Sub侯爵の愛しのDom様

東雲

文字の大きさ
上 下
27 / 52

23

しおりを挟む
それから三日。メリアからのあらゆる意味で衝撃的な告白によって、揺れに揺れていた精神は、未だ落ち着かずにいた。

(少しでいいので、なんて……無茶を言う…)

僕のことを考えて下さい───その言葉の通り、この三日間、メリアのことばかり考えてしまっていた。
仕事中は絶対的に顔を合わせる為、考えるなという方が無理で、屋敷に帰ってからは、その日一日のメリアの様子を思い出し、悶々とする。
挙げ句、夢でまで告白された場面を見てしまい、寝ても醒めてもメリアのことを考えている始末だ。
おかげで集中力はボロボロで、仕事でもミスが続き、しょぼくれる毎日だった。



あの日、告白をした後のメリアは、こちらが狼狽えるほどいつも通りだった。
残っていた紅茶を飲み終え、二人で馬車乗り場まで向かい、メリアに見送ってもらう…一点、いつもと違う所があったとすれば、ほとんど会話が無かったところだろう。というより、自分がそれどころではなかった。
まともにメリアを見ることができず、ずっと心臓がドキドキとしていて、逃げるように馬車へ乗り込もうとした。その瞬間、メリアの手が伸びてきて、手の平を強く掴まれた。

『ッ…!』
『お返事は急ぎません。例え、良いお返事を頂けなくても、きちんと受け止めます。…ベルナール様のお心の負担になるようなことはしないと誓いますので、僕を恋愛対象として見れなければ、どうか情けはかけず、断って下さいませ』

普段と変わらぬ穏やかな口調は、だがどこか泣きそうな響きが混じり、胸が痛いほど締め付けられた。
するりと解けた手は、その感触を残して離れ、その余韻を断ち切るように、馬車の扉が閉められた。
走り出した馬車の中、茫然としながら椅子に座り込み、メリアから告げられた言葉や、熱の籠った眼差し、初めて浴びたGlareを思い出し、一人悶絶した。

生まれて初めて向けられた熱烈な好意と強烈な愛の告白は、恋愛未経験者にはあまりにも刺激が強すぎて、まるで甘い毒に全身を浸けるように、自分という個体を丸ごと飲み込んだ。



(……嬉しくない訳じゃない)

メリアの気持ちを、迷惑だとは思っていない。…嬉しいとは思っている。
だがただ『嬉しい』と感じるには戸惑いが大きく、なにより自分の気持ちがまるで分からなかった。

(……十四歳も年下の子に、どうすれば…)

メリアも成人した大人とはいえ、十四という歳の差は大きい。
年若く、将来も有望であろう子の貴重な時間を、自分が無駄にしていいのだろうか、という負い目にも似た感情が真っ先に浮かび、どうしても前向きに受け取ることができないでいた。

なにより、『なぜ自分?』という気持ちもあった。
家柄は確かに良い。客観的に見て、容姿が整っているという自覚もある。だが威圧感のある見た目は人によっては怖がられ、見目麗しい者が多い高位貴族の中では、埋没する程度の容姿だ。
勉強はできたが、特別能力が高い訳でもないし、素晴らしい技術を持っている訳でも、特技がある訳でもない。
唯一あるとすれば、六年前の華々しい記録だろうが、それも過去のものであり、なにより自分一人の功績でもない。
考えれば考えるほど、家の爵位が低い以外、どの方面に対しても自分よりもよほど魅力に溢れているメリアに好かれる意味が分からず、ほんの少しだけ、胸が苦しくなった。

(…それに、分からないこともある)

いつSubだとバレたのだろう?
ずっと好きだったと言ったが、一目惚れしたというのはいつの話だろう?
職場に配属されたあの日が間違いなく初対面だったはずだが、自分が忘れているのだろうか?
…もし、もしも恋仲になったとして、自分にSubとしての役割が果たせるのだろうか?

(……分からない)

三日間、悶々と考え込んでいる疑問の答えは、メリアしか知らない。と、そこでふと数ヶ月前、メリアの想い人について聞いたことを思い出し、もしやアレは自分のことを言っていたのだろうか、と今更なことに気づく。
薄れかけた記憶をなんとか手繰り寄せ、朧げな記憶に残る彼の想い人の特徴を思い出すも、どうにも自分とは別人な気がして、余計に頭が混乱した。

(年上で家格が上というのは合ってる…勤め始めてから交流を得たというのも間違いなさそうだが……高嶺の花…? は違うような…)

多くの好意を向けられている、という点に関しても、心当たりがない。確かに縁談の話は多かったし、学生時代にはそういった情を向けられることもあったが、恋文一つもらったことは無い。
告白されたのも、正真正銘、メリアが初めてだ。

(それに、すごく素敵な人だと言っていたし…)

それこそ自分とは思えず、ぐぅ…と唸ってしまいそうになる。
強くて、かっこよくて、可愛い───想い人について、愛しげに言葉を紡いだメリアの横顔を思い出し、なぜか少しだけ気持ちが沈んだ。

(……いっそ嘘でしたと言ってくれた方が、まだ信じられそうだ…)

勿論、メリアがそのように軽率に、人を揶揄うような子でないことは分かっている。だから困るのだ。

(可愛いなんて言われる要素、一つも───)


『そんなお可愛らしい顔をしないで下さいませ』


「…っ」

否定しようとした瞬間、あの日、うっとりとした表情で呟いたメリアを思い出してしまい、カッと頬が熱くなった。
吐く息すら熱く、恍惚と煌めいていた黄金の瞳は眩暈がするほどの激情を帯びていて、それを思い出すだけで、ゾクリとしたものが背中を走った。

(ああ…本当に、どうしたら…)


Subとしての本能はおろか、恋愛経験ゼロで、『恋』がどんなものかも知らない。
色恋に対して赤子同然の己には、泣いてしまいたくなるほど、メリアへの『返答』を考えるのは難しい問題だった。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

処理中です...