはない。

「君、今の話聞いてた?」

「レナルドさんのことですか?」

「そうだよ」

「元々、そんな話はないと思いますよ。私はあなたを勧誘しに来たので」

「…………ちょっと、意味が分からないんだけど」

 彼の表情からは困惑が読み取れた。拒否されているわけではないようだ。まあ、幸いにもエリックは今まさに退職を迫られているのだし、信用できるかはともかく新しい仕事の斡旋を断る理由はないのだろう。『とりあえず、帰ってからゆっくり説明します』と私は伝えた。

「どうせこのまま辞めさせられるところだったんですよね?それなら、私に協力してくれませんか?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた

リオール
恋愛
だから? それは最強の言葉 ~~~~~~~~~ ※全6話。短いです ※ダークです!ダークな終わりしてます! 筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。 スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。 ※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;

【完結】欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...