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プティ・フレールの愛し子
116.誓いと望み(中)
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(そう、誓ったばかりなんですけどね…)
戒めのような誓いを立ててから、まだ一日。
昨日の今日で早くも試されている今に、再び零れそうになった溜め息をグッと飲み込んだ。
「…本当に、オリヴィアがアニーの側にいてくれて良かったよ。俺達にはそんな風に考える余裕もなければ、判断もできなかっただろうからな」
短い沈黙の後、最初に口を開いたのはルカーシュカだった。その言葉に無言で同意すれば、オリヴィアが浅く首を垂れた。
オリヴィアが語った奥の宮でのバルドル神とアドニスのやりとりについて、一番気になったのは、バルドル神の触れ合いの多さだった。
アドニスからも、常にその腕に抱かれていたとは聞いていたが、オリヴィアが側にいて何故そのようなことになるのか、きちんと彼の方を制御してほしいと思わずにはいられなかった。
だが、そんな気持ちも、アドニスの安全を考慮した上で、あえてバルドル神の望むままにしていたのだと聞かされ、納得せざるを得なくなってしまった。
『バルドル様がアドニス様に向ける愛情は、プティに対するそれと変わりません。それを変えぬためにも、今のまま、幼い我が子として存分に愛でて頂いた方が、アドニス様にとっても一番安全かと思います』
アドニスの安全を願うのなら、父子として情を交わす妨げをするべきではない───側で二人を見ていたからこそ、なにより、バルドル神の最側近として、常にその思考に触れている彼だからこそ、そう判断したのだろう言葉と行動は非常に重く、説得力があった。
『神』という特別な存在故のバルドル神の愛情表現は、皆が危惧していたことだった。
万が一にも、体を交えるような情を求められてしまったら…そんな我々の不安を理解した上で、だからこそ、バルドル神とアドニスの交流を抑えるべきではないと告げたオリヴィアに、口を噤むことしかできなかった。
(…エルダは悔しいでしょうね)
チラリとエルダに視線を向ければ、俯き、唇を噛む姿が目に映った。
今のエルダは、本来の姿ではなく、アドニスに仕えている時の少年のそれだ。あえてその姿でいるのは、あくまで“アドニスの従者として”、この場にいたいと彼が願ったからだ。
同行を許されなかっただけでも、エルダにとっては苦痛だろうに、従者としての役目において、奥の宮ではオリヴィアの方が優れているという事実は、悔しくて堪らないだろう。
とはいえ、自分は勿論、ルカーシュカも、そしてエルダも、オリヴィアのようにバルドル神とアドニスが仲睦まじく過ごす様子をただ黙って見守るなんてこと、とてもじゃないができない。
どうあっても不安と焦燥から、アドニスからバルドル神を遠ざけようとしてしまうはずだ。
「……オリヴィアに任せるのが、一番のようですね」
諦めにも似た感情から自然と漏れた言葉に、ルカーシュカは頷き、エルダは無言のまま瞳を伏せた。
「そうだな。アニーの意思を尊重した上で、安全を考えるなら、オリヴィアに側に付いていてもらうのが一番安心だ」
「確認ですが、アニーが奥の宮へ向かう時は、オリヴィアが同行するという認識でいいんですね?」
「はい。私にお声掛け下さいとお願いしておりますし、必ずお供致します。私も、アドニス様が望まぬ愛情を、バルドル様から与えられることは避けたいと思っておりますので…」
「ええ、何に代えても阻止しなさい」
つい命令じみた言い方になってしまったが、致し方ない。自分達がアドニスの側にいられない以上、オリヴィアに託すしかないのだ。
(それでも、オリヴィアだから安心できる部分もあるんですよね)
オリヴィアはバルドル神の最側近であり、あらゆる面で神を補佐しながら、天使達との間に立ち、調整と調和を行う者だ。
バルドル神に仕えることを最たる願いとしながら、周囲に対しても常に公平である彼は、時に神を諫め、抑える役目も担っている。
アドニスとバルドル神との間に立ち、上手く双方の望みを叶えながら、危うい部分を削ぎ落とすことができるのは、恐らくオリヴィア以外にいないだろう。
なにより、オリヴィアはアドニスに対して、特別な感情を抱いていない。
オリヴィアのアドニスに対する言動も、行動も、距離感も、他者に対するそれらと変わらない。強いて言うなら、幼い弟達に対するそれに近い程度だ。
アドニスを必要以上に特別視せず、態度を変えず、あの子の安全を最優先してくれるオリヴィアだからこそ、余計な嫉妬も不安も抱かずに、アドニスのことを任せようと思えるのだろう。
まぁ、だからと言って、なんの憂いもなく送り出せるかと言ったら、それは別問題なのだが。
「…本当に、頼みますよ」
念を押すように告げれば、苦笑が返ってきた。
「承知しております。ただ、できましたらアドニス様にも、気を配って頂けましたら幸いです」
「アニーに?」
「正確に言えば、アドニス様がバルドル様を意識されないよう、皆様に気をつけて頂きたいのです」
「っ…」
その言葉に、ドキリと心臓が萎縮した。
「アドニス様は大変素直な方でいらっしゃいます。今はバルドル様がプティのように可愛がられているので、それ相応の反応を返していらっしゃいますが、他の知識が加わることで、その反応に変化が起きてしまうかもしれません。アドニス様の反応が不自然になることで、バルドル様にも───いかがなさいました?」
オリヴィアの言葉が途切れ、それと同時に彼の視線が自分に向いた。
オリヴィアだけじゃない。ルカーシュカは呆れ気味に、エルダは困惑気味にこちらを見ており、その視線を辿ったオリヴィアがなんとも言えない顔で「あー…」と呟いた。
「残念ながら、既にやらかした後だ」
「…そのようですね」
「……本当にすみません」
同情を込めた声に、返す言葉もなく顔を覆った。
オリヴィアの言葉を要約するならば、『アドニスの安全を願うなら、アドニスがバルドル神を意識しないよう、不用意な発言や行動は控えてくれ』ということだろう。
(やはり、あの日の内にオリヴィアの話しを聞いておきたかったです…)
既にそれで一悶着起こした後であり、心底後悔したばかりの傷口を突かれ、心苦しさと居た堪れなさから、ぐぅ…と唸った。
「因みに、アドニス様のご様子は…?」
「幸いと言っていいのか分からんが、バルドル様に対する意識は変わっていないと思う」
「…そうですね。バルドル様に対するお気持ちに、変化はないように思います。それよりも、イヴァニエ様のことばかり気にされていらっしゃっいましたので……その、恐らくですが、イヴァニエ様とお話しした内容のほとんどは、忘れてしまわれているかと…」
気遣わしげなエルダの視線に、喜んでいいのか嘆いていいのか分からなくなる。
自分のことをずっと気にしてくれていたというアドニスの優しさと愛情はとても嬉しいが、ほんの少しでいいからこちらの心配も気にしてほしいと思ってしまう。
(今回に関しては、忘れてくれて良かったのでしょうけど…)
そんなことを考えながら、ふと浮かんだ考えが口をついて出た。
「…アニーはまだ、好意に対して鈍感ですからね…」
「そこは仕方ないだろう。実際に会って話せば、多少意識も変わるかもしれんが、基本的な考えは未だに変わってないからな」
浅く吐かれたルカーシュカの溜め息には、なんとも言えない不安が滲んでいた。
アドニスを連れ去り、自室のベッドに押し倒し、己の欲と不安を吐き出したあの瞬間。
他の大天使達がアドニスに好意を抱き、その身を攫ってしまうかもしれない…そう告げた時でさえ、見つめた金の瞳には、困惑と、心底『不可解』と言いたげな色がハッキリと浮かんでいた。
嫌われていて当たり前───生まれた時に植え付けられた思考が、そう簡単に変わるはずがない。
自分達とて、長い時間を掛け、ゆっくりと歩み寄り、ようやく好意を受け取ってもらえたのだ。
他の大天使から好意を向けられる可能性を伝えても、ピンとこないどころか、「なぜ?」と疑問を持つことすら難しいのだろう。
(他の大天使達に対する心配と、バルドル様に対する心配が同じ類であることも、理解してませんしね…)
自分やルカーシュカ、エルダが心配しているのはそこだ。
他の大天使達がアドニスに好意を寄せることで、あの子の精神を揺さぶることがないか、余計な不和を生まないか、柔く繊細な心を苦しめることがないか…それと同種の不安を、バルドル神に対しても抱いているからこそ、奥の宮へ向かうのも止めたいのだが、アドニスはそのことも理解できていない。
故に、どれだけ我々が「心配だ」と訴えても、「何が心配なのか分からない」という反応が返ってくるのだろう。
(……やはり不安だ)
自己防衛の意識は皆無で、どこまでも無防備なアドニスを心配するなという方が無理なのだ。
アドニスから愛されている自信も自覚もある。
愛らしく笑い、愛を告げるその姿への疑いもない。
だがそれとは別に、驚くほど無垢なアドニスが、知らぬ間に無理やりその身を奪われてしまうかもしれないという危険性は、徹底的に排除したいのだ。
だからこそ、奥の宮へ向かうことを反対したのだが───…
「はぁ……」
どうにもままならない現実に、何度目かの溜め息が漏れた。
バルドル神の領域に、無防備なまま向かおうとするアドニスに、心は未だに「嫌だ」と抵抗するも、己の愚行を猛省し、アドニスの意思を尊重すると決めた今、オリヴィアを信じて送り出すほか道はないのだ。
「…アニーの警戒心が育つのは、いつになるんでしょうね」
ポツリと零れた声に、ルカーシュカは肩を竦めた。
「当分は無理だろうな。そもそも、育つための種があるかどうか」
「くっ…」
臆病で怖がりだが、危機感も警戒心もなく、純真無垢で天真爛漫。
恋人の欲目を抜きにしても、アドニスは魅力的だ。
そんな子だからこそ、外に出すのも、他の者達の目に触れさせるのも嫌なのに…
(…まだ、割り切れませんね)
性懲りもなく湧く独占欲と嫉妬心を振り払うように、ふるりと頭を振る。
同じ過ちは、二度と起こさない。その誓いを胸の内で呟くと、気持ちを切り替えるように息を吐いた。
「…奥の宮については、オリヴィアに任せるしかありませんが、だからと言って、ただアニーを送り出すことはできません」
「勿論だ。最低限の保険はほしい」
返ってきた力強い返事に、コクリと頷く。
「ひとまず、加護を付与した装飾品を増やそう。腕輪だけじゃ不安だ」
「いっそ結界を張れるものにしませんか? 一時的な簡易結界であれば、発動させることも可能でしょう」
「あとは護身のためにも、軽く攻撃できるといいんだがな…」
「…イヴァニエ様、ルカーシュカ様。私がお側にいますので、そこまで厳重になさらなくても大丈夫ですよ。あと、攻撃するのはやめて下さい」
「ああ、オリヴィアのことは信じてるよ。だが奥の宮へ行くのとは関係なく、アニーの守りは強化したいからな」
「……左様で」
言外に「他の大天使達に対する警戒もある」と伝えれば、オリヴィアが呆れ気味に頷いた。
「…あの、私からもよろしいでしょうか?」
と、それまで黙っていたエルダが、おもむろに口を開いた。
「アドニス様にお供できないのは納得できませんが、お許しが頂けないので致し方ありません」
「納得できないんですね…」
「ですが、奥の宮で何をされているのか、分からないままお見送りするのは嫌です。…オリヴィア、あなたの能力で、離れた場所にいるアドニス様のお姿を映すことができますよね?」
エルダが言っているのは、恐らく『水鏡』のことだろう。オリヴィアの特異体質により作り出された水の魚を通して、遠くの風景を水の壁に映すことができる能力だ。
「アドニス様のお側にいられないのであれば、せめて何をされているのか、お姿だけでも見守りたいです」
「姿が見えるのであれば、私達も幾分安心ですね。オリヴィア、頼めますか?」
「それが皆様の御心の平穏に繋がるのであれば、承ります」
「あとは、お声も聞きたいです。いえ、私の声を届け……アドニス様と会話をすることはできますか?」
「エルダは遠慮がないですね」
「やれやれ」と言いたげに肩を竦めつつ、オリヴィアからいくつかの提案が出される。
そこからエルダの希望に沿うように、二人で短い相談を終えると、エルダが満足気に頷いた。
「アドニス様のお側にいられないのは非常に悔しいですが、最低限の安全を確認できるのであれば我慢します」
「我慢してこれですか…」
ほぼ同行しているに等しいエルダからの要望に、乾いた笑みを浮かべるオリヴィアだったが、エルダ同様、ここまでしないと心配でならないのだから仕方ない。
「誰か一人でも同行できればと思っていましたが、そちらは難しいでしょうしね……様子が分かるだけでも、上々としましょう」
実のところ、オリヴィアの報告を聞くまでは、アドニスに同行して奥の宮へ立ち入る許可を頂けないか、バルドル神に嘆願するつもりだった。
勿論、その望みが叶う可能性は極めて低く、別の策を講じる必要があったのだが、幸か不幸か、その必要もなくなった。
(ですが…)
だからと言って、全てを諦めるつもりはない。
「ただ、万が一の時に奥の宮に立ち入ることができるよう、予め許しをもらいたいですね」
常に同行させてほしいと言うのではない。
アドニスの身に何か起こった場合、もしくはオリヴィアだけでは対処できない何かが起こった場合のみ、奥の宮へと立ち入ることができるよう、事前に許可を頂いておきたいのだ。
「それについては当然だな。むしろその許可を頂けないのなら、アニーを説得して、奥の宮へ行くのは諦めてもらうしかないだろう」
「……アニーの自由を奪うつもりはないのでは?」
「勿論、自由でいてほしいさ。だからって、何かあった時に駆けつけることができないような場所に、アニーを行かせる訳がないだろう?」
「わざわざ奥の宮まで行かなくても、バルドル様には会えるんだからな」…そう告げるルカーシュカの声音は、普段のそれと変わらぬものだったが、その眼差しには絶対的な拒絶の色が含まれていて、少しだけ感心してしまった。
普段から己の欲をあまり表に出さず、我々の中では恐らく一番理性的な彼だが、どうやら庇護欲は一際強いようだ。
アドニスの自由は尊ぶが、それはあくまで守れる範囲の話───ハッキリと告げられた言葉は、自身の悋気とは異なる類の欲で、なぜか妙にホッとした。
(…結局、私も彼も、エルダも、皆同類なんでしょうね)
愛し方も、愛情の伝え方も違うのに、望むことは皆一緒。
アドニスという唯一を共に愛する者同士だからこそ得られる共感に、ひどく安心している自分がいた。
「…なんにせよ、バルドル様とご相談する必要がありますね。オリヴィア、頼めますか?」
「お任せ下さい」
バルドル神に願うことは多くない。伝え方さえ間違えなければ、恐らくなんとかなるだろう。
(奥の宮については、一旦これでいいでしょう…)
「…あとは、他の者達との交流についてですね」
自分で言ってて嫌になり、眉間に皺が寄った。それに気づいたのだろうルカーシュカが、心底面倒くさいと言いたげに顔を顰める。
「いい加減、諦めろ」
「嫌なものは嫌なんですから無理です。アニーがいない時だけでも、正直でいたっていいじゃないですか」
「アニーの前でも正直だろうが」
恐らくは「嫉妬させてくれ」と宣言したことについて言っているのだろうが、こればっかりはどうやっても感情を抑えられないのだから仕方ない。
アドニスを傷つけるようなことは言わないし、したくないが、それはそれ、これはこれだ。むしろ堂々としていて良いではないかとすら思っている。
「アニーの許しはもらえたのですから、正直でいいんです」
「…ほどほどにしろよ」
「分かってます。…それより、これからについてです。アニーは、一人ずつ話せるようになりたいと言っていましたが、いきなり話せるものでもないでしょうし、なるべく慎重に進めたいです」
性懲りもなく腹の底から湧き上がる己の欲を飲み込むと、なるべく平坦な声で一気に言い切る。
「ああ、無意識なんだろうが、自室じゃなくて俺やイヴァニエの離宮で他のヤツらと会おうとしてたあたり、アニーにもまだ迷いや不安があるんだろう」
「……無理に会わなくてもいいと思うんですけどね」
「イヴァニエ」
「今のは半分はアニーの心労を心配しての発言です」
「…まぁいい。とりあえず、いきなり大人数を相手にしないでいいのは、俺達にとっても有り難い。まずはそうだな……俺達とアイツが話してる様子を、アニーには離れた場所から見ててもらうところから始めようか」
「観察期間ですね」
「そうだ。いきなり向かい合って座っても、俺達の時の二の舞になるだけだしな。なぁ、エルダ?」
「…左様でございますね。まずはお相手がどのような方なのか、知って頂いてからの方が、アドニス様のご負担も少ないはずです。お話しをされるのは、ある程度慣れてからでもよろしいかと」
エルダの返事を聞きながら、コクコクと頷く。
恐らく、アドニスが想像している初対面とは異なる形になるだろうが、アドニスも、そして自分達も、『第三者がいる空間』に慣れる時間が必要だ。遠回りになろうが、慎重すぎるくらいでちょうどいい。
「…あの、よろしいでしょうか?」
会話の切れ目、傍らで静かに控えていたオリヴィアが、遠慮がちに声を発した。
「どうしました?」
「アドニス様のお話し相手ですが…もしやもう、決まっていらっしゃるのですか?」
「ええ、決まっていますよ」
意外だったのか、オリヴィアが僅かに目を見開いた。
「お差し支えなければ、どの方が皆様のお眼鏡に叶ったのか、お伺いしても?」
「…ええ」
彼のことだ。きっとバルドル神に報告するのだろう。
チラリとルカーシュカとエルダに目配せをすれば、浅い頷きが返ってきた。
それを確認すると、興味深げにこちらを見つめるオリヴィアに向かい、口を開いた。
「───シルヴェスト。彼にお願いしようと思っています」
戒めのような誓いを立ててから、まだ一日。
昨日の今日で早くも試されている今に、再び零れそうになった溜め息をグッと飲み込んだ。
「…本当に、オリヴィアがアニーの側にいてくれて良かったよ。俺達にはそんな風に考える余裕もなければ、判断もできなかっただろうからな」
短い沈黙の後、最初に口を開いたのはルカーシュカだった。その言葉に無言で同意すれば、オリヴィアが浅く首を垂れた。
オリヴィアが語った奥の宮でのバルドル神とアドニスのやりとりについて、一番気になったのは、バルドル神の触れ合いの多さだった。
アドニスからも、常にその腕に抱かれていたとは聞いていたが、オリヴィアが側にいて何故そのようなことになるのか、きちんと彼の方を制御してほしいと思わずにはいられなかった。
だが、そんな気持ちも、アドニスの安全を考慮した上で、あえてバルドル神の望むままにしていたのだと聞かされ、納得せざるを得なくなってしまった。
『バルドル様がアドニス様に向ける愛情は、プティに対するそれと変わりません。それを変えぬためにも、今のまま、幼い我が子として存分に愛でて頂いた方が、アドニス様にとっても一番安全かと思います』
アドニスの安全を願うのなら、父子として情を交わす妨げをするべきではない───側で二人を見ていたからこそ、なにより、バルドル神の最側近として、常にその思考に触れている彼だからこそ、そう判断したのだろう言葉と行動は非常に重く、説得力があった。
『神』という特別な存在故のバルドル神の愛情表現は、皆が危惧していたことだった。
万が一にも、体を交えるような情を求められてしまったら…そんな我々の不安を理解した上で、だからこそ、バルドル神とアドニスの交流を抑えるべきではないと告げたオリヴィアに、口を噤むことしかできなかった。
(…エルダは悔しいでしょうね)
チラリとエルダに視線を向ければ、俯き、唇を噛む姿が目に映った。
今のエルダは、本来の姿ではなく、アドニスに仕えている時の少年のそれだ。あえてその姿でいるのは、あくまで“アドニスの従者として”、この場にいたいと彼が願ったからだ。
同行を許されなかっただけでも、エルダにとっては苦痛だろうに、従者としての役目において、奥の宮ではオリヴィアの方が優れているという事実は、悔しくて堪らないだろう。
とはいえ、自分は勿論、ルカーシュカも、そしてエルダも、オリヴィアのようにバルドル神とアドニスが仲睦まじく過ごす様子をただ黙って見守るなんてこと、とてもじゃないができない。
どうあっても不安と焦燥から、アドニスからバルドル神を遠ざけようとしてしまうはずだ。
「……オリヴィアに任せるのが、一番のようですね」
諦めにも似た感情から自然と漏れた言葉に、ルカーシュカは頷き、エルダは無言のまま瞳を伏せた。
「そうだな。アニーの意思を尊重した上で、安全を考えるなら、オリヴィアに側に付いていてもらうのが一番安心だ」
「確認ですが、アニーが奥の宮へ向かう時は、オリヴィアが同行するという認識でいいんですね?」
「はい。私にお声掛け下さいとお願いしておりますし、必ずお供致します。私も、アドニス様が望まぬ愛情を、バルドル様から与えられることは避けたいと思っておりますので…」
「ええ、何に代えても阻止しなさい」
つい命令じみた言い方になってしまったが、致し方ない。自分達がアドニスの側にいられない以上、オリヴィアに託すしかないのだ。
(それでも、オリヴィアだから安心できる部分もあるんですよね)
オリヴィアはバルドル神の最側近であり、あらゆる面で神を補佐しながら、天使達との間に立ち、調整と調和を行う者だ。
バルドル神に仕えることを最たる願いとしながら、周囲に対しても常に公平である彼は、時に神を諫め、抑える役目も担っている。
アドニスとバルドル神との間に立ち、上手く双方の望みを叶えながら、危うい部分を削ぎ落とすことができるのは、恐らくオリヴィア以外にいないだろう。
なにより、オリヴィアはアドニスに対して、特別な感情を抱いていない。
オリヴィアのアドニスに対する言動も、行動も、距離感も、他者に対するそれらと変わらない。強いて言うなら、幼い弟達に対するそれに近い程度だ。
アドニスを必要以上に特別視せず、態度を変えず、あの子の安全を最優先してくれるオリヴィアだからこそ、余計な嫉妬も不安も抱かずに、アドニスのことを任せようと思えるのだろう。
まぁ、だからと言って、なんの憂いもなく送り出せるかと言ったら、それは別問題なのだが。
「…本当に、頼みますよ」
念を押すように告げれば、苦笑が返ってきた。
「承知しております。ただ、できましたらアドニス様にも、気を配って頂けましたら幸いです」
「アニーに?」
「正確に言えば、アドニス様がバルドル様を意識されないよう、皆様に気をつけて頂きたいのです」
「っ…」
その言葉に、ドキリと心臓が萎縮した。
「アドニス様は大変素直な方でいらっしゃいます。今はバルドル様がプティのように可愛がられているので、それ相応の反応を返していらっしゃいますが、他の知識が加わることで、その反応に変化が起きてしまうかもしれません。アドニス様の反応が不自然になることで、バルドル様にも───いかがなさいました?」
オリヴィアの言葉が途切れ、それと同時に彼の視線が自分に向いた。
オリヴィアだけじゃない。ルカーシュカは呆れ気味に、エルダは困惑気味にこちらを見ており、その視線を辿ったオリヴィアがなんとも言えない顔で「あー…」と呟いた。
「残念ながら、既にやらかした後だ」
「…そのようですね」
「……本当にすみません」
同情を込めた声に、返す言葉もなく顔を覆った。
オリヴィアの言葉を要約するならば、『アドニスの安全を願うなら、アドニスがバルドル神を意識しないよう、不用意な発言や行動は控えてくれ』ということだろう。
(やはり、あの日の内にオリヴィアの話しを聞いておきたかったです…)
既にそれで一悶着起こした後であり、心底後悔したばかりの傷口を突かれ、心苦しさと居た堪れなさから、ぐぅ…と唸った。
「因みに、アドニス様のご様子は…?」
「幸いと言っていいのか分からんが、バルドル様に対する意識は変わっていないと思う」
「…そうですね。バルドル様に対するお気持ちに、変化はないように思います。それよりも、イヴァニエ様のことばかり気にされていらっしゃっいましたので……その、恐らくですが、イヴァニエ様とお話しした内容のほとんどは、忘れてしまわれているかと…」
気遣わしげなエルダの視線に、喜んでいいのか嘆いていいのか分からなくなる。
自分のことをずっと気にしてくれていたというアドニスの優しさと愛情はとても嬉しいが、ほんの少しでいいからこちらの心配も気にしてほしいと思ってしまう。
(今回に関しては、忘れてくれて良かったのでしょうけど…)
そんなことを考えながら、ふと浮かんだ考えが口をついて出た。
「…アニーはまだ、好意に対して鈍感ですからね…」
「そこは仕方ないだろう。実際に会って話せば、多少意識も変わるかもしれんが、基本的な考えは未だに変わってないからな」
浅く吐かれたルカーシュカの溜め息には、なんとも言えない不安が滲んでいた。
アドニスを連れ去り、自室のベッドに押し倒し、己の欲と不安を吐き出したあの瞬間。
他の大天使達がアドニスに好意を抱き、その身を攫ってしまうかもしれない…そう告げた時でさえ、見つめた金の瞳には、困惑と、心底『不可解』と言いたげな色がハッキリと浮かんでいた。
嫌われていて当たり前───生まれた時に植え付けられた思考が、そう簡単に変わるはずがない。
自分達とて、長い時間を掛け、ゆっくりと歩み寄り、ようやく好意を受け取ってもらえたのだ。
他の大天使から好意を向けられる可能性を伝えても、ピンとこないどころか、「なぜ?」と疑問を持つことすら難しいのだろう。
(他の大天使達に対する心配と、バルドル様に対する心配が同じ類であることも、理解してませんしね…)
自分やルカーシュカ、エルダが心配しているのはそこだ。
他の大天使達がアドニスに好意を寄せることで、あの子の精神を揺さぶることがないか、余計な不和を生まないか、柔く繊細な心を苦しめることがないか…それと同種の不安を、バルドル神に対しても抱いているからこそ、奥の宮へ向かうのも止めたいのだが、アドニスはそのことも理解できていない。
故に、どれだけ我々が「心配だ」と訴えても、「何が心配なのか分からない」という反応が返ってくるのだろう。
(……やはり不安だ)
自己防衛の意識は皆無で、どこまでも無防備なアドニスを心配するなという方が無理なのだ。
アドニスから愛されている自信も自覚もある。
愛らしく笑い、愛を告げるその姿への疑いもない。
だがそれとは別に、驚くほど無垢なアドニスが、知らぬ間に無理やりその身を奪われてしまうかもしれないという危険性は、徹底的に排除したいのだ。
だからこそ、奥の宮へ向かうことを反対したのだが───…
「はぁ……」
どうにもままならない現実に、何度目かの溜め息が漏れた。
バルドル神の領域に、無防備なまま向かおうとするアドニスに、心は未だに「嫌だ」と抵抗するも、己の愚行を猛省し、アドニスの意思を尊重すると決めた今、オリヴィアを信じて送り出すほか道はないのだ。
「…アニーの警戒心が育つのは、いつになるんでしょうね」
ポツリと零れた声に、ルカーシュカは肩を竦めた。
「当分は無理だろうな。そもそも、育つための種があるかどうか」
「くっ…」
臆病で怖がりだが、危機感も警戒心もなく、純真無垢で天真爛漫。
恋人の欲目を抜きにしても、アドニスは魅力的だ。
そんな子だからこそ、外に出すのも、他の者達の目に触れさせるのも嫌なのに…
(…まだ、割り切れませんね)
性懲りもなく湧く独占欲と嫉妬心を振り払うように、ふるりと頭を振る。
同じ過ちは、二度と起こさない。その誓いを胸の内で呟くと、気持ちを切り替えるように息を吐いた。
「…奥の宮については、オリヴィアに任せるしかありませんが、だからと言って、ただアニーを送り出すことはできません」
「勿論だ。最低限の保険はほしい」
返ってきた力強い返事に、コクリと頷く。
「ひとまず、加護を付与した装飾品を増やそう。腕輪だけじゃ不安だ」
「いっそ結界を張れるものにしませんか? 一時的な簡易結界であれば、発動させることも可能でしょう」
「あとは護身のためにも、軽く攻撃できるといいんだがな…」
「…イヴァニエ様、ルカーシュカ様。私がお側にいますので、そこまで厳重になさらなくても大丈夫ですよ。あと、攻撃するのはやめて下さい」
「ああ、オリヴィアのことは信じてるよ。だが奥の宮へ行くのとは関係なく、アニーの守りは強化したいからな」
「……左様で」
言外に「他の大天使達に対する警戒もある」と伝えれば、オリヴィアが呆れ気味に頷いた。
「…あの、私からもよろしいでしょうか?」
と、それまで黙っていたエルダが、おもむろに口を開いた。
「アドニス様にお供できないのは納得できませんが、お許しが頂けないので致し方ありません」
「納得できないんですね…」
「ですが、奥の宮で何をされているのか、分からないままお見送りするのは嫌です。…オリヴィア、あなたの能力で、離れた場所にいるアドニス様のお姿を映すことができますよね?」
エルダが言っているのは、恐らく『水鏡』のことだろう。オリヴィアの特異体質により作り出された水の魚を通して、遠くの風景を水の壁に映すことができる能力だ。
「アドニス様のお側にいられないのであれば、せめて何をされているのか、お姿だけでも見守りたいです」
「姿が見えるのであれば、私達も幾分安心ですね。オリヴィア、頼めますか?」
「それが皆様の御心の平穏に繋がるのであれば、承ります」
「あとは、お声も聞きたいです。いえ、私の声を届け……アドニス様と会話をすることはできますか?」
「エルダは遠慮がないですね」
「やれやれ」と言いたげに肩を竦めつつ、オリヴィアからいくつかの提案が出される。
そこからエルダの希望に沿うように、二人で短い相談を終えると、エルダが満足気に頷いた。
「アドニス様のお側にいられないのは非常に悔しいですが、最低限の安全を確認できるのであれば我慢します」
「我慢してこれですか…」
ほぼ同行しているに等しいエルダからの要望に、乾いた笑みを浮かべるオリヴィアだったが、エルダ同様、ここまでしないと心配でならないのだから仕方ない。
「誰か一人でも同行できればと思っていましたが、そちらは難しいでしょうしね……様子が分かるだけでも、上々としましょう」
実のところ、オリヴィアの報告を聞くまでは、アドニスに同行して奥の宮へ立ち入る許可を頂けないか、バルドル神に嘆願するつもりだった。
勿論、その望みが叶う可能性は極めて低く、別の策を講じる必要があったのだが、幸か不幸か、その必要もなくなった。
(ですが…)
だからと言って、全てを諦めるつもりはない。
「ただ、万が一の時に奥の宮に立ち入ることができるよう、予め許しをもらいたいですね」
常に同行させてほしいと言うのではない。
アドニスの身に何か起こった場合、もしくはオリヴィアだけでは対処できない何かが起こった場合のみ、奥の宮へと立ち入ることができるよう、事前に許可を頂いておきたいのだ。
「それについては当然だな。むしろその許可を頂けないのなら、アニーを説得して、奥の宮へ行くのは諦めてもらうしかないだろう」
「……アニーの自由を奪うつもりはないのでは?」
「勿論、自由でいてほしいさ。だからって、何かあった時に駆けつけることができないような場所に、アニーを行かせる訳がないだろう?」
「わざわざ奥の宮まで行かなくても、バルドル様には会えるんだからな」…そう告げるルカーシュカの声音は、普段のそれと変わらぬものだったが、その眼差しには絶対的な拒絶の色が含まれていて、少しだけ感心してしまった。
普段から己の欲をあまり表に出さず、我々の中では恐らく一番理性的な彼だが、どうやら庇護欲は一際強いようだ。
アドニスの自由は尊ぶが、それはあくまで守れる範囲の話───ハッキリと告げられた言葉は、自身の悋気とは異なる類の欲で、なぜか妙にホッとした。
(…結局、私も彼も、エルダも、皆同類なんでしょうね)
愛し方も、愛情の伝え方も違うのに、望むことは皆一緒。
アドニスという唯一を共に愛する者同士だからこそ得られる共感に、ひどく安心している自分がいた。
「…なんにせよ、バルドル様とご相談する必要がありますね。オリヴィア、頼めますか?」
「お任せ下さい」
バルドル神に願うことは多くない。伝え方さえ間違えなければ、恐らくなんとかなるだろう。
(奥の宮については、一旦これでいいでしょう…)
「…あとは、他の者達との交流についてですね」
自分で言ってて嫌になり、眉間に皺が寄った。それに気づいたのだろうルカーシュカが、心底面倒くさいと言いたげに顔を顰める。
「いい加減、諦めろ」
「嫌なものは嫌なんですから無理です。アニーがいない時だけでも、正直でいたっていいじゃないですか」
「アニーの前でも正直だろうが」
恐らくは「嫉妬させてくれ」と宣言したことについて言っているのだろうが、こればっかりはどうやっても感情を抑えられないのだから仕方ない。
アドニスを傷つけるようなことは言わないし、したくないが、それはそれ、これはこれだ。むしろ堂々としていて良いではないかとすら思っている。
「アニーの許しはもらえたのですから、正直でいいんです」
「…ほどほどにしろよ」
「分かってます。…それより、これからについてです。アニーは、一人ずつ話せるようになりたいと言っていましたが、いきなり話せるものでもないでしょうし、なるべく慎重に進めたいです」
性懲りもなく腹の底から湧き上がる己の欲を飲み込むと、なるべく平坦な声で一気に言い切る。
「ああ、無意識なんだろうが、自室じゃなくて俺やイヴァニエの離宮で他のヤツらと会おうとしてたあたり、アニーにもまだ迷いや不安があるんだろう」
「……無理に会わなくてもいいと思うんですけどね」
「イヴァニエ」
「今のは半分はアニーの心労を心配しての発言です」
「…まぁいい。とりあえず、いきなり大人数を相手にしないでいいのは、俺達にとっても有り難い。まずはそうだな……俺達とアイツが話してる様子を、アニーには離れた場所から見ててもらうところから始めようか」
「観察期間ですね」
「そうだ。いきなり向かい合って座っても、俺達の時の二の舞になるだけだしな。なぁ、エルダ?」
「…左様でございますね。まずはお相手がどのような方なのか、知って頂いてからの方が、アドニス様のご負担も少ないはずです。お話しをされるのは、ある程度慣れてからでもよろしいかと」
エルダの返事を聞きながら、コクコクと頷く。
恐らく、アドニスが想像している初対面とは異なる形になるだろうが、アドニスも、そして自分達も、『第三者がいる空間』に慣れる時間が必要だ。遠回りになろうが、慎重すぎるくらいでちょうどいい。
「…あの、よろしいでしょうか?」
会話の切れ目、傍らで静かに控えていたオリヴィアが、遠慮がちに声を発した。
「どうしました?」
「アドニス様のお話し相手ですが…もしやもう、決まっていらっしゃるのですか?」
「ええ、決まっていますよ」
意外だったのか、オリヴィアが僅かに目を見開いた。
「お差し支えなければ、どの方が皆様のお眼鏡に叶ったのか、お伺いしても?」
「…ええ」
彼のことだ。きっとバルドル神に報告するのだろう。
チラリとルカーシュカとエルダに目配せをすれば、浅い頷きが返ってきた。
それを確認すると、興味深げにこちらを見つめるオリヴィアに向かい、口を開いた。
「───シルヴェスト。彼にお願いしようと思っています」
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