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 受付の女性は、少し困ったような顔で首を傾げた。

「聞いていらっしゃらないのですか?」




 そのとき、後ろから声がかかった。

「本当に来たの?」

 振り返ると、資料で見た写真と同じ青年がそこに立っていた。エリック・ターナーだ。

「エリックさんですね、私……」

 不機嫌そうな顔で睨みつけられ、私は戸惑った。話は通してあるんじゃないのか。本人が引き抜きの件を知らないとしても、睨みつけられるような話ではない。エルドレッドは何をやったんだ。

「せっかく来てくれたところ悪いけど、帰ってくれないかな」

「え?そ、それは困ります!」

『行ってみたら本人からお断りされたので無理でした』では、さすがに困る。でも、これはエルドレッドの手落ちじゃないのか。根回しが最悪だ。だいたい、私はなんの目的でここに来たことになっているのだろう。 

「そりゃ困るだろうね。でもさ、もうちょっとやりようがあるんじゃないの?」

「何の話ですか?」

「何の話って、そっちが知ってることだろう?」

 彼は、スタスタと歩き出していた。私は、慌てて追いかける。とにかく、話を聞き出さなければ、何もしようがない。

「……申し訳ないんですけど、私、どういうお話なのか何も聞いていないんです。急にこちらへ行くように言われましたので」

「……知らないの?」

「ですから、何の話なんですか?」

 私がさらに訊ねると、彼はようやく立ち止まった。何も知らない女性が連れてこられたと判断したのかもしれない。実際、私も最終的に彼を引き抜きたいという話以外何も知らないのだから、間違ってはいなかった。

「監視に来たんだろ?」

「はあ?そんな話、誰がしたんですか?」

「本当に知らないんだね。まあ、どっちにしてもそれなら帰った方がいいよ。俺は監視されるようなことはしてないし」

「ちょっと待ってください。おかしいでしょう、監視のために助手をつけるって」

「俺もおかしいとは思ってるよ」

 そこまで聞いて、これはエルドレッドの嫌がらせなのではないかと思った。軍──いわゆる本部──から監視をつけられるような人間と認識された青年が、3ヶ月後に『王都から引き抜きがあるような人間』に変わるわけがない。

 『代わりになるやつを連れて来い』と言いながら、そんなつもりはなかったのではないか。

 絶対にできもしないことを頼んでおいて、『それなら戻って来い』とでも言うつもりなのだろうか?そうだとすれば、あまりにも私を馬鹿にしている。

「……ちょっと待ってください!詳しく話を聞かせてくれませんか」
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