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7.変化Ⅱ ※微R18
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(どうしてこうなった……!!)
行き場のない疑問と動揺、混乱を口に出さぬよう、テオドールは奥歯を食い縛ると、漏れそうになる唸り声をなんとか飲み込んだ。
「テオドール? どうかした?」
「いえ、なんにも、はい、大丈夫です」
一体何が大丈夫なのか、まったく大丈夫ではない現状に天を仰いだ。
今、ベッドに座る自身の股の間には、アルバートが座っている。
開いた足の間にちょこんと収まった小さな体と、胸元に当たる後頭部。こんな風に誰かと密着するのは初めてで落ち着かないのに、子ども体温が心地良くて、つい離れ難く思ってしまう──が、今はそんな暢気なことを考えている場合ではない。
(本当に、どうしてこうなった……)
再び性器が勃起してしまったアルバート。それ事態は自然現象なので仕方ない。だが何を思ってか、アルバートは「治し方を教えて?」と言ってきたのだ。
『だって、どうしたらいいか分かんないもん……テオドールも、おちんちん固くなるんでしょ? どうしたら、固いの治るの?』
どうやらアルバートは夢精で精通を迎えたらしい。下半身の違和感で目覚め、精液で下着が汚れていることに動転したたまま、自分の元へ来たのだと言った。
それを証明するように、下着は汚れたままで、慌てて脱がせたところまでは良かったのだが、そこからの流れが良くなかった。
アルバートは替えの下着も履かず、「固くなったおちんちんはどうしたらいいの?」と、恥ずかしげもなく性器を見せてきたのだ。
肉体的にも精神的に幼いせいか、はたまた無知故の純粋さか、勃起した性器を見せられた自分の方がよほど慌てふためいた。
「他人に安易に性器を見せてはいけません!」と半ば叱るように叫びながら目を逸らせば、アルバートがポツリと呟いた。
『……テオドールは他人じゃないもん』
落ち込んだ声音に、ハッとしてアルバートに視線を戻せば、不満げに頬を膨らませた彼と目が合った。
そうして動揺してる間に、再びベッドに座るよう促された。『他人』という単語で彼を傷つけてしまったかもしれないという動揺から断ることもできず、大人しくその言葉に従ったのだが……瞬く間に足の間に収まってしまったアルバートに、気づけば今の状態になっていた。
「おちんちんが見えなければいいんでしょ?」というのが彼の弁だが、そうではないと全力で言い返したい。しかし、また不用意な言葉で彼を傷つけてしまったらと思うと、下手に言い返すこともできなかった。
そんなどうにもならない現状と、自分以外に教える者がいないという現実に、観念して指導しようと試みるも、何をどう教えたらいいのかまったく分からず途方に暮れた。
(世の親達は一体どうやって教えてるんだ!?)
子もいなければ、子育ての経験もない。当然のことながら、自慰の仕方を聞かれたことも、教えたこともない。
自分の時はどうだっただろうか、と必死に記憶を掘り起こせば、兄達がそれとなく教えてくれた思い出が蘇る。
(確か、兄上は言葉で教えてくれたけど……)
自分もアルバートと同じで、精通した時は怖くて、悪い病気にでもなってしまったのではないか、と半泣きになりながら兄達を頼った。
両親より兄達と仲が良かったこともあり、深く考えずに兄を頼ってしまったが、今思えば、長兄も次兄も相当困っただろう。
それでも、弟である自分をあしらうでも揶揄うでもなく、きちんと精通について教えてくれた兄達は本当に人格者であり、頼れる存在だったと改めて思う。
なればこそ、自分も兄のように……と思うが、正直なところ、アルバートに「おちんちんを扱くんですよ」と言っても、「扱くってどうやって?」と返ってきそうで怖い。まして「テオドールのおちんちんでやってみせて?」なんて言われようものなら、それこそとんでもないことになる。
純粋だからこそ恐ろしい無垢さに唸りそうになった時、はたとある方法を思いつく。
(このままの体勢で、身振り手振りで教えれば、なんとかなるだろうか……?)
幸い、アルバートからは自分が見えない。このまま視線をどこか遠くへやりながら、口頭での説明に加え、身振り手振りで教えれば、なんとかなるのでは──そんな淡い期待が芽生え、コクリと息を呑んだ。
「……では、やり方をお教えしますね」
「うん!」
「ですがアルバート様、これはあくまで基本的なもので、正解という訳ではありません。以降はご自身のやり易い形に変えていくものだということを覚えておいてくださいね?」
「分かった」
コクンと素直に頷く姿にホッとすると、視線をアルバートから外した。
「ではまず、陰け……んんっ、おちんちんをこうして、自分の手で握ってください」
アルバートに見えるように、自身の手を筒を握るような形に変える。
「痛くない程度、気持ち良いと思えるくらいの強さで大丈夫ですよ」
「はい」
「握ったら、次はこう……その、おちんちんを擦るように、上下に手を動かしてみてください」
言いながら、手本となるように手を動かすも、どうにも自分自身を慰めている時のそれと同じ動きになってしまい、耳が熱くなる。
雑念を消し、「これは手本だ」と念じていると、不意に「ん……」と吐息混じりの小さな声が聞こえ、体が硬直した。
「なんか、変な感じ……」
そう言いながら、ゆっくりと性器を扱き始めたらしいアルバートに、幼な子にいけないことを教えているような罪悪感に襲われる。
精通を迎えたのだから、アルバートももう半分大人だ。それでも、どうしたって見た目には幼い子どもにしか見えなくて、罪の意識から今すぐにでも逃げ出したくなる。
幸い、自分の視点からはアルバートの表情も下半身も見えないが、もじもじと揺れる腰や、ぎこちない手の動きが密着した面から伝わってきて、目の前でアルバートが自慰行為をしている現実に、恥ずかしくて堪らない気持ちになる。……と、そこであることに気づき、ハッとする。
(自分はもうこの場にいなくてもいいのでは……?)
本来、自慰行為は人目を忍んでこっそりと行うものだ。人前でやるようなことではない。
やり方は教えたのだから、もう自分がここにいる必要はないはず──浮かんだ妙案に小さく拳を握ると、アルバートの後頭部が当たる胸を僅かに引いた。
「アルバート様、やり方はお教えした通りです。それと、自慰行為は人前で行うものではございません。あとはお一人で……」
「や、やだ!」
自分がこの場を離れようとしていることを察知したのだろう。バッと後ろを振り返ったアルバートが縋るようにこちらを見上げ、同時に太腿の上に置いていた左手をぎゅうっと掴んだ。
「っ……」
「一緒にいて!」
「ですが……」
「お願い! 最後まで一緒にいて……!」
「……畏まりました」
赤く染まった頬と同じ色の潤んだ瞳で見つめられ、『否』と言えるような強さを自分は備えていない。
「最後まで」ということはつまり、アルバートが射精するまで、ということだろう。
逃げようのない今に、なんとも言えない敗北感と焦燥感を飲み込むと、何度目か分からない覚悟を決めた。
「ぁ、きもち……、気持ちいい……っ」
「……ええ、良うございました」
本当の本当に、叶うならば今すぐ逃げ出したい。
純真故か、初めての快楽を素直に受け止めるアルバートの幼い喘ぎ声に、焼けそうなほど耳が熱くなり、心臓がバクバクと暴れ回る。
(ごめんなさい、ごめんなさい……!)
艶を含んだ愛らしい声に、背徳感がピークに達する。今すぐにでも耳を塞いでしまいたいが、それをしてはいけないことくらい分かっている。
聞いてはいけないものを聞いてしまっている罪悪感から、心の内でひたすらに謝罪していると、不意にアルバートの動きが止まった。
「……テオドール?」
「は、はい」
「手、震えてるけど、大丈夫……?」
「あ、い、いえ」
羞恥と罪悪感、背徳感を堪えるように握り締めていた拳の震えを指摘され、ドキリとした瞬間、アルバートが背後を振り返り、紅潮した頬をふわりと緩めた。
「ふふ、お顔真っ赤」
「!!」
「可愛いね」
「っ……!?」
可愛いのは貴方だ──!!
そう言ってしまいそうになる口を必死に縫い止め、奥歯を噛み締める。
整った面立ちをほにゃりと緩めて笑うアルバートは、本当に天使のように可愛らしい。それでいて、初めての快楽で蒸気した頬は妙に色っぽく、子どもと大人の境目に立つ、不安定で儚げな少年の色香が漂っていた。
(……まずい)
ドクリ、と一際大きく心臓が血を送り出すのと重なるように、性器を擦るアルバートの手の動きが速くなる。
「ぁ…っ、テオドール、テオドール……ッ」
「っ……」
名を呼ばれ、体温が一気に上昇する。恐らく、そこに意味はないのだろう。
たまたま側にいるのが自分で、無意識の内に頼ろうとする気持ちから、名を呼んでいるだけ。そこに特別な感情などないはず──そう思うのに、まるで懸想の念が籠っているようなアルバートの声に、頭がクラクラしてくる。
「テオ、テオドール……ッ、漏れる、漏れちゃうっ……!」
「……大丈夫ですよ。それは、おしっこじゃありませんから、漏らしても大丈夫です」
「ん、ん……っ!」
射精が近いのだろう。コクコクと必死に頷くアルバートを励ますように、握られたままの左手を捻り、彼の左手を握り返せば、股の間に収まる細い体がぶるりと震えた。
「んんっ……!」
ビクンッと跳ねた小さな体躯とか細い嬌声で、アルバートが絶頂したことを知る。
腕の中、くったりと胸に寄りかかるアルバートに、無意識の内に食い縛っていた歯の合わせを解いた。
(終わった……)
謎の達成感に緊張の系が切れ、安堵から大きく息を吐く──直後、不意に鼻腔を突いた香りに、ヒュッと息を呑んだ。
空気に混じった独特な性の匂い。その発生源が、アルバートが吐精した精液の香りなのだと脳が認識した瞬間、考えるよりも速く体が動いていた。
風呂から上がったばかりだったために手にしたままだったタオル。傍らに置いていた大判のそれを引っ掴むと、アルバートの下半身を隠すように広げた。
そのまま股の間に座る軽い体を持ち上げると、その隙に立ち上がり、アルバートをベッドの縁に再び座らせた。
「……?」
突然のことに頭が追いつかないのだろう。キョトンとした表情のアルバートに見つめられ、咄嗟に視線を逸らした。
「……初めてのことで、疲れたでしょう? 体を清めるための湯をお待ちしますから、休んでいてください」
他に言うべき言葉があるのかもしれないが、今はあれこれと考える余裕もない。
アルバートの視線から逃げるように窓辺に向かうと、換気のために半分だけ窓を開け、すぐさま部屋の扉へと向かった。
「テオドール……」
ドアノブに手を掛けた瞬間、背後から聞こえた弱々しい声。そこに滲んだ不安に、グッと背筋を伸ばすと、後ろを振り返った。
「すぐ戻りますから、大丈夫ですよ」
アルバートの不安を振り払うように、努めて明るい声音で返事をすれば、少し安心したのか、「ん……」と小さな頷きが返ってきた。
それに笑みを返し、テオドールはゆっくりと部屋を出た。
行き場のない疑問と動揺、混乱を口に出さぬよう、テオドールは奥歯を食い縛ると、漏れそうになる唸り声をなんとか飲み込んだ。
「テオドール? どうかした?」
「いえ、なんにも、はい、大丈夫です」
一体何が大丈夫なのか、まったく大丈夫ではない現状に天を仰いだ。
今、ベッドに座る自身の股の間には、アルバートが座っている。
開いた足の間にちょこんと収まった小さな体と、胸元に当たる後頭部。こんな風に誰かと密着するのは初めてで落ち着かないのに、子ども体温が心地良くて、つい離れ難く思ってしまう──が、今はそんな暢気なことを考えている場合ではない。
(本当に、どうしてこうなった……)
再び性器が勃起してしまったアルバート。それ事態は自然現象なので仕方ない。だが何を思ってか、アルバートは「治し方を教えて?」と言ってきたのだ。
『だって、どうしたらいいか分かんないもん……テオドールも、おちんちん固くなるんでしょ? どうしたら、固いの治るの?』
どうやらアルバートは夢精で精通を迎えたらしい。下半身の違和感で目覚め、精液で下着が汚れていることに動転したたまま、自分の元へ来たのだと言った。
それを証明するように、下着は汚れたままで、慌てて脱がせたところまでは良かったのだが、そこからの流れが良くなかった。
アルバートは替えの下着も履かず、「固くなったおちんちんはどうしたらいいの?」と、恥ずかしげもなく性器を見せてきたのだ。
肉体的にも精神的に幼いせいか、はたまた無知故の純粋さか、勃起した性器を見せられた自分の方がよほど慌てふためいた。
「他人に安易に性器を見せてはいけません!」と半ば叱るように叫びながら目を逸らせば、アルバートがポツリと呟いた。
『……テオドールは他人じゃないもん』
落ち込んだ声音に、ハッとしてアルバートに視線を戻せば、不満げに頬を膨らませた彼と目が合った。
そうして動揺してる間に、再びベッドに座るよう促された。『他人』という単語で彼を傷つけてしまったかもしれないという動揺から断ることもできず、大人しくその言葉に従ったのだが……瞬く間に足の間に収まってしまったアルバートに、気づけば今の状態になっていた。
「おちんちんが見えなければいいんでしょ?」というのが彼の弁だが、そうではないと全力で言い返したい。しかし、また不用意な言葉で彼を傷つけてしまったらと思うと、下手に言い返すこともできなかった。
そんなどうにもならない現状と、自分以外に教える者がいないという現実に、観念して指導しようと試みるも、何をどう教えたらいいのかまったく分からず途方に暮れた。
(世の親達は一体どうやって教えてるんだ!?)
子もいなければ、子育ての経験もない。当然のことながら、自慰の仕方を聞かれたことも、教えたこともない。
自分の時はどうだっただろうか、と必死に記憶を掘り起こせば、兄達がそれとなく教えてくれた思い出が蘇る。
(確か、兄上は言葉で教えてくれたけど……)
自分もアルバートと同じで、精通した時は怖くて、悪い病気にでもなってしまったのではないか、と半泣きになりながら兄達を頼った。
両親より兄達と仲が良かったこともあり、深く考えずに兄を頼ってしまったが、今思えば、長兄も次兄も相当困っただろう。
それでも、弟である自分をあしらうでも揶揄うでもなく、きちんと精通について教えてくれた兄達は本当に人格者であり、頼れる存在だったと改めて思う。
なればこそ、自分も兄のように……と思うが、正直なところ、アルバートに「おちんちんを扱くんですよ」と言っても、「扱くってどうやって?」と返ってきそうで怖い。まして「テオドールのおちんちんでやってみせて?」なんて言われようものなら、それこそとんでもないことになる。
純粋だからこそ恐ろしい無垢さに唸りそうになった時、はたとある方法を思いつく。
(このままの体勢で、身振り手振りで教えれば、なんとかなるだろうか……?)
幸い、アルバートからは自分が見えない。このまま視線をどこか遠くへやりながら、口頭での説明に加え、身振り手振りで教えれば、なんとかなるのでは──そんな淡い期待が芽生え、コクリと息を呑んだ。
「……では、やり方をお教えしますね」
「うん!」
「ですがアルバート様、これはあくまで基本的なもので、正解という訳ではありません。以降はご自身のやり易い形に変えていくものだということを覚えておいてくださいね?」
「分かった」
コクンと素直に頷く姿にホッとすると、視線をアルバートから外した。
「ではまず、陰け……んんっ、おちんちんをこうして、自分の手で握ってください」
アルバートに見えるように、自身の手を筒を握るような形に変える。
「痛くない程度、気持ち良いと思えるくらいの強さで大丈夫ですよ」
「はい」
「握ったら、次はこう……その、おちんちんを擦るように、上下に手を動かしてみてください」
言いながら、手本となるように手を動かすも、どうにも自分自身を慰めている時のそれと同じ動きになってしまい、耳が熱くなる。
雑念を消し、「これは手本だ」と念じていると、不意に「ん……」と吐息混じりの小さな声が聞こえ、体が硬直した。
「なんか、変な感じ……」
そう言いながら、ゆっくりと性器を扱き始めたらしいアルバートに、幼な子にいけないことを教えているような罪悪感に襲われる。
精通を迎えたのだから、アルバートももう半分大人だ。それでも、どうしたって見た目には幼い子どもにしか見えなくて、罪の意識から今すぐにでも逃げ出したくなる。
幸い、自分の視点からはアルバートの表情も下半身も見えないが、もじもじと揺れる腰や、ぎこちない手の動きが密着した面から伝わってきて、目の前でアルバートが自慰行為をしている現実に、恥ずかしくて堪らない気持ちになる。……と、そこであることに気づき、ハッとする。
(自分はもうこの場にいなくてもいいのでは……?)
本来、自慰行為は人目を忍んでこっそりと行うものだ。人前でやるようなことではない。
やり方は教えたのだから、もう自分がここにいる必要はないはず──浮かんだ妙案に小さく拳を握ると、アルバートの後頭部が当たる胸を僅かに引いた。
「アルバート様、やり方はお教えした通りです。それと、自慰行為は人前で行うものではございません。あとはお一人で……」
「や、やだ!」
自分がこの場を離れようとしていることを察知したのだろう。バッと後ろを振り返ったアルバートが縋るようにこちらを見上げ、同時に太腿の上に置いていた左手をぎゅうっと掴んだ。
「っ……」
「一緒にいて!」
「ですが……」
「お願い! 最後まで一緒にいて……!」
「……畏まりました」
赤く染まった頬と同じ色の潤んだ瞳で見つめられ、『否』と言えるような強さを自分は備えていない。
「最後まで」ということはつまり、アルバートが射精するまで、ということだろう。
逃げようのない今に、なんとも言えない敗北感と焦燥感を飲み込むと、何度目か分からない覚悟を決めた。
「ぁ、きもち……、気持ちいい……っ」
「……ええ、良うございました」
本当の本当に、叶うならば今すぐ逃げ出したい。
純真故か、初めての快楽を素直に受け止めるアルバートの幼い喘ぎ声に、焼けそうなほど耳が熱くなり、心臓がバクバクと暴れ回る。
(ごめんなさい、ごめんなさい……!)
艶を含んだ愛らしい声に、背徳感がピークに達する。今すぐにでも耳を塞いでしまいたいが、それをしてはいけないことくらい分かっている。
聞いてはいけないものを聞いてしまっている罪悪感から、心の内でひたすらに謝罪していると、不意にアルバートの動きが止まった。
「……テオドール?」
「は、はい」
「手、震えてるけど、大丈夫……?」
「あ、い、いえ」
羞恥と罪悪感、背徳感を堪えるように握り締めていた拳の震えを指摘され、ドキリとした瞬間、アルバートが背後を振り返り、紅潮した頬をふわりと緩めた。
「ふふ、お顔真っ赤」
「!!」
「可愛いね」
「っ……!?」
可愛いのは貴方だ──!!
そう言ってしまいそうになる口を必死に縫い止め、奥歯を噛み締める。
整った面立ちをほにゃりと緩めて笑うアルバートは、本当に天使のように可愛らしい。それでいて、初めての快楽で蒸気した頬は妙に色っぽく、子どもと大人の境目に立つ、不安定で儚げな少年の色香が漂っていた。
(……まずい)
ドクリ、と一際大きく心臓が血を送り出すのと重なるように、性器を擦るアルバートの手の動きが速くなる。
「ぁ…っ、テオドール、テオドール……ッ」
「っ……」
名を呼ばれ、体温が一気に上昇する。恐らく、そこに意味はないのだろう。
たまたま側にいるのが自分で、無意識の内に頼ろうとする気持ちから、名を呼んでいるだけ。そこに特別な感情などないはず──そう思うのに、まるで懸想の念が籠っているようなアルバートの声に、頭がクラクラしてくる。
「テオ、テオドール……ッ、漏れる、漏れちゃうっ……!」
「……大丈夫ですよ。それは、おしっこじゃありませんから、漏らしても大丈夫です」
「ん、ん……っ!」
射精が近いのだろう。コクコクと必死に頷くアルバートを励ますように、握られたままの左手を捻り、彼の左手を握り返せば、股の間に収まる細い体がぶるりと震えた。
「んんっ……!」
ビクンッと跳ねた小さな体躯とか細い嬌声で、アルバートが絶頂したことを知る。
腕の中、くったりと胸に寄りかかるアルバートに、無意識の内に食い縛っていた歯の合わせを解いた。
(終わった……)
謎の達成感に緊張の系が切れ、安堵から大きく息を吐く──直後、不意に鼻腔を突いた香りに、ヒュッと息を呑んだ。
空気に混じった独特な性の匂い。その発生源が、アルバートが吐精した精液の香りなのだと脳が認識した瞬間、考えるよりも速く体が動いていた。
風呂から上がったばかりだったために手にしたままだったタオル。傍らに置いていた大判のそれを引っ掴むと、アルバートの下半身を隠すように広げた。
そのまま股の間に座る軽い体を持ち上げると、その隙に立ち上がり、アルバートをベッドの縁に再び座らせた。
「……?」
突然のことに頭が追いつかないのだろう。キョトンとした表情のアルバートに見つめられ、咄嗟に視線を逸らした。
「……初めてのことで、疲れたでしょう? 体を清めるための湯をお待ちしますから、休んでいてください」
他に言うべき言葉があるのかもしれないが、今はあれこれと考える余裕もない。
アルバートの視線から逃げるように窓辺に向かうと、換気のために半分だけ窓を開け、すぐさま部屋の扉へと向かった。
「テオドール……」
ドアノブに手を掛けた瞬間、背後から聞こえた弱々しい声。そこに滲んだ不安に、グッと背筋を伸ばすと、後ろを振り返った。
「すぐ戻りますから、大丈夫ですよ」
アルバートの不安を振り払うように、努めて明るい声音で返事をすれば、少し安心したのか、「ん……」と小さな頷きが返ってきた。
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