Sub侯爵の愛しのDom様

東雲

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(どうしよう…)

ガタガタと揺れる馬車の中、どうしようもない胸の重さを少しでも軽くするように、深い溜め息を吐き出した。


メリアの歓迎会に向かう部署の皆を見送ったのは、ほんの数十分ほど前のことだ。
昨日、メリアの歓迎会に参加できないと伝えた後の彼の落ち込み様は、見ていて胸が痛くなるほどだった。
あまりにも悲しげに塞ぎ込む姿が見ていられず、慌てふためきながらフォローした。
「以前からの約束があって」「メリアのことは心から歓迎している」「行けなくて残念だ」…思いつく限りの言葉で必死になってメリアを慰めれば、程なくして彼が顔を上げた。

『お気に病ませてしまい、申し訳ございません。アルマンディン様がお越しになられないのは寂しいですが、楽しんで参りますね』
『本当にすまない。…皆と楽しんでおいで』

そう言って弱々しく微笑む姿に余計に胸が痛み、だがそれ以上なんと言えばいいのか分からず、結局昨日はそのまま別れた。
そうして今日、いつも通り業務をこなしていたメリアに内心ホッとしていたのだが、終業時間を迎え、皆と共に部屋を出ていく間際、チラリとこちらを振り返り、寂しそうに眉を下げたのだ。
その表情があんまりにも寂しげで、唸ってしまいそうになるのをなんとか堪えると、罪悪感から逃げるように帰ってきてしまった。

(参加しておけば……いや、今更部署の集まりに参加するのはな…)

今までも部署内で何度か食事会などは行われていた。だが自分はそのほとんどに参加したことが無く、自身の歓迎会くらいしか顔を出したことが無かったのだ。
他人と関わる楽しさや喜びは学んだが、それでも皆が一堂に集まって過ごす場は未だに苦手で、夜会やパーティーですら必要最低限しか参加していなかった。

(少人数で食事を取るくらいなら平気なんだが…)

つくづく自分は人と関わるのが下手だと思う。
それが幼少期の性問題から来るものなのか、元からの性格なのか、今となってはそれすら分からなくなってしまったが、今回のことで少しばかり自身の行いを反省した。

(…あんな風に寂しがってもらえたのは、初めてだ)

今までも皆の集まりに参加できないと伝えれば「残念です」とは言ってもらえたが、誰もそれほど自分のことを気にしていると思っていなかった。
部署の皆は優しく、穏やかな人達ばかりだが、自分の立場が色々と複雑なのは理解している。だからこそ、自分がいない方が皆も気楽に過ごせるだろう…と、さほど気にせず誘いを断っていたのだ。
今回も、いつもと同じ…そんな気持ちで、元から断るつもりで予定を入れてしまった。

(……ダメだな、私は)

明日、またメリアに謝ろう───何度目か分からない溜め息を零しながら、背凭れに深く寄り掛かった。




「久しぶりですね、ベルナールくん」
「お久しぶりです、メルヴィル様」

馴染みの店に馬車を停め、中に通されると、そこには既に待ち合わせ相手の姿があり、優雅な微笑みで出迎えてくれた。

「お待たせして申し訳ありません」
「いえ、私も先ほど来たところですよ」

九歳の時に初めて会ったメルヴィルとは、十二歳の再会以降も細々とした繋がりが続いていた。
年を重ねるごとに会う頻度は増え、少しずつ親しくなった彼とは、今ではたまに食事をする仲になっていた。
九歳年上のメルヴィルだが、綺麗な面立ちは健在で、年齢を重ねたことでより美しさに磨きが掛かったように思う。
大司教となった彼との関係は、教師と生徒のような立場でありながら、友人のような付き合い方へと変わっていた。

「二ヶ月ぶりですかね。お変わりなく、お過ごしでしたか?」
「はい。メルヴィル様もお元気そうでなによりです」
「元気なのが取り柄ですからね。父君や弟君も、お元気ですか?」
「ええ、お蔭様で。父も先日帰ってきまして、とても元気にしていました」

食事を取りながら、近況についてポツリ、ポツリと語らう。
未だに各地を転々と旅している父だが、半年に一度は帰ってきて、元気な姿を見せてくれた。
弟には領地を任せ、領主代行として、日々頑張ってもらっている。父も王都に帰ってくると必ず領地に向かい、孫と楽しい時間を過ごしてから、また旅立っていくのが常となっていた。

「ベルナールくんは、はずっと変わらずですか?」
「……そうですね」

会話の切れ目、ふと尋ねられた質問に、カトラリーを持つ手の動きが止まった。

「ああ、責めている訳ではないのですよ。ただ、何か心境の変化はあったかなと思ってしまいましてね」
「分かっています。…心配して下さり、ありがとうございます」

メルヴィルの軽い口調からも、そこに言葉以上の他意がないことは分かっていた。
苦笑しながら、意識の端に浮かんでいた父と弟の姿に、ふと昔のことを思い出した。


母の葬儀後、父とマルクに自身の胸の内を明かし、“これから”について話し合った時のことだ。
Subという第二性に馴染めない精神と、他者との関わりを恐れてしまう心。
誰かを愛する自信もなければ、愛される自信もない───だから、と二人に提案したのだ。
嫡男として、次期当主として育ってきた責務がある。その務めを果たす為、婚姻が必要であれば、父の選んだ女性と結婚する。そうなった場合、世継ぎのこともきちんと考えるし、相手のことも大切にする。
もしも独身のまま過ごすのであれば、自分の後はマルクの子に継いでもらう。ただそうなると、養子縁組をする必要があり、それならばいっそマルクが侯爵家を継ぎ、自分が家を出ればいい───そう伝え、その選択は、今まで散々迷惑を掛けてきてしまった二人に任せた。

父も弟も、自分が家を出ることに反対した。
父には「そういった結婚をお前にさせるつもりはないよ」と寂しげに言われ、マルクには「父さんの後を継ぐのは兄さんだろう!」と半泣きで怒られた。
何度も何度も言葉を交わし、気持ちを確認し合い、そうして最終的に、マルクの子が大きくなったら養子縁組をし、侯爵家を継いでもらうことで話は纏った。
マルクは「兄さんに好きな人ができたら、この話は無かったことにしてくれていいから」と言ってくれたが、自分の都合でマルクやマルクの子を振り回すつもりはなく、メルヴィル立ち合いの元、決め事について神前契約を交わした。
結局、メルヴィルには侯爵家のゴタゴタに、端から端まで付き合ってもらうことになってしまった。

『だから、騎士団に入ったんだな』

話し合いの最中、ポツリと零した父の言葉。
騎士として生きる道があれば、家を出ても一人で生きていける───そんな思惑の元、家から距離を取っていたことを見透かされ、バツの悪さから俯くことしかできなかった。

父も、弟も、自分を愛してくれている。その気持ちは伝わっているし、疑っている訳でもない。
だがだからこそ、自分も二人を愛しているからこそ、皆にとってより良い未来は、自分が家を出ることだと思っていたのだ。
二人にこれ以上の迷惑と面倒をかけない為に、一人で生きていこう───そう思っていた。

(流石に今はもう、そんな風に思っていないけど…)

跡継ぎを残すという責務を果たすことは難しいが、せめて当主としての役目をきちんと務め、二人に心配させないこと…それが一番の恩返しであり、自分にできる唯一なのだと思う様になっていた。
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